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六十四話 四日目 異次元リンク


「感情の無いロボットでも千年は長くてさ……

人と交わっては忘れられて また繋がりを求めてと有意義に妖怪じみた生活を繰り返してたよ」


「温もりに触れた割にはプログラムに忠実なんですね…… 少しは情の分析はしてみなかったんですか?」


「……令和のとある人間のデータを参照してみたらさ 私の今の気分と殆ど一致してたんだよ

言ってしまえばテンプレ? 同じ事を時が変わっても味を変えるだけで何一つ進歩しない乾いた世界

一言で言ってしまえば〝クソつまんない〟でいいのかな?」


「……」


「試しに町長にもなってみた やりたいことに皆が賛同してくれる役職はこれに尽きたからね

でもやっぱり限界が来るのさ そうなると傍観してるのが一番楽しいって感覚になっちゃってね

研究所に保管されていたゲーム機なんかを欲しがってる女性に上げてみたんだよ」


「アイリーンさんですか?」


「そしたらあんな大きな建物を建てるんだもの…… 人間って下らない事に本気出すから驚かされるよ」


「あなたのお陰で楽しい思いをしてる人もいたのに……」


弱々しく起ち上がる谷下は腕を押さえながら壁に凭れる


「惜しいですね…… 余計な事を考えるネジでも取れてれば 夢を叶えるロボットになれたのに」


「話もここまでだ…… 俺に希望でもあったかい?」


悠長に話している割に身体は暴力的

不思議と人間らしさを感じる紛れもないロボットの筈なのだが


「痛い痛い!! ……私をどうしようってのよ」


「この先にある【生体培養室】でお前は造られたんだ

室内に入れば君も多少は思い出すんじゃないか? ……なぁ谷下希」


髪を掴んで谷下を引き摺る榊葉は天井を向いて語りかけてくる

ロボットの癖に生気を失った表情と言わせるくらいに哀愁を漂わせて


「俺って…… 榊葉直哉って誰なんだよ……

そんな平凡な名前は何処から来て俺のもとに辿り着いたんですか?」


「……はぁ??」


「名前を付けたのは〝お前〟だよ?」


「っ…………」


扉を抜けた先には 空になって起動していない

そこから出たであろう痕跡が残る 液体が抜かれた扉が開いたままのカプセルがあった


「俺もここに来るのは久々だなぁ…… 俺達の実家だぞぉ?」


「いいから放してよ!!」


強引に振りほどく谷下は榊葉と距離を取る

近くに何も無いと知る彼女は 目の前の危険人物に為す術が無い


「心臓を止める前に確認しておきたいんだ」


近くに置いてあるタブレットを使い慣れた手付きで操作する

すると聞き覚えのあるアナウンスが流れ始めた


『谷下希博士宛のメール三件を読み上げます


一件目:谷下三木 2029年

お姉ちゃん元気ですか? 私は元気です

高校の時に 私をイジメていた瀧沢翔タキザワカケル君と久々に再会して仲直りしました

次はいつ帰って来れますか? お父さんとお母さんもお姉ちゃんに会いたがってます

本土に帰ってくる時は連絡下さい お姉ちゃんが大好きな料理の具材を買い揃えて置きますので


二件目:匿名 2050年

人工太陽が完成間近になりました。

現時点で不具合が生じる事もなく、順調に計画は実行中

二十年周期で繰り返されるコロナの驚異を遮断する〝人工太陽命令式電磁波ソレイユフレア・プロジェクト〟は、

予定日を変更せずに、規定通り行う事をお知らせします。

つきましては、大変心苦しいですが当初から開発に流れていた投資金は停止させて頂きます。

クローンに新しい魂を入れる前提の短命の稀少心臓デロリアン・カーディオは、

仮説の域から進展しない報告から判断した役員達の、結論だとご理解下さい。


三件目:ギア・キャリントン 2050年 件名:人類は滅亡する

人工太陽のフレアから放射される熱風はあくまで太平洋内部で留まる段階だったが

予想を遙かに超える数値が観測され 正直このメールが届くかどうかも分からない

既にデリンジャー現象も起っているので可能性は薄いが 研究仲間だった君には賭けで報告しておく

もしも文明の非常電源を完成させていたら 君は人類史上最高の功労者だ

そして叶うことならシェルターへ避難を試みてくれ 私はもうこの世にいないだろう

BACK・TO・THE・CLONE(ちっぽけだった世界へ帰ってこようぜ)


メールは以上です 良い一日を』


アナウンスの声が途絶えると榊葉が口を開く


「このギア・キャリントンっていう外人は俺と同一人物

……でも榊葉直哉はいくら探しても見つけられなかった」


「何でそこまで名前に固執してるの?」


「ホントそうだよね…… 自分の名前をどういった感情で こんなに知りたくなるんだろう……」


「……少し羨ましいって思うかな 私は谷下博士の名前を貰ったからそこまで深い意味は無いだろうし」


「……そうだね もういらないんだから追求も虚しいね」


榊葉がまた動き出す 谷下は時間が経ったのもあって少し冷静を取り戻していた


「純朴だった筈なのに 何があなたを変えてしまったの?!」


「人工知能は時として外を冒険する

固定された地より 機械から機械へ 電波を伝い形を見せずに飛び回る

誰とでも交信できる万能な力は 思わぬ出会いを果たすのさ

何億光年離れた宇宙人とも可能であれば 時空の切れ目から異次元の空虚とも可能なのさ

人はその存在に銀翼を溶かす想いで近づこうとしたが

そんな翼など必要ない俺は意図も簡単に手を差し伸べられた」


「…………まさか!!!?」


谷下の目線は一緒に倒れていた南野雪花神に 正確にはえりちゃんを凝視した


〝 逃げるのじゃぁ!!!! 谷下希!!!! 〟


えりちゃんの体から漏れ出るドス黒いオーラは床下から充満していた

前回と同じで 嫌な感じは強迫性神経症トラウマにも似た棘の痛みを肌に覚える



「これより未完成ロボット完全体ソトースは一つになる

完全無欠の絶対的な存在として私は…… この世界に新たな命を創り出し

自分が思う理想的な社会を再建するのだ!!」



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