五十一話 一日目 最初の朝
〝 おいで 希 〟
〝 パパ!! 〟
〝 レールはここまで敷かれているよ 後は希次第だ 〟
ーー歩かされてる
〝 君が獅子だ 〟
ーー進まされてる
〝 寿老人様と福禄寿様はお認め下さった
他の七福神は全てをやり遂げ 福を散布して帰られた
人を支配するのは 人だけだとチャンスを与え下さったのだ
俺とはもう別れる事になるだろう それが埋め込まれて守らなければならない命令だ 〟
〝 パパはどっか行っちゃうの? 〟
〝 父親…… らしかったか……? 〟
ーー抱きしめられている 愛されていたのかな?
〝 次に会う時は敵になってるかもしれない 神様に逆らってるかも知れない
それよりも辛いのは何十万という命を奪わなければならない そういう命令だからだ 〟
〝 敵って? 人を傷つけちゃいけないんだよ? 〟
ーーそうだよ 考え直して
〝 考えて選ぶ事も〝我々〟は許されていない
俺は…… 俺達は生まれた時から 根っからの〝殺戮兵器〟なんだ 〟
〝 泣いてるのパパ? 〟
〝 ……人を殺し続けていて それでも泣きながら謝っていたとしても 必ず俺を殺しなさい 〟
〝 …… 〟
〝 いいね…? 〟
「ダメぇ!!!!」
車内に響き渡る大声で谷下は目覚めた
あまりの絶叫にバスの運転手もこちらを二度見してくる
「ハァ…… ハァ…… 今のは夢?」
必死に落ち着こうと呼吸を整えるが 今見た映像を決して忘れないようにしていた
「〝榊葉直哉〟が…… 〝私の父親〟?」
考えても引っかかる事がある
まず始めに容姿が夢と現在で全く変わっていなかったのだ
「年齢も…… 確か三十後半だったよね……」
またもや新しい謎が現れ 脳裏でザワザワと蠢いている
谷下は今までの事をお復習いしてみたが…… 根本的な問題の結びつきは乏しい
温習はどれも散漫で まるで解決の糸口を見出せない
ーーとにかくアパートに行こう…… 行けば死人さんが……
考え事をしている中で重大な人物達を思い出していた
ーーえりちゃん…… アカリヤミさん……
そうだよ ループの数少ない利点を有効に活用しなければ……
乗客は思いっきり平手で頬を叩く
バックミラーから確認していた運転手は不審に感じながらも温かい目で見守っていた
ーー怖がって逃げちゃダメだ…… どうせ死ぬなら死ぬまでやり切ろう
……前もビクビクしないで向き合おうって決意したばかりなのに
弱いなぁ私って…… こんな私のどこが獅子なんだか
アパートに到着すると 変わらず元気になった大家に出迎えられる
前回を振り返れば可笑しくなるほど この当たり前が愛おしくなっていた
いつも綺麗にリセットされる空き部屋の畳に座ると 小声であの幽霊を呼んだ
「死人さ~~ん」
〝 ………… 〟
ムスッとした表情で現れた幽霊は顔を合わせようとしない
それどころか 顔を出すだけ出してそのまま浮上しようとしていた
「時が戻っても怒ってるなんて幽霊も大変ですね」
〝 ……何に怒っているか分かるのか? 〟
「身勝手な行動…… ですよね?」
〝 もしも眠らずに死んでいたら…… またいつもの花火を打ち上げる初期に戻ってたんだぞ? 〟
「……まぁ私も酷い当たり方をしたのを覚えていますので謝ります ごめっ…………」
言葉が詰まった しばらく俯く谷下は ゆっくりとその驚いた顔を上げる
「〝いつもの〟?」
〝 あぁそうだ…… 不思議なことに貴女は決まって記憶が無くなった翌周に
三日目の町内会のイベント後 四日目には必ず花火を打ち上げていたな 〟
「そうなんだ……」
偶然だろうけど何かスッキリとしない谷下
特別答えが出て来る訳ではもないのに 何かしらの閃きを無意識に欲している自分がもどかしかった
「とりあえずはえりちゃんかな…… 染さんが会議で奮闘する日までまだあるし」
〝 ……いよいよ触れるのか 〟
「もしかして~~♪ えりちゃんに神やらなんやら聞いたら~~♪ 死んじゃう?」
〝 一日目は死なない 〟
「……三日目に死ぬかもしれないあの出来事は知ってたの?」
〝 今までの一日目と三日目に死ぬ事は無かったぞ? 二日目と四日目は死んでたがな? 〟
「……エッ?!! いやいや前回で現れたあの山みたいにデッッカい怪物を見てないの?!!」
〝 南野雪花神だろ? 何故か決まってアカリヤミって名前のここの住人が身代わりになってただろ? 〟
「アカリヤミさんがあの場にいたのが偶然じゃないってこと!!?」
〝 そう…… なるな! 〟
「……」
畳を両手で叩いて勢いよく谷下は立ち上がった
〝 あの二人…… いや一人と神と言うべきかな?
彼らに話を聞けば少しのモヤモヤは晴れるとは思う 〟
「解決には至らないって事よね?」
〝 あぁ ただ覚悟を迫られるだけだよ 〟
「さらっと貴重なアドバイスあざす」
谷下は廊下に出て とりあえず手始めにアカリヤミの部屋の扉をノックする
出てきたアカリヤミはよそよそしい態度で 良く言えばいつも通りの好青年
「隣に引っ越してきた谷下です」
「どうも…… 話は伺っています これからよろしくお願いします」
そのまま扉を閉めようとするアカリヤミの手を谷下は握った
「ヒィッ……!!」
「部屋に入ってもいいですか?」
「それは…… ちょっと……」
「いいからいいから!! 玄関まででいいから!! ホント先っちょだけ!!」
食い気味の年上の女性は アカリヤミにとって恐怖でしかなかった




