四十五話 三日目 カルラウイルス
時間は少し遡り
子々孫村の図書館ではコロナについて調べる夕貴
そして手伝う千代子と隅で寝ている三木サイドは忙しさに追いやられていた
「コロナウイルスって種類があるのねぇ……
動物から動物へ 動物から人へ 人から人へ
経路不明も混ざってるから中間宿主の存在は調べようが無い感染ルートも実在していた」
黙々と本を漁る夕貴はまるで歴史を追う形で読み進め
やがて令和後期の渦の中で書かれた本を手にする
「コロナの最終遺伝子変異到達地点〝カルラウイルス〟……
〝 約四種類と大きく分けられたコロナは 全てカルラへと進路を決めていたかのように歩みを進めた
元々王冠の様な形をしていたのがコロナの由来であり それが十字型へと変形していったことから
鳥の形に似ているからと名付けられたらしい
しかしカルラウイルスは和解を申し出て来たのだ 検体に見られる抗体がどうこうという話では無い
感染者全てに症状が全く見られなかったのだ
感染は広がるが 死者が出なければ 皆がいつも通りの生活を送れている
まるで怪奇を見せられているのではないか
その時代でウイルスは非常なギャップを醸しだし 愛らしさを覚える者も出て来る始末
我々は共生を許して良いのだろうか 肉眼では見えない得体の知れない共存体との行く末は…… 〟」
夕貴は本を片手に寝ている三木の所へ向かう
「三木ちゃん…… ちょっと服を脱いでくれる?」
「え…… はい……」
上半身裸の三木を自前の聴診器などで心音や呼吸音を確かめてみた
「至って変わった音は無いわねぇ~」
「なんでそんなものを持ってるんですか?」
「病院行ってもやらせてもらえないから」
片付ける夕貴が出した結論は
「驚異的な気候の変化に伴って人体にも影響を及ぼす程の……
だったらウイルスも変温の類の生き物だったのかなぁ……」
「人間は恒温動物ですよね?」
「そうだよね だけどこの本を見てよ」
千代子は夕貴が指さした本の右下の発行日を読んで驚く
「西暦2050年? ……っていつですか?」
「今は西暦XXXX年だからね~ いつに書かれたのかは分からないけど おそらく私達のご先祖様だろうね」
「……で だから何です?」
「書かれたのは人類滅亡の後 これ以前の当時生きていた人の書いた本が無いのだとしたら……」
「デタラメの創作…… もしくは……」
「奇跡的にX-Dayを目の当たりにした人間
世界が滅亡する瞬間を私達のご先祖は見てたのかもしれないね
2050年は文明と星の未来を決めた忘れちゃいけない年なのかも」
「コロナウイルスじゃない別の何かって事ですか?」
「本に表記されるカルラウイルスはあくまで著者が考えた名前
あえて本のウイルスを炎の鳥に称したのは原型だけからではなかったのだとしたら……」
「何かに立ち向かう意思 抗う志
それらは全て炎に包まれようとも生きようとした執念の表れ……」
「のぞっちゃんの妄言に信憑性が増してきたな~~
二人は図書館前で別れたのよね? 何処に行ったか聞いてる?」
「おそらく谷下先生の家に高山さんって人が送っていったと思いますけど…… あの人が何か言ってたんですか?」
「太陽フレアかぁ…… 調べてみようかなぁ……」
指を顎に当てて天井を見上げ一点を見つめる
後半の会話はほぼほぼ千代子の話を聞いていない夕貴は山のように積み重なっている本の中へと姿を消した
こうなった夕貴は何を話しかけても無駄だと苦笑している千代子に三木が話しかける
「これからどうなるんだろうね……」
「とりあえずサリンで被害に遭った人達が運ばれてる場所にでも行ってみる?
市役所なんだけどさ…… 病院はもう満員で仮の病床を用意されてるの」
「……でも また私のせいで千代子が危ない目にあったら」
「そん時は…… またここに戻ることになるかも」
「私は大歓迎だよ~~!! この状況で商売上がったりだし なにより暇だし!!」
本の中から張った声が聞こえたかと思えば 一通の紙飛行機が千代子の額に目掛けて飛んでくる
「ア痛ッ!! なんですかこれ……??」
「カルラウイルスの追加情報 おそらく私達は抗体を持っているんだよ!!
そしてまたまたおそらくの話だけど 三木ちゃんのコロナもカルラに変異してると思う
被害状況に関しては自然免疫もしくは獲得免疫によってウイルスが攻撃されてるのか
はたまたウイルスに悪性が無くなっただけかは まだ調べてる途中だけどね!!」
「そんな急ピッチでウイルスって変わるもんなんですか?!!」
「そうだね!! 異常だね!! 憶測だけど大半の人間が見ることの出来なかった現象が起きているのだとすれば
私達は今 とんでもねぇ奇跡を見ていることになる!!
令和以前の研究者達は天国から悔しがって見ているのだとしたら さっきの本の内容が理解出来る
変異のタイミングは人類滅亡期!! そして本が正しいとしたら
私達はこの数百年間 ウイルスからの実害を受けていない!!!」
「……わかりました!! 必ず届けます!!」
本の山が崩れだし 夕貴は親指を真上に立てながら静かに沈んでいった
千代子は呆れた顔でその光景を見送って 三木を背負って図書館を後にする
「まさかウイルスが無害とは…… 人体を蝕むことなく生きていけるのかな?」
「細菌も結局は人体と同じパーツの様な物の一つだし 毒素が無ければタンパク質を食べてるだけの事例もあるしね
独立していた種族が侵略ではなく共生を求めて来た そして人間の身体はそれを許したんだね」
「……寂しかったのかなぁ?」
「意思を持っていないんだしそれは無いでしょう? どっちにしろ会話も出来ないしね!!」
「意思疎通できたら実害受けてても 滅菌に躊躇しちゃうかもだしね!!」
歩いている道中で話題に盛り上がっている二人は バス停まで会話を止めることはなかった




