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七十一話 四日目 合わせ鏡の怪


外も外で絶望だが 二人の男性の足が急に止まることはなかった

階段を無我夢中で降りていくツムツムと染島はその勢いを止めることは出来ない


「ハァ…… ハァ……」


生徒がよく行う 階段を一気に飛び降りる二人だが 人を担いでは身体の負担は倍に

途中でくじくツムツムはそのまま谷下を抱えて下まで滑りコケてしまった


「痛って~~…… クソォ!!」


「ツムツム!!」


三階から二階へ下る階段

上を少しでも見上げれば黒い液体が谷下の頭上に垂れ流れてくる


「ウッ!!」


耳鳴りと共に映し出される時空を超越された全てをモニター越しに流れてくる

記憶の押し付けというよりは真理の安売りだ


「大丈夫か?!!」


「はい……」


ツムツムは谷下を抱えて起き上がろうとするが力が入らない

黒い波はすぐそこまで迫っており窮地に立たされる

遠くの方で千代子を床に寝かせる染島は駆け寄ってくるが

間に合わないのは目に見えての状況だと悟ったツムツムは谷下に耳打ちする


「お前は…… 救世主になれるんだろ……?」


「えっ…?」


「……フッ そう綴られてあるぜ」


最後の力を振り絞り 谷下の身体を染島へと投げ渡した

全身で受け止める染島が再度ツムツムのいる場所を見れば そこはすでに黒い川が流れている

うかうかしてられない三人は再び走り出す そして辿り着いた場所は


「ここって…… 〝あかずの間〟?」


「旧視聴覚室ですよね?」


散らかる小道具を掻き分けて奥へと進む三人

ふと外を見る染島は強張った表情から一変して穏やかになる

地鳴りと共に迫ってくるのが分かるフレアはもう目と鼻の先だ

気温が上昇して 各々の心もむしろ静かに 穏やかに昇華されていく心地良さ


「あ……」


足下から何かを拾う千代子 谷下が気になって見せてもらうと

それは疲れ切ったであろう酷くやつれた自分の顔を映す鏡だった


「もう寝れないな…… また新しい自分に頼むしか……」


「〝 あかずの間が開かれて 息子は父に会いに地獄へ招かれるだろう

合わせ鏡に問うべからず 自分と映し出されるもう一人の自分は別人なのだから

私達は母の娘 二人は仲良く さすれば互いに妬む心も生まれることは無かろう 〟」


「どうしたの千代子ちゃん?」


「学校七不思議の一つです 〝合わせ鏡〟」


「……在学中に聞いたことあるかも」


千代子は慌ててもう一枚の鏡を探し

対角線上の壁に貼り付けた すると奥から物音が鳴る


「もうすぐそこまで来てる!!」


ーーそっちは確かアイリーンさんのお母さんのビデオメッセージがあった準備室

入り口なんて無かった筈だけど……


「行って下さい谷下さん!!」


「……え?!!」


「もう会えない気がするんです…… 死が迫っているのは分かってるんですが…… もっとそれ以上に…」


「千代子ちゃん……」


旧視聴覚室のドアにヒビが入り 染島がそこら辺にある物を寄せ集めて壁を作っていた


「クソォ!! クソォ!! せっかく祭が開催されるってのになんなんだよぉ!!!!」


「染さん……」


「アンタなら何とか出来るのか? 谷下先生!!!?」


「……」


千代子も染島と一緒に必死に黒水の浸入を阻止しに向かう

谷下は自問自答してる場合では無いと自分の頬を叩くが 決心に至るまでそう簡単ではない


「私に…… 私に何か出来るのかな……」


「出来なければどうなるんですか?!! ハッピーエンドですか?!!」


「っ……」


「あなたは占い師です 不摂生な涙を流す 私達とは少し違います!!

だけどもし元の生活に戻れたのなら…… もっと楽しくやれた筈なんです

私のは予想でも…… あなたは知っているんですよね!!!?」


決壊寸前 液体は既に窓を突き抜けて二人の顔に注がれている

周りの音が耳鳴りに邪魔され さらには体温も上昇し

とてもこの世に生きている実感が湧かない まるで地獄を味わっている二人だが


ーー普通じゃない そんな事は分かりきっている だって私は…… だって私は……


「っ…… ゥゥ…… 助けて下さい!!!! 谷下先生!!!!」


「……助けてくれ!! 谷下先生!!!」


時間は残されていなかった 両脚は自然と鏡の前に立つ

合わせ鏡を含めて七不思議なんて信じていなかったが

谷下は自分が経験したループ以上に 幾度となくへし折られて来た覚悟を決め直す



「フゥ…… 〝あなたは誰ですか〟?!」



鏡に映る何層にも遠くに続く向かい合う自分

返事は無かった がしかし 鏡からは眩い光が辺り一面を包み


『ワワ…… ワタ…シ…ハ ダダダダ……レレレレレレレ………!!!!?

アァァァァ…… アナ……アナ……アナ…タ… ハハハ ダダ……レレ………!!!?』


光の向こうには顔の無いのっぺらぼうな自分が映し出され

その彼女は答えを求めるかのように谷下を引き摺り込もうとしていた

ドアは圧力で破られ 染島と千代子は黒い濁流に飲み込まれる

水面には顔が複数浮き出ており 谷下は連れて行かれる間際 その一部を目に焼き付けた



〝 ……イツデモ ……カエッテキテ ……イインダカラネ 〟



間違えなくその黒く形成された顔は夕貴だった


そして谷下希は死ぬ事もなければ眠る事もなく

事実上その未知の先を歩み 現世はそのまま熱風に包まれるのであった



孤独に足音を止めない彼女は進む 背後より這って来る 二つの影が忍び寄りながらも




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