三十六話 三日目 三木の正体
少女を背負う少女の着ている制服はボロボロに薄汚れていた
よく見れば所々血を流している
「どうしたんだい君達!!?」
「今日は若いオナゴがよく徘徊しているな…… 世紀末か?」
背負っている少女は疲れ切った顔をしていたが
荷台に座る谷下を発見するなり目を大きく開かせた
「谷下さん!?」
最後の力を振り絞り 千鳥足で荷台へと駆け寄った
「え……? 千代子ちゃん? と三木ちゃん?!」
「……無事だったんですね」
膝を地ベタに着いて息を荒げる千代子
しかし背負っている三木を降ろすことも無く背負ったままだ
谷下は染島と夜桜を説得させ
二人を荷台に乗せると五人でサイロに向かうことになった
森が無くなるとそこからが榊葉の土地となる
辺りに灯りは無く とりあえずサイロ近くにある休憩所前に車を停めた
「ここに救急箱無かったっけ夜桜!?」
「前にも来た事あるから場所は分かる」
「じゃあ任せたぞ! あと麦茶もお願い!」
夜桜と千代子が奥の台所に向かい 染島は三木を背負って来て畳の上に寝かせていた
谷下はというと中に入らず外を見渡していた
ーーあの時は大家さんメンバーと染さんメンバーの大所帯で賑やかだったな~
今はそんな跡も残っていない別世界の様に静かだ
感傷に浸っていると染島が引き戸を開けて自分の名前を呼ぶ
「三木って子が起きたぞ!!」
「はい! 今行きます!」
休憩所に行くと泣いて三木に抱きつく千代子が慌ただしかった
段差がある所で染島と夜桜が酒と麦茶を酌み交わしている
「三木ちゃんが皆に話すことがあるんだってよ」
夜桜に言われて谷下は靴を脱ぎ 三木の近くに座った
「……本当にお姉ちゃんだ」
「何があったの二人共?」
俯いている二人の手は震えていた しかし自分達の状況を理解して貰う為にまず千代子が話す
「今日の昼過ぎの時でした
生徒の一人が倒れて救急車に運ばれたんです
そして放課後…… 三木ちゃんの看病しに保健室に向かう頃に
生徒の多数が倒れたり不調を訴え始めました」
「えっ!!? ……なんでそんな事に」
その場にいる染島も驚いていた
夜桜は顔色一つ変えなかったがその場から離れてサイロへと向かう
「原因は分かりません なのに一人の生徒が〝こうなったのは保健室にいるあの女の仕業だ〟と言い張ったんです」
「なんで三木ちゃんを……」
「怪しまれてなかった訳ではないんです 今日の欠席者もいつもより多かったですし
佐分利先生も入院したって話を聞きました
何より知らない子が保健室で寝ていたら気味悪がられるのは当然ですからね」
「サブリンも?!!」
「〝未知のウイルス〟に感染したと担任が言っていました
三木ちゃんに〝悪魔の女〟という貼られたレッテルが学校中の生徒達に広まったので
危険を感じて三木ちゃんを連れて外へ出たんです」
「……それからどうしたの?」
「もしかしたらという気持ちを抑えきれなかったので
療養してた自宅から三木ちゃんを病院へ連れて行くことにしました
……そしたら既に何十人ものの生徒や生徒以外の患者が病院に押しかけており
さらに原因は三木ちゃんだって話が院内中に広まっていたんです
顔を知っていた一人の生徒が私達を指さした途端……
〝 出て行け!! この悪魔め!!!! 〟
皆からそこら辺にある物を一斉に投げ付けられて…… ここまで逃げてきたという訳です」
「非道い……」
千代子の話を聞いた谷下の眉間にはシワが寄っていた
「だがパニック状態になるのが自然だ 千代子ちゃんにやったことは非人道的でもな」
夜桜は戻って来るなり全員にマスクを渡した
「よく見つけたね」
「感染予防効果があるかは保証出来ねぇがとりあえず付けとけ
救急箱はあったから怪我人の手当てをしてやれ
あと市販薬はあったんだが相手がウイルスなら下手に服用はさせられないな」
「治らないのか?」
「症状を緩和させられるとは思うが……
医者の診断も無しに適当なのを飲ませて どんな副作用が出てくるか危険しかない
インフルエンザ相手になら脳症になる可能性があるって言われてたくらいだ」
全員がマスクを装着した時
寝ていた三木が弱々しく起き上がった
「寝ておかなきゃダメだよ三木ちゃん!!」
「ハァハァ…… 大丈夫 皆に話さなきゃいけないから」
一呼吸置いて胸に手を置きながら 三木は震えた声で自分の事を話し始める
「私は…… おそらくですけど〝過去〟からやって来ました」
一同は唖然と三木を見ていた
とても第一声で信用できる事ではない言葉が飛び出したのだから
「な…… 何を言ってるんだい?」
「ここへやって来た正確な事は言えませんが
覚えている限り〝令和2年4月13日〟 私は自宅で熱やダルさを覚えて病院へ赴き
院内で〝コロナウイルス〟に感染していることが発覚しました
入院当初は重症でしたが何ヶ月かして完治の兆しが見れたので退院を喜んでいた最中 おそらく寝ている時
腕とビタミンCが入った点滴を繋ぐ切断されたチューブと共にこの時代の街中に飛ばされたのです……」
「にわかに信じられないが……」
「三木ちゃんは嘘を付くような子じゃないです!!」
嘘を付くメリットがある様態でも無いことに加え 千代子の弁護もあり
周りは信じる方向で話を進めていく
「タイムスリップなんて空想の話だと思ってたがな……」
「それこそアレだよな! ドザえもんの秘密道具にそういうのあったよな!!」
「タイムマシンだよな!? 設定は確か22世紀だが 21世紀の初期に既に実現していたとは!!」
大人二人が盛り上がっている中 口を挟むのが重苦しい表情を見せる三木は正直に言う
「いいえ…… 実現してません」
「「「 っ…………!! 」」」
「すっ…… すみません……」
悪気があった訳ではないが 染島と夜桜の夢が壊れた瞬間に襲ってくる罪悪感に押し潰される三木であった




