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四十一話 三日目 神託の怠惰っ娘


『どうもぉ! センモンガイレディオからお送りしております

毎度お馴染みDJタカヤマーンでぇす!!

小さな島を大きな大都市に! 今宵も皆様の声を受け取って清き世論へと繋いでいきます

ですが今回は既に情報が拡散され 不安を抱かれて夜も眠れない住民の皆さんにお知らせです!!

皆さんには既に知れ渡っているかもしれない〝ウイルスの驚異〟でしたが……

何の問題もございませんでした!!』


ーーえっ?


『さらに追加情報です!!

ただ今カイコ真理教の施設が炎上している事は近辺に住む皆さんにも不安を煽っていることでしょう

そうなった経緯はなんと…… 今までの一連に関する事件の加害者となっているからです

信者の一人の証言によりますと…… なんとも悪魔を連想させるかのような内容です……

大衆が集まる場所を中心としたあの伝説の殺戮神経ガス〝サリン〟を各所でバラ撒いたと述べていました

それらしき袋がまず事件の最初となった子々孫学校の階段下の狭い踊り場にて

そして商店街を中心に 至る箇所で袋に入ったサリンが点在している事が分かりました!!

どれも密閉空間内部での発見という事でしたので

事件が収束するまで三密の一つでもあった〝密閉〟を意識して近づかぬよう

そしてなるべく外出は控え 指示があるまで家の中での待機を心掛けて下さい

尚 建物に火を付けた人間は現在追跡中 火の消火は迅速に取り掛かってます

食料配分は既に市役所内で対策を進めてますのでご安心を


本日は〝人と人とが手を取り合って協力する〟をスローガンにした曲をメドレーでお送りします

それでは以前より贈られて来たリクエスト曲からまずこの曲を抜粋!!』


ーー……どうなってるの? いやそれよも あのアイリーンさんがそんなことをする筈がない!!


再度煙が上がっている方を振り向き

教団本部に繋がる裏路地を探す

見覚えのある通りに近づくにつれて 前来たときの事が鮮明に視界とリンクした


「ここだ……」


微かに焦げ臭く 目が染みる痛覚を覚える谷下はそれでも進もうとする


ーーなんでこんな事に…… サリンを撒いたのは誰なの?!


「どいてくれ!! ここからも通れるぞ!!」


谷下の背後から消防員がホースを伸ばしてやって来た

端に寄っていた谷下に目もくれず 数人の隊員達は彼女の向かう先へと走って行った


ーー本当に消火活動はしてくれているんだ……


谷下も裏路地を抜け出す

ドームの前には項垂れる者や手を合わせて拝む信者達が避難していた

その内の信者数人がドームに向かって叫んでいる


「俺達は居たい場所で暮らしていただけだろぉがぁ!!!! 何の恨みを買ったってんだよぉ!!!?」


「何にも知らない現地人がぁ!!!! 消失した文明に憧れを持って何が悪いんだぁ!!!?」


悲痛な叫びを訴える人達を見ていた谷下だが

今はアイリーンのみの身を案じている 近くにいた女性の信者を見つけるなり情報を得ようとする


「尊師は…… アイリーンさんは無事なんですか?」


「それが…… 見当たらないんです…… 署から逃げて来た情報もあるので おそらくは……」


「っ……!!」


谷下は正面から中に入らず 以前ミカンが逃がしてくれたルートを探しに行く


「ここだここだ!!」


奥側にある人目に付かない扉

中に入ると通路に煙は入って来ていなかった


「待ってて下さい!!」


ーー過去視で見たことが事実ならば 彼女は聖堂の中で死んでいる


相変わらずの別世界へと出た谷下は目を丸めて驚いていた

ドームの中とはいえ辺りの花畑には火が届いていない なのに聖堂だけが業火に包まれている

つまり犯人はアイリーンを殺そうとしていたという動機に繋がる


「アイリーンさん!!!」


燃えさかる聖堂に入ろうとしている彼女を止めたのは庭師だった


「お待ちなさい!! 死ぬ気ですか?」


「アイリーンさんは中にいるのでしょう? あなたも突っ立ってないで尊師を守ったらどうなの?!」


「これがアイリーン様の最後の命令なのです」


「えっ……?」


「〝人類滅亡は明日 各自はそれぞれの時間を過ごしなさい たった一日の苦痛は乗り越えましょう

神は既に天への架け橋を作っておられます それまで自心を豊かに そして旅立つ支度と心身を清めなさい〟と……

私もここを離れる所でした あなた様もそうなさい」


「そんな…… アイリーンさん…… あなたは何の為に……!!」


谷下は押さえつけている庭師の腕を振り払い 聖堂へと入って行く

中も当然のことながら火が回っており 燃える数ある長椅子の中でも火の手が迫っていない椅子が一つ

そこにチョコンと座って見覚えのあるゲーム機を持ちながら集中してプレイしている彼女がいた


「アイリーンさん…… 何しているんですか?」


「んぁ!!? おぉ篠崎塔子だっけかな? 何用じゃ?」


「……なんで逃げないんですか?」


「決めておったのじゃ…… 最期はゲームしながら死にたいとな!!」


「そんな…… まだ間に合います!! 一緒に逃げましょうよ!!!」


「逃げてどうするのじゃ? どうせ明日には皆な死ぬのじゃろ?」


「っ……!! それは……」


ゲーム機から大きな音が鳴ると アイリーンは溜息交じりに持っていた物を隣に置いた


「ガノントモスも倒してしまったし…… 死に時じゃなぁ……」


「アイリーンさん…… 聞きたいことがあるんですが……」


「何じゃ?」



「……あなたは何の為に産まれてきたんですか?」





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