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四十三話 三日目 一通の手紙


聖堂にて瓦礫に埋もれるアイリーンは死に際に谷下の事を考えていた


ーー〝谷下希〟 やっぱり貴女様であったか……


静かに眠りに就こうとする彼女は最期の最後に微笑んだ

初めて人と向き合った彼女は それを覚えなかった場合 安らかに死ねたのだろうか

後悔を肌で感じる握った拳を前に差し出してみる その手が指し示す方向は明日への扉


〝 晴耕雨読…… それは荒唐無稽の戯れ言か?

帰巣本能は帰り道を示してくれる神より与えられし未来あるいは過去へ繋ぐ虹の橋

燃え尽きてはならない 断ち切ってはいけない

銀の翼を携えて 太陽に近づく子らは溶かされる

太陽に嫌われた怪鳥は その肉体を犠牲にしようとも 炎に包まれながらその聖域に辿り着いたという

生きることを許された怪鳥は海へと沈み その巨躯を癒やすこと無く一帯の地の肥料となった

谷の下にて朽ちて気付く真の希み

灰は伝う 風に乗って飄々と まるで想いを告げる新たな因果律を提示しているかのように 〟



……この島は〝宝船〟 治めた王は唯一無二の〝獅子〟

再建されたこの緑の王国は残された人々に用意されていた最果てへと連れて行く方舟だ

途方も無く 何世代にも渡る幾星霜の数々で進路を誤ることをせず

目的地へと向かっているのか もしくは太陽から逃げているのか

崇拝を忘れ 社会に無我夢中に生きる人間には関係無いお話なのです



肉が爛れるその腕に力が入る訳もなく

アイリーンは真っ黒な姿となって 炎の渦の中へと消えていった



ーーどうしてこんな世界になったんですか? 谷下先生…… 是非…… 教え……てくれ……ません…か…




一方その頃 榊葉の居場所を突き止めた谷下とミカンは例の山にあるサイロに来ていた


「本当にここにいるの? こんな事態なのに畑なんて耕しているのがバレたら……」


「でも当の犯人が榊葉ですからね……」


「そうか……」


鷹揚として常に冷静な態度の谷下

蓄積された怒りは表に漏れ出すことなく されど溜め込むだけその時になれば爆発力も増す


「野郎はこの先の楠が密集する森の奥にある一軒家に身を潜めている事が分かりました

ティキシもおそらくそこにいるんでしょう」


「そんな場所が…… 全然知らなかったわ」


「尾行でもしなければ探し出せなかった場所という事ですね…… あのチビに感謝です!!」


茂みへと入っていく二人

日暮れもあって蝉時雨が至る箇所から聞こえてくる

よく見れば奥の方には魔女でも住んでいるかのようなチューダー様式の家がポツンと建っていた


「ここが…… 榊葉町長の家?」


「油断しないで下さいね! 奴は人を一概に殺すベーシッククレイジーなクソ野郎の可能性大です!!」


煙突に煙は上がっておらず まるでここ数年ほったらかしにでもされてたかのような廃墟へと化していた

谷下が中へ入ろうとした瞬間 何処かで大きな物音が生じる


「何々?!!」


「裏庭ですね!! 行ってみましょう!!」


自分達はなるべく足音を立てずに外から裏に回り込む

先ほどからザワつく胸の鼓動に手を当てて落ち着かせつつ

ゆっくりと裏庭を覗いた


「…………………えぇ?!!!」


谷下は絶望した

居たのは 鍵盤ハーモニカに血を染みこませるティキシと爪と牙に血痕が残る黒猫のカタ

そしてその二人の間に倒れているのは榊葉直哉だった

谷下は二人を見て思わず後ろに倒れ込んでしまう


「な…… 何をしてるの?!」


「アラアラアラアラ~~ 何ぶっ殺しちゃってるんですかティキシ~~」


この状況について慌てて話し出したのはカタだった


「仕方無かったんだ!! お前達も見ただろ?! 街の惨劇を!!!!

榊葉はこの島の全員を殺すつもりだったんだ!! だから俺は…… アンタを守る為に!!!」


「カタ……」


ティキシも続いて口を開く


「王からの処罰は甘んじて受けよう…… だがこのろくでなしは殺されても文句言えねぇ筈っすよ?」


「っ…………!!」


「俺達〝七福神〟が必死こいて守ってきた島民をこいつは…… 昨日今日でとんでもねぇ数の死人を出しやがった

……それとも谷下先生 もしかしてこのクズと何かしらのご関係がおありっすか?」


「えっ……?」


ティキシはハーモニカを 重なって置いてあるボロい鉢が集まっている花壇に放り投げ

榊葉の懐から一通の古い手紙を取り出すと谷下に渡した


「これって……?」


「そこのゴミ野郎が死に際まで押さえて離さない物でした……

おそらくその手紙を持ち出す為にここに帰って来たんだと……」


ティキシの声が聞こえなくなるくらい谷下は手紙を凝視している 何故なら


「私宛?」


「何ですって?」


ミカンも手紙を覗くと 確かに封の中の手紙には〝谷下希〟の名が含まれる文章が書かれている


「どういうこと?」


谷下は手紙を読んでみる その内容は



〝 拝啓 谷下希様

時節を跨ぎ、いつの日に届くか分からぬ状況で書き残す事を、お許し下さい。

私は、時を超えてこの時代にやって来た者です。 戻り方は今の所、分かっておりません。

さて、今回貴女様に手紙を受け取って貰いたい理由ですが、率直に私を元の時代に帰して頂きたくお願い申し出た次第です。

生命を冒涜した領域外の時間旅行も、有意義で、とても退屈には程遠い新鮮な時を過ごせました。

お礼も兼ね兼ねの筆となりますが、もし私の気持ちが今の時代の不在の王殿に届くのであれば、見返りは求めません。

次の瞬きで、心地良い夢の一時であったと。

小説の題材にしようかとも思えてしまう夢の世界だったと、思わせて頂くように、

私の時間へと帰して頂けたらば幸いと思っております。

悪戯だけならば敬愛を覚えましょう。 うっかりなら愛着を抱きましょう。

どうか、 どうか、 過ちを犯す前によろしくお願いします。 〟



「榊葉町長も…… 三木ちゃんと同じだったの?」


「獅子の事を知ってるってことは並のタイムトラベラーではありませんね!!」


「いや…… 獅子については私も全く知らないんですが?

獅子って言葉を最初に聞いたのは榊葉町長からだったっけ……」


谷下はグッと手紙を握りしめた

表情は例えるならば鬼の形相 倒れている榊葉の肩を掴むなり激しく(さす)った


「まさか腹癒はらいせなんて言いませんよね?!! 過去に帰れなかったからサリンを撒いたんですか?!!」


必死に問いかける谷下 だが重症の榊葉は目覚めない

そんな彼女を見つめるティキシは止めに入る


「谷下先生…… もうダメっすよ……」


「うるさい!! なんで殺したのよ!!? ……殺さなくても良かったじゃない!!」


「っ……!! ごめんなさい……」


何も返せなかったティキシ その光景を見て後悔を覚えているカタ

ようやく少し前進するかもしれない 明日に訪れる大規模の災害も控えているのに

何でこんなに惨事が立て続けに起るのかと 谷下は既にパニックを起こしていた




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― 新着の感想 ―
[良い点] 榊葉の手紙には句読点が!Σ(゜д゜|||)
[一言] 榊葉町長ぬっこされててて草
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