五十二話 一日目 ワシじゃ!!!!
強引に詰め寄られ 性的な身の危険を感じるアカリヤミは隅で素で怯えていた
約束通り玄関まで入る谷下は辺りを見回すと前回と変わらない散らかり様に安堵の溜息
「少しは掃除しないといけないね!」
「……はい」
そしてとうとう彼女は例の偶像に注目する
全く同じ場所に転がっていたのが逆に不自然なくらいに
ーー私に過去を見せる以外に用途が無いのかな?
その偶像を拾い上げると 唐突にアカリヤミが奪いにかかるが
手に触れた途端に流れる過去視の空間に放り込まれる谷下
さらっと映像を見学して 彼女はすぐに現実に戻ってくる
「これが何なのか説明してくれますか?」
「っ……!!」
「アカリヤミさんは持っていたにも関わらず そこら辺に雑に置いてたのよね?」
「それは……」
追い込まれていると確信している谷下はどうしても情報が欲しかった
しかし一向に口を開かない青年はその場に正座して頭を下げる
「どうかお許し下さい!! 谷下希様ぁ!!!」
追いつけない急展開だったがこれはもう慣れが必要だと思う谷下は
問い詰めることを止めて解説を求めた
「これは蛇夢ノ像という名の偶像
複数の欠落した魂の破片が閉じ込められてると大昔から信じられています」
「複数の魂?」
谷下は無意識に自分の鳩尾を撫でる
アカリヤミも何かを気遣ったのか自分の背に像を隠す
「…………」
「…………もしかして偶像が気になっただけですか? それならもう用は無いですよね?」
特に何かを隠している部屋には見えない
一見散らかっている部屋を覗かれたくない理由から来ているのかもと思えてしまえるが
アカリヤミ本人が何かを隠しているようではあった
「じゃぁ今度はえりちゃんの所にでも挨拶しに行こうかなぁ!」
「っ!!?」
「どうしたの?」
「べっ…… 別に……」
口笛で誤魔化すアカリヤミに谷下はキュンと来た
微量の汗を流しながら目を逸らす彼は何を思っているのだろうかと問いたくなる
「じゃぁお邪魔しました~」
「ま…… 待って!!」
駆け引きは成功
手を伸ばす青年の手を強引に引き寄せる谷下は
アカリヤミを引き連れてえりちゃんの部屋の前まで連れて行くのであった
「え~り~ちゃ~ぁん!」
ドアをノックすると相変わらずの元気な少女は垢抜けない表情を
かと思いきや 目つきが鋭い 知性を感じる顔に豹変していた
〝 ワシじゃぁ!!!! 〟
「…………エッ?!」
〝 肉を持って来い肉を…… この世は肉じゃぁ!!!! 〟
「……」
圧倒を余儀なくされた
数秒の沈黙を切り崩してくれたのはアカリヤミだ
突然の大声に台所にいる大家の耳にも届き 彼は慌てた行動を取って二人を部屋の中に押し込める
大家はただ三人がじゃれついているのかもという理由付けで そこまで詮索するには至らない
「えっと…… えりちゃんだよね? 機嫌が悪いの?」
〝 なんじゃワシの事を知っていてのアカリヤミとの会話では無かったのか?! 〟
大人びた言動をしているえりちゃんは胡座でその場に座り
アカリヤミは覚悟を決めたかのように溜息を漏らして 改めて〝紹介〟し始めた
「こちらにお座りになりますは 南野雪花神であられます
かつて日本神話ではダイダラボッチという名で各地方より信仰心を集め
後に緑の魔神として連ねる〝国づくり〟の神として
日の本の陰にて その数々の土地の平和と繁栄を見守っていた方なのです」
〝 まぁその偉大なる大きな存在はあくまで人間達が崇める故に描かれた恐ろしい姿じゃが
実態は可愛ゆい可愛ゆい妖精なのじゃよう~ ホホホ!! 〟
谷下はしばらく凝視していたが ふとした時についつい鼻で笑ってしまった
「確かに今はえりちゃんの姿なので エルフみたいに可愛いですけどね~」
〝 なんじゃ? 供物になりたいか小娘? 〟
「本当は伝承通りの巨人か魔神なんじゃないですか~?」
〝 ワシはエルフじゃぁ!! 三千年以上も前からぁ!! 生まれた時からプリティーなエルフじゃぁ!! 〟
「国づくりも本当なんですか? イザナギさんとかイザナミさんご夫妻と一緒に?」
〝 そうじゃぁ!! 天地開闢の後より イザナミのオッパイから産まれたのがこのワシじゃ
じゃがヒルコと同様に不具の散在として 姉貴と同じ海流しにさせられてしもうたのじゃ…… 〟
「どの世界にも育児放棄ってあるんですねぇ」
〝 まぁある程度の叡智を携えて産まれてくるのが神じゃ
少し早めの巣立ちだと思えば あとは遠い地でやりたい放題よ!
そこまでクソ親共の力は無かったので 手始めに小島を何個か作って遊んでいたでの
飽きる頃に誕生させた最後の島がここ〝蛹島〟という訳じゃ 〟
「それでここの土地神になったという事ですか? 外出とかは?」
〝 極力両親に会いたくなかったからの~
風の噂でママンが黄泉の国へ旅だった話は聞いていたが
奴等にされた行いがトラウマとなってしもうて 日本列島が完成する頃には土地神になっちゃった 〟
「……神様もインドアになっちゃうんですね」
〝 そりゃそうじゃ! インドラだってインドアぞ? 〟
「さすがにダジャレですよね?」
〝 ……そうじゃなぁ 彼奴は大層な〝ご立派様〟じゃったなぁ 〟
ヨダレを垂らす雪花神は天井を見上げて上の空
本当にこいつは本当の事を言ってるのかどうか自身に賛否を求める谷下であった




