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三十七話 三日目 休憩所でお泊まり


「すっかり夜が更けちまったな……」


「俺達はこれの前に神さんと戦ってたんだ…… 時間の進みなんてあっという間よ」


外で一服している夜桜と 軽トラのエンジンを始動させている染島

街の状況を把握しに行く為に二人は山を下りることにしていた


「染島さん…… あの…… 助けて頂いてありがとうございました」


「……君の方が大変だっただろう? 森で見かけたあの青年は知り合いだったのか?」


「っ…… はい……」


「そうか…… とりあえず休むと良い

あの子が感染しているウイルスが怖かったら無理しないで家まで送ろう

千代子ちゃんは三木ちゃんから離れられない理由があるらしいが 君は違うだろ?」


「大丈夫です 三木ちゃんとは初めましてですけど なんか全く他人とは思えないんです」


「そっか…… じゃぁ頼んだぜ」


「はい! 染島さんもお気を付けて」


「〝染さん〟って呼んでくれや! 町内会の間ではそうやって親しまれてんだ!」


夜桜が助手席に乗り込むと軽トラは発車された

窓から腕を伸ばして手を振る染島に 谷下は安堵の表情で振り返している


ーー記憶が消えた世界なのに…… 何で助けてくれたんだろう


嬉しくなる気持ちに疑問を問いかける不思議な感覚だけど

悪くない気分は昨日から溜まる疲れに癒やしを与えてくれた


「三木ちゃん 千代子ちゃん 何か料理して食べよっか!!」


休憩所に戻る谷下は二人に声を掛けたが 生憎二人は深い眠りに就いていた

布団で寝る三木と血が滲んでる制服を掛け布団にして雑魚寝している千代子

少し距離を取っていたが布団からはみ出る手と手は握り合っていた


「二人は…… 仲良しなんだね」


いつ出会ったかなんて関係ないんだと谷下は悟る


ーー時間を掛けて作り上げられる家族や 恋人や 友人は

繋がった絆を早々無下に出来ないだろう

千代子ちゃんに傷を負わせた人もまた 大事な物を傷つけられたから

だけど傷つけた人間と同じように千代子ちゃんも三木ちゃんを大事に思っている

その天秤は等しく 昨日今日出会ったからといって否定するモノではない


谷下も布団を取り出し 三木の隣で横になる


ーー記憶は消えてしまえど 変わらないモノはある

大切な者の為に戦う者 傷ついた者を看病する者 培った思い出を守る者

手を取り合えなくても繋がる者達が紡いで来た世界が今なんだ

〝災害と戦い〟 〝ウイルスと戦い〟 〝助け合って不況を乗り越え〟 〝互いに信じ合う強さを育んだ〟

間違いがあったよ…… アイリーンさんのお母さん

昔の日本人が私達に残してくれた偉大な宝物は〝暮らし〟

生きていけない筈の滅亡後の未来で 私達が生きてける場所を最後の魔法かがくで遺してくれたんだ

先祖の方々にお礼を言わなきゃ

自分の事で精一杯だった筈の終末に 私達の事を考えてくれる人達がいた……

……いた筈なんだ 私が出会った人達は皆 私を助けてくれる

そんな人達だらけの系譜を遡って悪い人がいる筈が無い


三木が寝返りを打つと 谷下にそのあどけない寝顔を見せる

谷下は思わず笑ってしまい 三木の頬を突っついた


ーーそんな昔の人達にも恩返ししなきゃだね…… 三木ちゃん…… 貴女を死なせはしないから

そして今回の問題を解決したら必ず 貴女を元の時代に返してあげるからね


布団を口元まで引き寄せ 静かに目を瞑る谷下は蓄積された疲労に応えるかのように眠った




農園から下山する染島と夜桜サイド

鼻歌交じりに運転する染島とは反対に 夜桜は腕を組んで考え事をしていた


「なぁ染やん…… 人類が滅亡するキッカケが決定的になった瞬間は何だと思う?」


「そりゃぁ…… お前が学生時代に言ってた核戦争じゃねぇのか?」


「戦争に発展する時は少なからず容易じゃない出来事が起きた後に勃発するんだ

その戦争に行く前の〝始まりの部分〟を言っている」


「外国人が諸外国の人間を殺してしまったとか 差別で」


「そんなのは歴史上…… 言い方が悪いが日常茶飯事だった」


「んじゃ超大不況の末の戦争とか……

核ミサイルの撃ち過ぎとか超磁力兵器による地殻変動が起きてさぁ

この島以外の大陸が全部海の底に沈んだ…… とかが辻褄合って来るよな!?

戦争路線を外すならやっぱり災害とか隕石とかかな?」


「……俺は〝医療崩壊〟が事の発端だと見ていた」


「医療って…… まさかコロナウイルスが始まりって言いたいのかぁ?!

でもありゃぁ令和前期で新型肺炎は次々と終息しただろうが」


「コロナウイルスがいなくなった訳じゃない

問題は文明が滅んだ令和後期だ…… 人類が楽観視していた訳でも無いのにも関わらず

滅亡しうるまでに至った原因ってのは もしかしたら予想を上回る何かに見舞われたって事じゃないか?」


「つまり何が言いたいんだよ?」


「……気になってたんだ あの三木って子の話によると この時代にやって来たのは二日前だろ?

なのに〝感染症が出始めた〟よりもまず〝症状が見られる奴が多過ぎる〟って話が出たんだよ

……感染したにしても〝潜伏期間〟が短か過ぎやしねぇか?」


「確かに…… 即効性の毒じゃあるめぇし不可解だな」


「もしかすると……」


夜桜の額には汗が流れだし 組んでいた腕は硬直して引き締まっていた


「〝令和崩壊まえ〟と同じ事が起きるかもしれねぇ」


「何?!! セカンドインパクトか?!!」


「……今はシャレ言ってる場合じゃねぇかもしれねぇぞ?」



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