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四十九話 四日目 お約束の期日


外の騒ぎを聞きつけ 慌てた形相で高山が役所から出て来た

目の前に広がるは 戸惑う住民達が一定の方向目掛けて物を投げ付けている光景


「おい止めろ!!」


役員達が必死に声掛けをしていく中でやっと沈静化に進み出す頃

一方でカタを前にして生徒達は軽く漏らしながら尻餅を着いていた


「乗れ……」


大きくなった黒猫は身体を地に伏せて三木達に指示を仰ぐ


「何なんですか…… 何者なんですか?」


当然すぐに開き直れる訳でもなく 千代子を抱っこする三木は戸惑っていた

そんな彼女の顔を凝視するカタは見間違いするかの様に瞬きを見せる


「お前…… 三木か?」


「なんで私の名前を?」


「とりあえず乗れ!!」


カタの背中に千代子を寝かせ 三木が跨がったの確認すると

黒猫は風になってその場から颯爽と消えていった

そうとは知らずに高山は周囲に事情を聞いて回る


「猫が…… 黒くて大きな猫が感染源で……」


「落ち着いて話して下さい…… 何をそんなに皆で石やら投げていたんですか?」


「だからそこに大きな化け猫がいたんです!!!」


しかし指さす方向には数人の子供が倒れてるだけで大きな生き物一匹として姿が無かった


「何もいませんよね?」


「あれ……?」


患者に付き添う人間に限らず 実際に見ていた複数人も辺りも見回している

役員の一人が高山に状況を確認するために近寄ってきた


「まるで何かに化かされていた様子ですね…… 一体ここで何が起ったのでしょうか?」


「これだけパニックなんだ…… 混乱に乗じて存在しない筈の幻覚でも見たんだろうな」


「集団で同じ幻をですか?」


「都市伝説なんてデタラメはこういう状況で生まれるもんだ

数人が大きな木を化け猫と言ったら皆がそう見えてしまう程…… 今は緊急を要するって事だな」


特に怪異を気にしている暇が無い高山達役員は 周辺が落ち着きを取り戻し次第

病院との連絡が唯一の生命線である為に急いで役所内へと戻っていった




場所は戻って警察署の取調室の廊下

青ざめた表情でソファーに横になる谷下を見て夜桜は不審がっていた


「聴取は終わって晴れて釈放だろ? 何をそんなに項垂れてるんだ?」


「……寝れないんです」


「ハァ??」


「寝落ちる事が出来ない?! ……これじゃぁ記憶が」


谷下は急いで窓の外を覗いた

紅い色に青黒い星空が染まりつつある

オーロラが顔を露わになろうとすれば それはタイムリミットを刻む音が聞こえてくる合図


「寝れない…… 寝れない!!!!」


「おいおい…… 寝落ちなんて自発的にするもんじゃないんだろ?」


「どうしよう…… これじゃぁ今の私が死んじゃう……」


慌てふためく彼女を見るにただ事ではないが イマイチ理解が追いついていない夜桜は落ち着かせようとする


「……来るのか? 人類が滅亡する瞬間が?!!」


「来る……!! 来るぅ!!! うぅぅぅぅ寝落ちろ私ぃぃぃぃ!!!!!」


追い込まれたかのように壁に頭を打ち付ける谷下は気を失おうとしていた

寝るのがダメなら強引に意識を失おうという策に出ていたのだが


「おいヤメろ!!」


夜桜と叫び声を聞きつけたツムツムが暴れる彼女を床に押さえつける


「どうしたんだ夜桜!!」


「分からない…… 分からないが…… 心の準備をしておけ」


「何だと?!!」


日が沈むと同時に訪れた僅かな静寂

夜を迎える一時の間を人類に与える事なく その世界を逆行する灯し陽

遙か海の向こうより顔を出す不自然な太陽が帰ってくるのを住民達は目に焼き付けた


「なんだありゃぁ……!!」


「嘘だろ…… あって堪るかあんなもん!!!!」


署内は大混乱 一瞬で終わる筈と思っていたが微かな猶予があると谷下は初めて知った

慌てふためく人々に もはや やれることなど何も無いのだと ただ一人嘆く彼女

逃げようとする動作こそ 既に滑稽なコントに見えてしまうかのように

彼女はそれ程まで 絶望を経験し 絶望に抗い その人生を慣らしてきた証拠なのだろう


だが今は


「放して!! 気絶させてぇ!! ……死ぬ前に寝させてぇぇぇぇぇぇ!!!!」


本気で取り押さえていない二人を振りほどいてそのまま再度 床に頭を叩きつける谷下は狂気に満ちていた

しかしそのイカレ具合と目の前の海から迫ってくる大規模な土煙を前にして

夜桜は決死の判断を試みる


「押さえ付けとけツムツム!!」


「おい何処行くんだ!!!?」


「科捜研は何処だ?!」


「1Fの端っこの方だが……?」


「チッ…… クソォ!!!!」


夜桜は二人を残して研究所へと走って行った



ーー……リセットされる 今までの私も こんな風に悔やんで死んでいったのかな



頭から大量の血を流し 意識が朦朧としているが

現実にまだ生きている自分を実感することが凄まじく怖かった

生きているのに恐怖を感じる 眠って死ぬ方を望んでいる

彼女はもう考えることすら望んでいない


「………え!!?」


突如彼女の口を覆ったのはハンカチだった


「ムゴムゴ!!!」


「我慢しろ…… いやむしろ本望か??」



ーー何なのこれ……? 意識が…… 遠退いていく……



谷下は眠る直前 嫌な記憶を呼び覚ます



ーー夜桜さんは…… やっぱり私を殺すんだ……



「おい夜桜!! 何嗅がせたんだ?!!!」


「〝クロロホルム〟だ 研究室にあって良かった……

寝たらループするなんて話 最後の最期まで半信半疑だったがよ」



ーーエッ?!!!! ……クロロホルムって ……確か人を眠らせる



谷下はそのまま眠りに就き

夜桜とツムツムはベランダに出て最期の時を出迎えていた


「最後に慌てたせいで…… 全く実感出来ねぇぜ……」


「あれで俺達が死ぬのかぁ こうなってみねぇと信用されねぇよな 谷下先生……」


「ハァ…… すまねぇ谷下さん」


懐から煙草を取り出す夜桜は 一本ツムツムに渡す


「火はどっちが良い? ライターか? それとも太陽フレアあれか?」


「冗談言ってる場合じゃねぇだろ!! さっさと最期の一服させろや マジでウニ投げっぞ!!」


「ハハハハ!!! たくっ…… そのブラックセンス 聞き飽きたっての!!」


至福の吸引 それは甘美なる刹那を味わうか それともただただ地獄の景色に心を落ち着かせる沈静か

その身が焦げ 全身が灰になるまで二人は笑ってのけていた 




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