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六十話 三日目 鳩時計の裏側


アパートへと戻ってきた谷下は 既に準備万全とばかりにドヤ顔をしている二人に出迎えられる

大して大荷物でも無いにも関わらず リュック背負って威張られても困る彼女だが

それ以上にアカリヤミもスタンバイしている事が一番の気掛かりだった


「あなたも行くの?」


「はい…… もしもの時はお二方の楯になれればと思っています」


怖かったのは彼が言ってることが嘘ではない真実と言うことだ

そう捉えてしまえば こちらも強気に止めることは出来なかった

圧倒されて物怖じを肌で実感している谷下は言い返せない


〝 さぁ…… 行くとするかの? 仮眠を取らなくても平気かの? 〟


「今はテンション上がってるから多分…… 明日の例の時刻まで疲れを溜めるよ」


〝 ……社畜じゃな 〟


「はいぃ??」


敢えて大家には前回と同様に嘘をついてアパートを出る三人

さすがに谷下的には二回も〝温泉巡り〟の嘘は気が引ける

しかもアカリヤミとえりちゃんを連れ回しているのだから大家の視点からすれば何とも言えない状態だ


「大家さん寂しそうでしたね……」


「うん…… でもさすがに連れて行く訳にはいかないし……」



〝 過ぎた事をグチグチ言うで無い!!

これから行く場所はワシもかれこれ何百年も足を踏み入れてない未知の場所じゃて

何が起こるか分からぬ 故に気を張り詰めよ!! 〟



少し頼もしい雪花神に先導され 案内されるがままに道を歩く谷下達

夜道を安心して歩けるいつも通りの町並みの先に 果たして知らない場所などあるのだろうか

田んぼの畦道を通っていると 谷下はあることに気付いた


「ここって……」


急に辺りを見回す谷下に アカリヤミと雪花神は心配そうに立ち止まる


「ティキシ~~? ティキシ~~~!!」


訳の分からない言葉を発しながら誰かを探している彼女を見て 一人と一柱は互いに顔を見合わせた


「どうしたんですか急に?」


「うん…… 時間帯も日にちも違うだろうし ……さすがにいないか」


しかし谷下にはもう一つ気になっていた

この道程を辿る先に今までの全てが繋がっていく

そんな一本道を奥で待っている何かに引き寄せられてる感覚を


全員が山の入り口に入ろうとすれば

それはもはや確信を押しつけられても文句は無い


「榊葉町長の所有地 大きなサイロが印象的な農園に例の地下研究所があるの?」


〝 地上に新しく何が造られているのかは知らんが 間違いなく研究所はこの先じゃ 〟


三輪オートであっという間の山道を徒歩ではさすがにバテる三人の身体は

夜の山中で休憩するわけにもいかず必死に歩き続ける

目的地に着く頃には 谷下がえりちゃんの身体をおんぶして疲れが人一倍に蓄積されていた


「アァ…… アァ…… 到着ゥゥゥ……」


ゾンビのような声を出す谷下を残して

雪花神はアカリヤミを連れて入り口を探しに行く


〝 ……無くなっておる 〟


「まさか榊葉直哉が埋めてしまったのでしょうか?」


〝 その可能性は低くはないな

……ここの農園も研究所を隠す為の〝カモフラージュ〟といったところじゃのぉ 〟 


「大体の場所も覚えておられないのですか?」


〝 ふんむぅ…… 〟


土地勘が曖昧になってる雪花神のもとへ追いついた谷下は

何かを思い出したかのように遠くの方を指し示した


「そういえばあっちの 森で覆われた場所にチューダー様式の一軒家がありましたが」


〝 なぬ?! お菓子の家みたいな建物か? 〟


「えぇ…… まぁ」


〝 雪の景色が似合いそうな?? 〟


「はい……」


〝 ……まだ残っているのか 〟


雪花神は指差す方へと走って行く

何かを守っているかのような楠を掻い潜り

一軒の閉ざされた空間に佇む家を発見した

アカリヤミが懐中電灯を照らして改めて見る谷下は

二人に謎を与える感想を投げかける


「懐かしい……」


〝 なんじゃと? 〟


「そう体が叫んでる気がするんです ……まぁそういった感傷が襲ってくるのはこれが初めてではないんですけどね」


〝 ……とりあえず中を調べてみようぞ 〟


荒れ果てたなりをしているのにも関わらず 中は綺麗にされていた

榊葉が掃除していたのかと推察すれば ここに何かが隠されているのは間違いない筈


「いつに建てられたんだろう……」


〝 ワシの記憶が正しければ千年前じゃな 〟


「えっ?」


意味深な言葉を吐き捨てて雪花神は単独で奥まで進んで行ってしまった

リビングを捜索しているアカリヤミからお呼びが掛かり

神様を一旦放置して谷下はそっちに向かってみる


「これ見て下さい」


「日記だ……」


然程ホコリは被っていないが如何にも古い絵日記

仕舞ってある引き出しを調べると微かに蝋の臭いが残っていた

早速中身を読んで見ると ここの住人が明確になる


〝 2051年 10月10日 

今日は本土の人達が亡くなってから一年が経とうとしてます

そんな中で私は南野雪花神というこの島を創設した神様のお力添えもあり

クローンを本当の意味で完成する事が 永年の人類の夢が叶ったのです

この人類史上初の偉業を

数少ない私の成功を 迷惑を掛け続けた家族にちゃんと報告したかった

私を励まし続けてくれた妹に最初に見せたかった

もしも魂が黄泉の国ではなく 私のもとへ帰ってきてくれる日が来るのなら

笑って蘇生して迎えれるよう肉体を用意したい

いつでも良いから帰ってきて

仕事に行ってたからって 本土にいるあの子の最期を見届けられなかったなんて

とても受け入れられない 死んで欲しくなかった


もし私が死んで あなたが生き返ったなら あなたが分かりやすい場所に 私の宝物を置いておくね

ノートは無くなるかもしれないけど キッチンの壁に在りかを刻んでおくからね 〟


ここのページを読み終えた二人はさっそくキッチンに向かう

すると一目で分かるような壁いっぱいに削られた文字が記されていた


「〝鳩時計の裏側に私の想いとお宝 眠る〟

鳩時計ってリビングにあった奴かな?」


戻って鳩時計を取り外すと一匹のネズミが谷下を襲う


「チーチゥ!!」


「ウワッッツ!!!? 鳩時計の裏っ側にネズミ!!!?」


ネズミは一目散に床隅の穴に逃げていった

それよりもネズミが巣くう程の空間に置いてあったのは一枚の写真立てのみ

それを取り出す谷下は改めて鏡に映る自分と見比べる


「似過ぎですよ…… 〝谷下博士〟」


写っているのは今の自分くらいの年齢の谷下博士ともう一人見覚えのある少女

ふと写真立てを裏側に引っ繰り返すと ペンで太文字に一言添えられていた



〝 ずっと愛してるよ 私の可愛い妹 三木へ 〟




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