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四十二話 三日目 扮する悪行


「私のママンは いつどんな時でも変わることのない〝遊び心〟を持って生きていた

幼少の頃にはそこら辺にある木の棒や石ころで遊びを覚える彼女は充実していた

しかし同じ事を繰り返せば長続き出来なくなるのが人間というものであり

やってる事に先が見えないのならば尚更だった

学校に入学してからは勉強そっちのけで新しい遊びを考案して来たという

だけど限界を迎えてしまった

図書館で読んでいた大昔に存在する電子という高度な技術を持って作られる代物は現代では入手不可能だったんだ

昭和の遊びや平成のメイド喫茶など勉強や工夫で可能な物とは違って

この島で一から作り上げることは不可能だった

勉強して外を見渡しても実現することが叶わない彼女は酷く絶望に陥り…… ストレスで顎関節症になったとか

そんな卒業を迎える時期になったある日 例の〝謎の男〟は現れた

謎の男は過去についてあまりに詳しく さらに何処からともなく実物を取り寄せて彼女を魅了させた

大昔の人々の遊びの歴史を聞かされる度に心が満たされる彼女は

とうとう時代の行き止まりを知ることになったんだ」


「〝令和後期に人類滅亡〟 ……文明消滅の瞬間ね」


「そうだ…… 本人も勉強はしていたから大して驚きは無かったものの

ゲームソフトのシリーズが中途半端で止まっている事実を知るのと同等に悲しんだという

これに関しては私もショックだった……

さっきまでやっていたサラダの仮説シリーズもあのソフトで最後だったから」


「そう…… だったんですか……」


「そしてママンは卒業論文 そしてスクリーンに映った映像を残し

学園内で共鳴した者達と協力してこの土地にドームと聖堂を 

激動の快楽が埋もれていた先の時代を追体験するかの様にカイコ真理教〟が起ち上がったのだ

そんな計画の途中で私は産まれた

ママンはもしもの時…… 万が一自分の身に何かが起きたとき

次代の尊師 神託の巫女として私に彼女と同じ名前が付けられた

案の定 ママンは自害したがな」


「え? 理由は?」


「過労とストレス…… あとは自分が許せなかったんだろうな」


「許せない?」


「普段の話し方も含めて矯正するかのような教育

学校にも行かせずにこの小さな世界に私を閉じ込めている事に疑問を持っていたんだろう

二人きりの時間も親子で接することは無かったが 一度だけあの地下で一緒にゲームしたとき

……さりげなく謝ってきた」


「…………」


「今までは夢中になっていたからか 教団の為に産んだ私に興味など無かっただろうが

一段落して好き勝手やり終えた後に気付いての後悔だったんだろうな

何故謝ったのか理解していないかのような表情で謝られたよ

酒に手を付けて私の前から消えた次の日から 誰も教祖ママンの行方を知る者はいなかった

ただ課せられた二代目尊師の役職だけを残して ただただその日はゲームに没頭するしかなかった」


「アイリーンさん……」


気付けば涙でグシャグシャだったのは谷下だった

火が回ってから時間が経ち 天井から柱が落ちてくるまでに危険な状況だが

谷下からすれば もはやアイリーンとしか向き合っていない


「辛かったね…… 想像も出来ないよそんな人生」


優しく抱きしめる谷下に アイリーンはただ笑うしかなかった


「辛い…… 悲しい…… か…… もうっちょっと親子の時間を過ごしていたら泣けたのかのぅ……」


「泣いて当然だよ! こんな人生無いよ!!」


「否定しているとこ悪いがワシのゲームライフは捨てたもんじゃなかったぞ

……それにそろそろタイムリミットじゃ」


ステンドガラスが割れ 辺りの視界も悪くなっている


「本当に一緒に逃げないの?」


「うむ…… だからさっさと逃げるのじゃ!! 丁度お主の守護者も来てるようだしな?」


アイリーンの指さす方向にはメイド服に火が移っているミカンが


「大丈夫なのミカンさん!!? 燃えてるよ!!?」


「はぁい萌えるミカンです!! ミカンを焼くには火力がイマイチってとこですがね!!」


苦笑する谷下 そんな彼女へアイリーンは最後に


「頼み事いいかのぉ?」


「何ですか? ……ちょっとミカンさん?!!」


ミカンにお姫様抱っこされる谷下を見て アイリーンは死ぬ間際にも関わらず笑っていた


「もしもまた逆戻りするような事があればワシを救ってくれないか?」


「そんなの…… 当たり前じゃないですか!!

あのよく分からない太陽からの攻撃から皆を救って!! ……今度はちゃんと外に出てゲームしましょう!!」


「うむ!! 楽しみに待っておるぞ!!」


「……あとその口調もやめましょう 次からはお母さんの話をしてくれてる時の素のアイリーンさんを見せて下さい!!」


「……ヘヘ!! 約束するよ!!

初見なのにあれだけプレイが上手かった人は見たことない!!

死にゲーとかまだまだ色んなソフトがあるから その時は助けて下さいね!! 谷下先生!!」


「……うん 必ず助けに来るから!!!!」


落下物に過激さが増す中 これ以上留まる事に危機を感じたミカンは避難する為にその場を動いた


「谷下先生!!」


遠くから叫ぶアイリーンの声に谷下は必死に耳を研ぎ澄ます


「謎の男は……!! 〝榊葉〟と名乗っていました!!!!」


「…………」


二人が建物の外へと脱出した頃には聖堂の屋根が崩れ始め

見えない屋内からは大きな瓦礫が落下する音だけが聞こえる


ドームの外へと谷下を抱っこして逃げるミカンは とりあえず表参道まで走る足を止めなかった


「ハァハァ……」


少し煙を吸って道の真ん中で四つん這いになる谷下

鼻水と共に流れる涙から伝わる悲しみはミカンも承知の上だ


「あなたは何者なの……? 榊葉町長……」


「今言うのは酷かもしれませんが…… ここに火を放ったのも榊葉でした」


「っ…………!!」


「卵の買い出しに行っていた私がこの目で見ていたので間違いありません

今はティキシに後を追わせていますので居場所が分かり次第…… お伝えします」




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