五十六話 二日目 昼飯時に神話の説明を聞く公務員
「懐かしい 清々しい ビバ!! 町おこしに貢献!!」
稀に見る勇ましいスーツ姿で廊下を歩く まさに働く女性
食堂には既に用意されているご飯を目の前にして 行儀良く席に座り
華奢に食事を済まし スムーズに玄関に準備されてある靴を難なく履きこなすと
「行ってきます!!」
元気に満ちあふれた掛け声と共に谷下は出勤した
〝 そういえば社会人だったな…… 〟
「せっかく本来の谷下希さんになろうとしてるのに わざわざブチ壊さないでくれますか死人さん!!」
〝 すまない…… 何しろ貴女のスーツ姿を最後に見たのが遠い昔に感じてしまってな 〟
「実際に初出勤なんだし 罪悪感を抱く方が周りから変人扱いされるのよね
ループも状況を精錬して先に進まなきゃ!!」
〝 ……行ってらっしゃい 〟
死人は煙のように消えていき
谷下は市役所へと走って行った
「初めまして谷下君!! 私は観光戦略部の観光課の課長を任されております 高山和義です」
「はい!! 今日からよろしくお願いします!!」
「おぉ!! 気合い入ってるねぇ!! ……それとこれは仕事をする上できちんと聞いておきたい事なのだが」
高山の目線はやや下の方に注目していた
谷下もその方向を見やると なんと
〝 ママ!! 〟
「えりちゃん?!!」
思わず三度見してしまった谷下だが
それよりも高山と目を合わせるのに気まずさを覚える
「谷下君…… こういうのは事前に言っておいて欲しかったね」
「あの!! この子は私の子という事では無くてですね!! アパートの同居人なんです!!」
「それならそうと早く言いなさいな ……しかしここに託児所は無いもんでどうしたものか」
しばらく考える高山だが ようやく口から出た答えもあまり気が進まない
「仕方無いから今日はこの子に社会見学をして貰おう えぇと…… お名前は?」
〝 えりちゃんです!!!! 〟
「そうかそうか!! 今日はよろしくね えりちゃん!」
握手を交わす二人 早速上司の指示通りに職場案内と共に業務手順を学んでいる谷下は
「勝手に付いて来ちゃダメでしょ えりちゃん!」
〝 ワシじゃぁ!!!! 〟
「……え?!!! 雪花神様?!!」
〝 口調で大体の違いが出とるじゃろうが!!? 〟
「全く気付きませんでした…… えりちゃんの話し方似てますね 少し可愛かったですよ」
〝 なぬぅ?!! そ……そうか/// 〟
「それで何故に付いて来ちゃったんです?」
〝 まだまだ話さなければならない事が沢山あるからじゃ
お主のタイムリミットは二日後じゃが おそらくワシのリミットは明日の夜じゃからな 〟
「……ですね なるべくソトースさんには出て来て欲しくないんですけどもね」
〝 ワシ共々自滅させることは可能じゃが…… 上手く行くかは保証できんな 〟
「そんな事も神様はやってのけるんですね……」
マニュアル書を読んで休憩時間を寛いでいる谷下はある事に気付いた
ーーそっか…… 何も起らない回やソトースが暴れた時に急に静まった時は自滅していたのか……
感慨深い結びつきに辿り着いてしまう彼女は雪花神を ついつい少し親しい存在に捉えてしまっていた
神相手に生への尊さを押しつけたくなる極めて烏滸がましい感情
「そういえば私の正体って何ですか? ……昨日は言いかけましたよね?」
休憩時間にお弁当を開けると同時に雪花神に聞いた
コロッケに目を光らせている本人はヨダレを垂らしながらも説明を始める
〝 ……不本意であれ時間を渡ることなど並大抵の神でも無理な話じゃ
ワシでも勿論じゃが 時を司る神であれば難しい話では無くなってくる
されどお主は神とは違い人間寄りのガイロイドって話じゃったな?!
だとすれば人間側が神に近づいておる つまり科学が神をも畏れる領域に達したと 悲しむべきかな? 〟
「どういうことですか?」
〝 お主の肉体が〝文明の非常電源〟として未来を守る為に送られただけの代物なら……
ワシは人間達を高く評価しよう
じゃが自分達が今日明日にも死に絶える運命をそう簡単に受け止められるとはここ数十万年の歴史から汲み取るに〝有り得ない〟というのがワシの分析じゃ 〟
「もしも現状の危機から助かる術が未来で分かったとすれば
私が過去に戻って皆に伝えられるように造られたって事なの?」
〝 そうじゃな…… そう言った意味でのその呼ばれ方なのじゃろうな
じゃが当の本人は全く使いこなせていないが? 〟
「……欠陥品ってこと??」
〝 ワシは何も言っておらんぞ? それにまだ決めつけるのは早い
話を聞く限りお主の人間と違う構造はクローンであるのと
魂を納められる短命の稀少心臓の二つ
これらだけにしても とても時を跨くには至らない技術じゃなぁ 〟
「というか南野雪花神といったら令和後期の滅亡から私達の先祖を救ったんですよね?
当時を知るあなたなら何か心当たりがあるんじゃないんですか?」
〝 ワシが救ったのはあくまで魂だけじゃ それも七十万を超えるな
しかもそれは日本だけという訳ではない 少しでもワシに対する信仰心だけが世界規模で七十万集まったのじゃ 〟
「その内の五十万は…… もしかして」
〝 入ってるぞ? お主の中に 〟
「……私の中に五十万もの魂が」
〝 罪悪感を抱けば神失格じゃが…… 当初はこの島に魂を運んでくる予定では無かったからの
肉体と離れた魂は成仏させるしかないし そうさせるのが一番じゃて……
じゃがあの理不尽な太陽フレアによって随分と怨霊分子が増えに増えて
このままでは消滅の一途を辿り 生まれ変わりというものが無くなってしまうのじゃよ
生物がこの世から居なくなれば信仰対象が皆無の我々も生きる意味が無くなってしまう
唯一残ったこの島にて無理矢理にでも肉体を蘇生し ある程度の人数を補完する必要が余儀なくされてしまった
はっきり言って我々の都合よ 〟
「……察するに全部の魂に肉体を与えられなかったのね?」
〝 そうじゃ…… 魂とリンク出来る肉体を一体造るだけでも……
神として弱音を吐きたくないが至難の業なのじゃ…… 〟
「……」
〝 そして残りは成仏させるしかないと思っておった時の事じゃった
ワシは出会ったのじゃよ 〝谷下希〟という研究員にな 〟




