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六十三話 三日目 経緯 特異 殺意


「さぁおいでノゾミ 答え合わせでもしようじゃないか」


「さぁぁぁかぁぁぁぁきぃぃぃぃばぁぁぁぁああああ!!!!」


癇癪を起こす彼女の顔は例えるなら鬼の形相

自分でもこんなに怒れる人間だったなんて思いもしないだろう


「ヒュー……ヒュー……」


「っ…… アカリヤミさん!!」


雪花神が力を振り絞って止血していた

弾を取り除いて一安心の神様を 正確には幼い子供の顔を蹴り飛ばす榊葉

遠くに吹き飛ばされた雪花神は何とか体勢を立て直したが

それを見ていた谷下の沸点は煮えくり返るレベルに達する


「あなた…… 何がしたいの? そこまで人を傷つけたい人間だったなんて……」


もう誰にも暴力が届かないように

谷下は榊葉に臆する事無く正面に立って目を離さない


「〝傷つけたい〟?? ……フフッ 生憎だが私に感情という機能は付けられていない」


榊葉は懐からナイフを取り出し

自分の腕の肉に切れ目を入れたかと思えば そのままズルッと削ぎ落とした


「貴女の様に肉体ベースに造られてはいない

人工知能が内蔵された 馬鹿な判断を怠らない機械仕掛けのロボットなんだよ」


「ッ…… よく人間社会に溶け込めていたわね

人間を操るのも統計から至極容易ですってか?」


「そういうこと…… 人はロボットに支配される事を望んでいたんだね」


「……答え合わせしてくれるんでしたっけ?」


「そうプログラムされてある

谷下希もといクローンNO.4101040モデルTAKARABUNEの問いかけに素直に答えるようにとね

本来 今すぐにでも貴女の〝心臓〟を止めたい所なんだが この際全てを教えて差し上げましょう」


額に汗を掻かずにはいられない緊迫の状態で動揺を隠せない谷下

しかし榊葉は文字通りのロボットなのだろう 澄ました顔には生気すら感じられない


「じゃぁまず何でサイロの地下に過去の遺産があったんです?」


「俺が…… というよりも千年前の研究員が残したんだよ

娯楽を残す価値は俺には分からず ガラクタ同然にそこら辺に放置してただけだ」


「……死人さんを殺した件について」


「死人さん?? 知り過ぎたから殺した奴かなぁ?

それに存在が矛盾してるし いなくなってくれた方がリスクは少ない」


榊葉は胸ポケットから一通の手紙を取り出し 谷下に投げ渡す


「どうやって獅子の事や谷下希の存在を知ったのかは分からなかったが……

それ以上にどうやって〝過去〟から来たのか謎が多すぎたんで排除したまでだ」


「この手紙を書いたのが死人さんだったなんて……

そもそも〝獅子の系譜〟って何なのよ?!」


「獅子とはこの土地にかつて存在した琉球王国に並ぶ【緑の王国】に君臨していた王の名称だ

研究員の家族とは別に 元々住んでいた島民達はクローンの中に魂が入るやいなや〝王が帰還〟されると

かつての牡丹卍で喜びの儀式を開いたそうな

加えて例の人類滅亡期にて 島以外の世界が崩壊した直後に現れた八人の王様伝説は

地下から出てきた研究員達の叡智に圧倒された先住民達の誤解したフィルターによってそう語られただけだ

そんな中で一人の大王様…… 先導者でもある谷下希の造ったクローンに

南野雪花神というこの島の土地神が幾万の魂を空の肉体に納めたことにより

いつか目覚めると信じた谷下希の分身である貴女を 皆は敬意と安寧を込め

未来形で〝獅子〟と語り継いだそうだ

意味は百獣の王の目覚め 絶対的指導者がこの先 再び復活するという願いを込めて」


「谷下博士と同一人物だから獅子の系譜……」


「案の定そんな伝説は時代の渦に消えていったがな 覚えているのは俺だけだ

そして千年後に目覚める貴女に全てを語る生き字引として

時を過ぎる度に老朽化する物全てを修復しながら その時を待つよう造られたのがこの俺

……確かこう呼ばれていたな 〝子守用ロボット(友達タイプ)〟と」


ーー……ハッ 人殺しするようなロボットが友達タイプ??


「まぁ俺は元々〝殺戮兵器〟として未発達地域の紛争を鎮圧する為に駆り出されていた型番だから

再利用にしちゃぁ割に合わない仕事だとデータに上塗りしている」


「……最後の質問」


谷下にとって最も最近の出来事で 最も許せない謎

だが時が巻き戻ってしまった分 どう説明したものか


「あなたが広範囲に〝サリンを撒き散らして〟 数多くの命を奪う時はどんな時ですか?」


「…………シミュレーションしろと? ……見当も付かないな~~」


ーーその時の気分でもあるまいし だけどこれだけは分からず終いか



「榊葉町長 これが本当に最後の質問です」



気がつけば谷下は距離を取っていた

榊葉のある言葉がさっきから引っかかり 故に会話中も矛盾が生じていることに気付く


「今のあなたは本当に友達タイプの榊葉直哉ですか?」


「……どういう意味だい?」


「覚えてないんですか? あなたさっき私の〝心臓を止めたい〟っておっしゃってましたよ?」


「……」


「私を過去に送り戻すのが使命じゃないんですか?

開発者の意向と食い違ってるのに私の子供時代を支えなかったあなたの行動がイマイチ理解出来ないのですが?」


「……ハァ 身体だけ特別で〝人格〟は馬鹿だと思っていたが 五十万の魂を宿しているだけ少しは勘が働くようだな」


「何ですって?」


銃を捨て 目が笑っていない不気味な表情で近づいてくる谷下は恐怖のあまり後退する

壁際まで追い詰められた彼女に 目の前の殺戮兵器は容赦しなかった


「ッッッ……!!!!」


腹部に激痛を感じたと思えばその場に倒れる谷下

呼吸もままならない状態で見上げた目に映るのは握り拳で構えてる榊葉だ


「何…… すんのよ」


「〝人工知能の一人歩き〟って奴だ 賢い子供が好き勝手していると どうなるのか想像したくないよな?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] とっぱなから「さぁおいで希」がキモくて大爆笑w 素晴らしすぎる榊葉、獅子の系譜が見事に繋がった! 初期の日常場面かと思っていたお祭りの話が世界の根幹に繋がる伏線でしたか。 うーん、読み返…
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