二十九話 二日目 平成の世界
よく見ると空は天井になっていて高層ビルは壁の絵で誤魔化していた
とりあえず見慣れない店の中へ入ってみると
「お帰りなさいませ!!!! お嬢様!!!!」
「!!!!?」
類を見ない奇抜な格好をした女性店員の積極的な対応にここでも谷下は固まった
「?!! ?!! ?!!」
「こちらのご利用は初めてですかぁ? それなら驚くのも無理はないと存じます
私し共が召しますこのお洋服は〝メイド服〟と呼ばれているもので
私達はメイドという主の上から下までご奉仕させて頂く者達です!!」
「?!!! ?!!!」
「申し遅れました!! 私は〝ミカン〟という名で愛されてます!!
独特の自己表現で主様方から愛され!!
特技であるオリジナルメニュー〝イチゴミルクオムオムライス〟が自慢です!!
座右の銘は質より量!!」
ミカンは谷下の耳元まで唇を寄せて軽く吐息を漏らす
「ここだけのお話 表ではそういいながらも厨房では質と愛情に対する努力は惜しんでおりません♡」
「?!!! ?!!!」
「ご注文は何されますぅ?!! 今日のオススメは〝イチゴミルクハッピーセット〟でごいますぅ!!!!」
「……それでお願いします」
ソファーに凭れ 水を飲みながらガラス窓から見えるまた違った時代風景を前に呆気にとられていた
西洋の富裕層のファッションなのか今まで見たこともない服装で平然と街を歩く人々に目を疑う
通り過ぎる世の変わり映えに 何処か不安に だけど言葉に表せない斬新な新しい物に胸がすく
「お待たせしまたぁん!! こちら当店ご自慢のイチゴミルクハッピーセットでぇす!!!!」
「……ありがとうございます」
「いえいえ…… メイドの仕事ですので!!!!」
「聞いていい? 外を歩いている通行人の服装はこの世界では常識なの?」
「あぁコスプレですね? 至って通常でありんすぅ♡」
使い慣れてないスプーンで料理を口へ運ぶ谷下
朝食を抜いて来てしまったが為に味は天へと昇る勢いだった
「うまぁ……」
「あっあっ! お嬢様!! 魔法がまだ掛かっておりません!!!!
今以上に美味しくなる為に 是非リピートアフター…… ミー!!!」
ミカンは魔法のステッキを取り出し その場を舞うように踊り出した
「美味しくなぁるはミカンの秘伝♡ 秘訣は果汁を100パー搾って♡
主人の舌で転がる アーレェ!! アーレェ!! およしになって~満足かい♡
広がる果樹園♡ 喉越し最高♡ 今こそ主従関係を超えて卓越された至福の食感を楽しまれますように……
〝 アンシャン・レジーム・デストロ~~~イ♡♡♡ 〟」
風圧に伸されそうな谷下は思わず両手で防ぐような動作を取ってしまう
ミカンの召し上がれサインと共にオムライスを口に入れてみると
確かに美味しいが何かが変わったとはさすがに思えない
「ご馳走様でした……」
「行ってらっしゃいませ!! お嬢様!!」
送り出されるところまで威圧を感じるメイドという印象高い役職に触れ合った谷下は
満腹感とは別の容量が身体に染みながら疲れ果てて店を出る
「篠崎さん!!!!」
「うわっ…!! びっくりしたぁ……」
「尊師様がお呼びです!!!! 聖堂の方へ!!!!」
場に似つかわしくないうるさい信者の人間の招待に恐怖を感じる谷下
「なんで私を……?」
「はて……? あなたはこの世界に感銘を覚えていらっしゃったのでは?
尊師様と直にお会いするなど この上ない喜びでは?」
「そ…… そうですね!」
ピンチだがチャンスではあった
ここの実態を知りたい谷下は途端の機転を利かせ
天秤に掛けていた恐怖とは別の好奇心に重りを乗せる
「聖堂へはどちらへ?」
「【明日への扉】の先にて構えておられます!!!! 我々上層部の本部でもあります【アイリーン大聖堂】です!!!!」
「明日への扉……」
唯一進めなかった扉にこうも簡単に入れるとは尊師は自分に何の用があるのだろうと疑う谷下は
危険を省みるが 今更振り返ったところでここから出れる保証に確信が持てないでいた
「案内して下さい」
「もちろんです!!!! それでは付いて来て下さいねぇ!!!!」
信者に連れて行かれる谷下を ジッとミカンは窓越しに見つめている
真っ暗な部屋へ戻る度に襲ってくる不安は何なのか
相変わらず異様な空間へと引き戻された谷下は見慣れた辺りを見渡していた
「質問良いでしょうか?」
「どうぞ!!!!」
「何故こんな暗い部屋が しかも中間にあるんですか?」
「ほほぅ!!!! この真っ暗な世界に疑問を抱く人はそういませんでしたよ!!!!
この部屋にも名前がありまして 通称【闇の部屋】!!!!」
「闇ですか……」
「そう!!!! 実は入信する信者には知らせていない儀式の場なのです
この部屋に辿り着く人間は何も見えていない者 つまり〝迷える子羊〟なのです!!!!
何も無い世界!!!! つまりここは外の島そのもの!!!! 夢が無い 希望も無い
考えるだけ無駄!!!! せっかく興味を抱いても用意されていない地獄と呼ばれた〝田舎〟なのです!!!!」
「っ……」
ーー聞いたことのある台詞が混ざってる……
「だけど尊師様は何も無い扉を創り出し 開ければ光が差し込む世界を創ってくれました!!!!
さらに外の世界を生きていても人類が滅亡すると神のお告げを聞いたと言うではありませんか?!!!
それはもう避けようの無い因果律!!!! どうなろうとも知ったこっちゃない現実です!!!!
私も楽しくない世の中でした!!!! ならば残された時間を精一杯奮って!!!!
見えない幸福を見出し!!!! 共に受け入れようじゃありませんかぁ!!!?」
薄暗い所で発狂されると尚更恐怖が増すのだと学んだ谷下
明日への扉の先は継続されて薄暗いトンネルにも似た長い通路が待っていた
奥に光る小さな出口を目指して 不気味な男と共に歩いて行く
ーー……ここに来てからひたすら怖い だけど理由の一つに何も知らないからという
イマイチこの教団がやっている事に否定的になれない私が居る
外に出るとドームの中心部であろう丘陵の上に教会が聳えていた
「……別世界ね」
「それはもう!!!! 尊師様がおわす唯一他界へ通ずる道が存在する場所ですから!!!!」
西洋風をイメージされたかの様な世界
辺りには風車 そして満遍なく花畑が広がっていた
一番の気掛かりは聖堂を囲う杉林 まるで
ーー 緑の王国……




