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六話 三日目 町長榊葉直哉


指定の場所へ着いた谷下は中へ入ってみる

初めての店に入るというのは新鮮でちょっと怖い


「ヘイらっしゃい!」


「あの……」


谷下は今になって気付いた 高山は予約していることを一言も発していないことに


「お好きな席にどうぞぉ!」


「はい……」


スーツを脱いで椅子に腰を掛ける

板に書かれたネタを一望していると隣で項垂れていた客が目を覚ましていた


「アァ~~~~~~~~~……」


「今日はこれくらいで帰ったらどうですかかぁ 〝榊葉〟さん」



ーー………榊葉さかきば?!!



疲れているのとは別に襲ってくるような頭痛

何かを忘れているという身に覚えのない既視感デジャブに苛まれる


「お水飲んでしっかりして下せぇ榊葉町長 他の人に見られちゃぁ面目立たないでしょう?」


「大丈夫だよ…… この島で他にこの街の町長になろうなんて人は誰もいないから……」


食べかけのトロをダラダラと口に運ぶこの男は鞄から一枚の紙を取り出す

複数人の署名者が書かれた名簿の様な紙の一番上には〝祭り撤廃に賛同する者〟と書かれていた


「染島に合わせる顔がねぇよ……

段ボールで署名した住民達の意見が束になって送られてきた時は笑うしかなかったね」


「染島って……」


榊葉は谷下の顔を凝視した

何かしら感じ取った表情を見せる榊葉は用紙を仕舞うなり谷下の座る席へと腰を移す


「君は〝獅子の系譜〟かい?」


「え?!!!!」


思わず心臓が飛び出そうになる谷下

理由はもちろん見知らぬ男性から不意に詰め寄られたから


「申し遅れた! 俺はこの島を治める…… なんて大それた言い方をしたがこの町の町長をやっております

〝榊葉直哉〟と言えば名前くらいは知られているのかな?!」


「え…… まぁ 私は谷下希です」


暑苦しい珍獣の接近に戸惑う谷下はふとお店の大将と目を合わせてしまう

大将はというと寡黙に寿司を握っていたが 助け船を出さないわけにはいかないと察してあげた


「この人は店ではいつもこうなんだよ……

表立ってる時は町長の鑑なんですがね~~」


「ハッハッハ酔いが覚めてきたなぁ!! 大将!! 麦焼酎を頼む!」


「お連れの方も来るんでしょう? 少しは抑えた方が良いと…」


そんな中で谷下はさっきの引っかかるワードについて質問してみる


「そういえば榊葉町長…… さっき染島さんの名前を出してましたよね?」


「そうそう!! 反対運動の一件でこれから三人で話し合う予定だったんだが……

こう来るのが遅いって事は会議はあまり良くなかったみたいだね」


「……えぇ そうですね

それとさっきの獅子の系譜って何ですか?」


「それはさぁ」



「一見さんにはそう聞くんだよなぁ榊葉!」



引き戸を思いっきり開けてズカズカと入って来たのは染島だった

後ろにて既に吐きそうになっている高山も手を挙げて挨拶している


「染島! 高山課長も!」


「ウッ! 大将…… ちょっとトイレ借ります」


「はいよー!」


「焼酎二本でダウンとはあいつに観光課は任せらんねぇなぁ!!

おっ! 谷下先生!! お先におっぱじめてますかぁ?!」


「ん? てことは君が高山の言ってた新人君かい?」



ーー……一気に賑やかになったなぁ



二人追加しただけで熱気が上がる店内

顔を真っ赤にさせて出来上がってる染島と榊葉のむさ苦しいコンタクトに圧倒された時間は過ぎて

ようやく一段落に収まったのは高山が戻って来てからだった


「こちらは町長の榊葉さんです」


「あっ! もう自己紹介は済ませました」


「ほう! もう意気投合したのかい! 谷下君は将来有望だなぁ」


「投合はされませんでしたけどね……」


四人でカウンター席に座り直して

さっそく持ち出された会話は例大祭の事だ


「やっぱりそっちもダメだったかぁ~~」


「ハァ~~~…… 祭が無くなるなんて考えもしなかったぜ」


「原因は死活問題だからな~~ お祭り自体の批判でもないからやるせないな」


「あぁもう!! 空のせいだ空の!!」


染島は天井を見上げるなり怒りを散らす


「何で昼間いつも夕焼けなんだよ!! 熱いし腹減るし喉渇くしやってらんねぇよ!!」


「本を読めば雨や雪 ……雷という天候だって大昔にはあったんだよねぇ」


「人類は滅亡するんだ!! 仏さんの怒りに決まってらぁ!!」


「……仮にそうだとして毎日懸命に働いてる俺らは裁かれないでしょ」



「原因はわかってるんですか?」



谷下の問いに高山は鞄から一枚の資料を取り出した


「……温暖化?」


「遙か昔から問題視されている我等の先祖達が作り出して来た人工災害なのかな?

太陽の熱風でこの世界は温められてるのは学校で教えてもらえるね

その溜まった熱は空の上に押し出されるんだけど全部逃げちゃったらさらに古代の氷河期が来てしまう

そこで温室効果ガスという熱を逃げないようにしてくれる有り難いガスがあるんだ

だけど~…… 18世紀辺りの産業革命と呼ばれた時代辺りから世界に蔓延する二酸化炭素とか内含(ないがん)されたガスが急激に増加しちゃってね

バランスが良かったガス量がより熱を放出させないレベルにまで世界を覆っちゃったんだよね」


「だから気温が上がって生きていけない魚は死んじゃったと……」


「そういうことだね 役所では少し遠くの海まで漁に出る話が出てるんだけど……

ご存じの通りこの島に遺っている本は少なくてね…… どんな危険な生物がいるか分かったもんじゃないのさ」


「確かに…… 鯨という超大型の〝キョウリュウ〟がいるって本もありますからね」


二人が真剣に話していると染島と榊葉も海の話に乗ってきた


「海と言えば俺は海のヤクザと言われたサメに興味あったな~ 子供の頃よく聞いたぜ」


「それを言うなら〝海のギャング〟だろうが! 俺はシャチとかウツボって凶悪生物の名前は知ってるぜ」


「実際に見たことねぇから実は大したことないって思っちゃうよな~~」


他愛もないウンチクで盛り上がる四人と大将

しかし肝心のお祭りが無くなる現実に引き戻されたときの空気ほど寒気を感じる物はなかった

店内は賑やかな温暖と冷え込む沈黙を繰り返す異常気象に包まれているが


寒冷前線が通り過ぎる頃には 今回の件について真面目に話し合う四人だった




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― 新着の感想 ―
[一言] あ! かなり未来の話!? びっくりしました!!
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