表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/108

六十一話 三日目 近親者


戻ってきた雪花神と合流して状況を整理する


〝 所々修繕されておるな…… 千年前と変わらない内観の理由はやはり榊葉が手を加えておったか 〟


「それで研究所のことは分かりましたか?」


〝 何も無かったな ここは思い出そのまま谷下希のプライベートハウスじゃ

余計な物は何も介入させない 守ってきた者の執念にも似た思念が残っておるの~

大事に保管していたかった奴が榊葉なら 彼は一癖も二癖もある懐古の人間じゃ 〟


「……」


〝 そんなお主らは何か見つけたのか? 〟


「……三木ちゃんの正体が分かったくらいかな?」


谷下は日記を仕舞うと 三人でチューダーハウスを出て行く

離れれば離れる程 木々で遮られてしまう家を寂しそうに感じるのは

自分がそうなのではないかと谷下は自問に走る


「雪花神様…… 私の中に谷下博士の魂が入ってることは無いですよね?」


〝 ワシは知らんぞ? ……ということは彼女の魂は入ってはいないということになる

〝クローンに魂は自然にと入らなかった〟 それが彼女らの研究結果じゃ

罠を仕掛けてジッと獲物がかかるのを待っていただけだと言うことなのじゃよ

無理矢理入れる事が出来たワシのような神にでも出会わなければ

結果的にお主もその口を開いて言葉を話すことは無かった これが結論じゃ 〟


「はいはい…… 感謝してますよ~~」


〝 信仰心ミジンコじゃな!! 〟


ヘラヘラ会話している谷下達は急に 自分の身体が後ろに飛ばされることに驚いた

飛ばした相手はアカリヤミ そのアカリヤミも茂みに屈んで何かに怯えている


「っ……!! あれって」


サイロを横切る軽トラはライトを照らしたままエンジンを停止し

その車内からは榊葉が出てきたのであった

ここは彼の土地なのだから不思議ではないが 彼の懐から取り出した得物は

アカリヤミの今の行動を称賛するものとなる


「拳銃…… ですよね?」


「チャカだね……」


〝 ハジキじゃな…… 〟


榊葉は何かを探しているかのように

うろうろとサイロを周回し始めた


〝 マヌケめ…… やっぱりあそこに地下室があると教えてくれたぞ 〟


「でもどうやってサイロの中に入るんですか?」


〝 相手の死角になるように入っていくしかあるまい 〟


彼が向こうへ行くと同時に 谷下達はサイロの壁に突っ込んだ

榊葉が放つ懐中電灯の光を頼りに足並みを揃える二人と一柱は

対角線上を意識して一歩ずつ慎重に入り口まで歩を進めた


「最悪の場合どうします?」


「最悪と言いますと?」


「……入り口が施錠されてたり?」


「……」


谷下の何気ない憶測に

アカリヤミと雪花神の歩く速度が速まった

入り口に辿り着くアカリヤミは音を立てずに扉に手を置くと


「……開いてました」


「フゥ…… …………あ」


榊葉には見つかっていない しかし榊葉も見ていた

軽トラのヘッドライトの光に反射した二人と幼女の大きく伸びた影が

近くのビニールハウスに映し出されてるではありませんか


「早く入って!!」


最後に中へと入った谷下は扉を閉めるが

走ってくる足跡はすぐそこまで迫ってきている


「早く!! 階段を降りて地下室へ!!」


アカリヤミは床の隙間二つを発見し 思いっきり引き上げる

谷下はえりちゃんの身体を抱き上げると階段を降りた

遠い記憶を呼び覚ますこの場所には 相変わらず見るもの全てが見たことない物で埋め尽くされている


「こんなにいっぱい…… 一体いつから……」


「それよりも地下室への入り口を探してアカリヤミさん!!」


壁伝いに入り口を探すが中々見当たらない

床板も然りでそれらしき入り口が無い

まるで研究所そのものが存在しなかったかのように



「存在しなかったかのように……」



〝 ここは何ですか? 〟


〝 君と私の愛の巣さ 〟



谷下は上方をくまなく見渡す


「あった……」


彼女の目線の先に設置されてたのは〝鳩時計〟だった


「ふんぬぅ~~~!!!!」


勢いよく引っこ抜こうとするが外れもしなければビクともしない


「どうしたんですか谷下さん!! そこに入り口があるとでも?!」


勢いが付き過ぎて 手が滑って転んでしまった谷下

不意に時計の針に爪が引っ掛かり 十二時を通る拍子に箱の中から鳩が飛び出す


「ホルッホルゥ~~!!!!」


地下室に響き渡る鳩の鳴き声を掻き消すかのように地響きが鳴り始める

壁板を突き破って現れる鉄製の扉が谷下達の目の前に開かれた


「ハァハァ…… 遊び心ってところかな?」


「……どうして分かったんですか?」


「この入り口を造ったのが榊葉ではないって考えてみただけ

同じ人間がもし隠し部屋を作ろうってなれば 大体発想が一緒になるかもって

チューダーハウスの鳩時計から閃いた咄嗟の賭けだったけどね」



〝 そんなことはどうでもよい!! ……彼奴が来るぞ 〟



唾を飲み 気持ちを切り替える者達は進む

天井に淡く点灯する近代的な一直線の通路を頼りにして臆しながらも

もう引き返すという選択肢は生まれないでいた




数十秒後

地下の階段を降りてあの男はやってくる

開かれた扉を前にして 顔を手で覆い 隙間から口角を上げる表情が映し出されていた


「この通路は脈であり 紡がれて腐るだけの血栓 系譜である貴女は入るべき資格の持ち主だとでも?」


銃の撃鉄を軽く弾く榊葉は

近くの置物を蹴り上げる 不意に撃った銃弾は花火に引火し

地下室は業火の地獄へと様変わりを果たす


「百歩譲ってそれは良しとしよう…… そうプログラムされてある 的確な判断だ……

だが他は殺さなければ…… 殺さなければ…… しん… シシン…… 侵入者を……」


まるでロボットのような動きの榊葉は携帯していた小型のカプセルを飲み込み

体内を特殊な技術をもって冷却させる

口からは冷気を帯びた蒸気を放出することで表情に人間らしさを取り戻していた



『 侵入者を排除する 』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ