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三十一話 二日目 羨門警察署のデカツムツム


谷下はいつの間にか寝ていた

腫れぼったい目を擦りながら起き上がる彼女の隣にはソロゲーを黙々とプレイしているアイリーン


「プレイ中に寝落ちるとは 古の言葉にある徹ゲーを連想させるな」


「〝徹ゲー〟?」


「徹夜でゲームじゃ 見たところ貴女はまだここで聖書を貰ってないようだな

平成の世界に行くのであれば 特別にワシから直々に啓示の標へと導いてあげよう」


アイリーンは棚に並べられたゲームソフトを崩落させて

奥から埃の被った分厚い本を持ってきた


「これじゃ…… 〝ニコ約聖書〟と信者には呼ばせてある」


「なんかソフトな聖書ですね」


「今は無い〝ネットワーク〟の世界で流行っていた言葉などがこれに収まっている

平成の世界に住む者にしか配ることがないでの 気に入ったのなら貴女もその道に進めばよい」


「はぁ……」


谷下は抵抗なく受け取る

そしてアイリーンは再びゲームのコントローラーを持つと気さくに話題を振ってきた


「して篠崎よ 貴女は何故この施設に来たのかな?」


「……全部話します」


信用した訳ではなかった

しかしついつい本音が漏れてしまう程の楽しい時間を過ごした谷下は気が緩んでしまっていたのだ

アイリーンという底知れぬ支配者だということは理解している

されど本人とこの空間の前にして 緊張感を解くなと言われる方が難しい


「カクカクシカジカです」


「ほぉ…… 人類滅亡ねぇ そして貴女は未来からやって来たと

調べた先で行き着いた子々孫村の学校とはまた珍しい教団開闢の地名が出てきたものじゃ」


「旧視聴覚室に残されていた映像に映る女性はアイリーンさんではないですよね?」


「おそらく教祖ママンじゃな…… 言ってしまえば初代アイリーンじゃ」


「お母さん…… 初代尊師もアイリーンという名前なんですか?」


「そうじゃ 教団の活動・資産提供してくれた男との交流から

異端審問水準・禁忌・戒めなどなど この口調も神と同調するよう矯正させられたくらいじゃ」


「……本当に神の相談役なんですね」


「……貴女は信者になろうとしていないから本音言うけど神など見たことも無いわ!

ゲームの中の世界でならいくらでも()っとるんじゃがの~~」


「簡単に言うんですね……」


「結局宗教と言えど コンセプトは遊びに浸り ワシの場合は極めているだけなのじゃ

我々が謳う新天地も結局は画面の奥 本でしか遺らない手の届かない世界へ誘っているだけじゃよ」


「……それで皆さんは満足なんですか?」


「オンラインが復活されないのは不憫じゃが

まぁここがカイコ真理教オンラインサロンという形になっておるからさして問題でもないな

強く生きようとしても…… もうすぐ世界は滅ぶじゃろ?

半端に信じていたママンの預言の卒業論文も当たっていたわけじゃしのぉ……

お布施を受け取ろうが待っているのは虚しい結末 金など紙切れと同然

ならば対価など無縁のサービスを施すこの施設は来る者に潤いを与えるただの憩いの場なのじゃよ」


「お母さんは本当に預言者だったんですね」


「ワシから見たらそうでもなかった そこら辺にいる普通の人間じゃったなぁ

……怪しいと言えばやはり〝あの男〟か」


「〝あの男〟?」


アイリーンはゲームの電源を切るなり 満足げに両腕を上に伸ばす


「ジャンキー・コングもこれでクリアじゃなぁ……

どれ! 貴女を見送ってやろうではないか! ワシから話せることも無いしの」


「…………」


地下から階段を登る二人


「ゲームって意外と寿命持つんですね」


「持ってきたのは〝謎の男〟じゃ

奴が何処から見つけて仕入れて来るのかは聞いてはいけない暗黙のルール」


「その…… 男って誰なんですか?」


「………」


「もしかして男の情報を明かしちゃいけないのもルールなの?」


「すまぬな」


地下から出てきた二人を待っていたのは複数の男性

真ん中にいるボロい茶色のレインコートを着ている男は身分を証明するような手帳を見せ付ける


「羨門警察署の〝紡樹ツムツム〟だ ここの尊師はどっちだ?」


「ワシがそうじゃが?」


「住民達からとある情報提供タレコミがあり

榊葉町長からの指示もあって私達と署に同行して貰います」


「ほぉ? どのような文句が押し寄せられたのですかな?」


「恐喝及び脅迫勧誘罪 独自偏見の異教徒と認定する者に対する一方的な暴行罪

その他 迷惑な演説による騒音のクレーム 歩行者妨害などの声が数え役満

……これだけ揃えて身に覚えが無いとは言わないよなぁ?

それとも尊師は安全な場所にいるから 犯行現場での一通りは無関与でシラを切るかぁ?」


アイリーンの周りは警察に固められ逃げ場が無かった

ツムツムは視線を谷下へと切り替える


「お前もここのモンか? 幹部も含めて連行することになっている」


「私は……」



「その者は関係ない! ただの迷子じゃ!」



連れて行かれるアイリーンの言葉に聞く耳を持たないツムツムは谷下に近づく


「服装を見るからに今日初めてここに来た感じだな」


「……谷下希です お試し入信しました」


「ほぉ…… 今日新しく入信した奴は一人と聞いたんだが ……確か名前は篠崎塔子って奴だったんだがな?」


「っ……!!」


「怪しいな…… ここの言葉で言い換えるなら異教徒か? 何が目的でここに来た?」


「それは…… えと…… 上手く説明出来ません」


「刑事相手に隠し事するたぁ良い度胸じゃねぇか おい! こいつも連れてけ」


「っ!!? なんでよ!!!」


「警察ナメんじゃねぇよ!!

お前らみてぇな意味が分からねぇ組織があるだけでこっちはピリついて夜も眠れねぇんだ

宗教に心酔してる奴なんてなぁ 屁理屈並べて簡単に人殺すんだろぉ?!」


いつの間にか教団の人間として扱われている谷下は焦っていた

何を心配していたかなんて言うまでも無い



ーーここで捕まったら 滅亡するまで身動きが取れない

それ以前に明後日の太陽フレアが襲うタイミングに警察が寝させてくれるかも保証されない

記憶が失えば…… 全てが無に帰される!!!!




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