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三十八話 三日目 腐敗する休憩所


目が覚めた頃には昼過ぎだった

三木は相変わらず咳をしているが谷下と千代子には未だ症状は見られない


「マスクの勝利ですね!!」


「だね!!」


三木が布団から観覧していた中で谷下と千代子は台所を借りて料理を作っていた


「野菜とか勝手に頂いて怒られませんかね?」


「事情を話せば分かってくれると思う 昨日の夜から飲まず食わずだったんだから」


「そうですよね! ……っ イテテ」


「無理しないで休んでていいよ千代子ちゃん! 身体中傷だらけなんだから」


「大丈夫です…… 私達を受け入れてくれた事が嬉しくて何かしなきゃと思ってるだけですから」


野菜を切る千代子とそれを卵と一緒に炒める谷下との連携はバッチリだった

丸いテーブルを三木が寝ていた布団の上まで運んできて久々の朝食を取る


「そういえば私…… 一昨日からほとんど何も食べて無かった……」


「マジっすか?」


「うん…… よく考えればポテチとコーラばっか食べてた!!」


「それは不摂生過ぎまっせ谷下先生!!」


「えっ? 先生?!」


「あっ…… ついすみません……

だって私達を受け入れてくれるキッカケとなったのは谷下先生が居てこそだと思ってます

それにコロナの事を話しても毅然としていた感じでしたし」


「それは…… まぁこっちも色々あったからね…… 上手く整理がついてないんだと思う」


谷下も未だに昨夜の起った事の一連を理解している訳ではない

今でも夢だったのかなと麻痺しているくらいだ


「それでも助けてくれた事に変わりはありません 自分を救ってくれた人を先生と呼んではダメですか?」


「そんなことは無いと思うけど…… なんか私がその問いに返答したらメチャ恥ずい……」


「……」


千代子は箸を茶碗の上に置き 勢いよく座ったまま後ろに(いざ)る彼女は深々と畳に手を着いてお辞儀を見せた


「帰り際の染島さん達にも伝えましたが…… 三木ちゃんを助けてくれてありがとうございました」


「綺麗なイザリバイ…… って違う! やめてよそんな改まって~!!」


「大人に煙たがられた子供をあなた方は受け入れてくれました

これがどれだけ自分達に未来を感じるのか 子供にしか分からない事ですがそういう意味になってくるのです」


「っ…… そうなんだ…… とりあえずご飯食べて済ませましょ!?」


気付けば正午をとっくに過ぎて 辺りが薄暗くなる直前の時間帯

お腹が膨れて寝直している三木 台所で皿を洗っている二人の話は図書館に移っていた


「そういえば夕貴姉さんとは仲が良いんだよね千代子ちゃん」


「そうですね…… 私に新しい〝未知なる道〟を切り開いてくれた人ですからね!」


「未知なる道って?」


「私は中原中也とか太宰治といった文豪と呼ばれた作家の書いた作品を読むのが好きなんです

生前・没後に多大なる影響を及ぼした 作品の内容はとても一般では書くことの出来ない卓越された物でした

その時代を調べても見えて来ない 繊細な窮地を教えてくれる作品も多いんです」


「ふぅん…… 常連って聞いてたから余程本を読むのが好きな印象だったけどすごいね!」


「えぇ…… でも何かが物足りなかったんです

イマイチ本気になれないって言うか 妄想と理想タラレバを繰り返している私がいるんです」


「と言いますと?」


「文豪全員をイケイケにして そのイケメン同士で…… イチャイチャさせたり

私生活からストーリーまで一から考えて 時に欲求が爆発して…… その…… ハァハァ……

一線を越えて二人一緒のベッドシーンやシャワーシーン……

裸の付き合いが過激化して…… ハァハァハァハァ!!!!」


「ちょっと千代子ちゃん大丈夫!!?」


「大丈夫です!!!! 傷口が疼くだけです!!!!」


急に悶え苦しむ千代子に谷下は気が気でない

皿洗いを止めさせて 畳に座らせた


「断線しましたが そんな私の悩みを解決させてくれたのが夕貴さんでした

次の日まで探しくれると言ってくれたので その晩寝られなかったのを覚えています

そして図書館で夕貴さんに渡された何冊かの本が運命的な出会いでした」


千代子は持っていた小さな鞄から一冊の本を取り出した


「……これって」


「漫画本です ジャンルはボーイズラブってものらしいです

内容を見てビックリしました……

私の求めていた偏る答えが旧世界に既に存在し 世間で共有し合っていたことを」


「ほぉ……」


谷下は生返事で漫画本を読み進めていく


「おっ!! 谷下先生も〝そっち系〟ですか?!!」


「えっ…… あぁいや…… うん…… まぁ面白よねなんか!!」


手で口を押さえながら 見開いた目でマジマジと釘付けの谷下は得体の知れない悶々と葛藤する

キリが良い所で本を閉じ 皿洗いを再開させる谷下の視界に見覚えのある車が見えた


「あれって……」


2000GTは休憩所の前に停まり 車内から現れたのは高山だった


「本当に女性がいるとは びっくらこいた……」


「……高山課長」


「おっ!! 私の顔を既に覚えてくれているのかい〝谷下君〟」


ーーそうか…… 一応高山課長は履歴書やら面接やらで私を事前に知ってくれているんだ


「染島さんから事情を聞いてね 君達を保護するよう連絡が来たんだ」


「……ありがとうございます」


「他に二人居ると聞いたんだが……」


休憩所を覗く高山が見た物は 畳の上で弱っている少女に添い寝しているもう一人の傷だらけの少女

互いに寄り添い傷を癒やし合っているかのような外野が割って入る隙を与えない神聖なるワンシーンに


「オフゥ…… ごっつえぇ百合やないかい!!!!!!」


「えっ? 課長もそっち系なんですか?」


「いやっ!!? ……ウ~~~ン まぁ ……ウ~~~ン たっといなぁ……」


「……はぁ」


高山は半ば否定するものの その視線を送る眼力は肯定を示唆していた




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