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二話 一日目 アペルト荘のメンバー


暗くなって初めてその美しさをお目に掛かれる


「……いつ見ても飽きないなぁ」


夜空を煽る光のカーテン〝オーロラ〟

いつから出現してるのかなんて生まれる前から存在しているこのベールを誰も気にしない

既に日常となっているオーロラの景色だが それはあまりにも寛大で人々を飽きさせない


傾いている電柱を目印に暗くなっても辿り着けたアパートの玄関前には

特に遊んでいるわけでもなく ただ段差に腰を下ろしているえりちゃんがいた


「あぁママ! おかえり~!!」


「……フフ ただいまえりちゃん」


バフッと懐に飛び込んでくる少女を谷下は優しく抱きしめてあげた


「………」


「……?」


抱きついていたえりちゃんはいつの間にか谷下を楯にするかのように背後を凝視している


「猫?」


後ろの傾いた電柱の近くでこちらをジーーっと見つめていたのは黒猫だった



「みょあ~~!」



「……あの猫嫌い」


「なんで?」


「なんとなく!」


「えぇ~~可愛いじゃ~ん」


谷下は手のひらを黒猫に向けて軽く呼んでみた


「チュチュチュチュッ! ほぉら怖くないよえりちゃん!」


「……ヤッ!」


少女はアパートの中へと逃げていってしまった

ため息を吐く谷下は黒猫の方を振り向く 黒猫は同じ場所から動こうとはせず

ただただジーーっと彼女の顔を覗いている


「可愛いのにね……」


思わず谷下が黒猫に近づこうとしたその時


「あぁらおかえり~~! 随分と遅いじゃないかぁ~」


「大家さん……」


「挨拶回りだけの社員に残業させるなんて役所もブラックだねぇ!」


谷下が振り返ると そこに黒猫の姿はもうなかった


ーー逃げちゃった


「今日はアンタの歓迎会だよぉ! 焼酎もガン!ガン!買ってきたからねぇ!」


「ありがとうございます!」


屋内に入ろうとすると

渡り廊下で初めて見るアパートの住人

性別がハッキリしない中性的な顔立ちの青年が食堂へと入っていった


「大家さん あの子は?」


「あぁ〝アカリヤミちゃん〟ねぇ イケメンだろう?」


「……男の子なんですか?」


「一緒に風呂も入ったことないから わかんないねぇ!」


ほくそ笑みながら大家も食堂へと入っていった

谷下も下駄箱に靴をしまい 部屋に荷物を置いて食堂へと足を運んだ


「そろそろ鍋も出来るから適当に座っといてぇ! 酒は何飲む?

ビール 日本酒 ワイン 熱燗あつかんも作ってあげられるよぉ!」


「……なんでもあるんですね」


「ンハァハ!! 呑兵衛のんべえな大家のアパートに住むとねぇ 酒に困らないのよぉ!!

まだまだ部屋空いてるから口コミよろしくねぇ!」


「じゃあ熱燗を頼もうかしら」


「んハハハハァ……!!!! アンタ意外にイケる口じゃないの!!

用意するからそこら辺の戸棚の下にあるシケたビール片手に 極上の闇鍋でも食って待ってなぁ!」


徳利とっくりと別の鍋を取り出す大家

谷下はスーツを脱いで椅子に掛けて

ワイシャツ一枚で解放感に満たされながら指定の場所からワインを手に取った



「えりちゃんとアカリヤミさんは何飲みます?」



「えりちゃんはオレンジジュース!!」


「……ウーロン茶で」


コップの置き場所を教えてもらい

一足先に三人で闇鍋をご馳走になる


ーーん? ……闇鍋?


谷下は恐る恐る鍋の蓋を持ち上げると

具の一覧は正常なのに スープが紫色に輝いていた


「……どうやったら汁が紫色になるんです?」


「それがアタシに聞かれてもわかんないのよ~

昔から汁物は全て紫になるんで こっちがびっくらこいたわぁ……

普通闇鍋ってさぁ 暗闇で複数人が何かしら入れるんでしょ?

だからアタシのは〝いつの間にか闇の鍋〟なのよ~~ もうヤッダ~ン!!」


「一応…… 味見はされてるんですよね?」


「マズいなんて言われる程 年取っちゃいないわよ

死んだ旦那も笑顔で旅立ったわぁ! もちろん鍋のせいじゃないわよ?」


「……」


ゴクリと唾を飲む谷下は再び鍋と向き合う

すると先住民のえりちゃんとアカリヤミは先入観に囚われずモグモグと先に食べてるではありませんか


「……頂きます」


「はぁい! どうぞぉ!」


器に盛り付け 失礼と思いつつも目を瞑って具材を口にしてみる


「………………鍋だ」


紫の用途が全く感じられない程 普通の鍋だった


「美味しい!!」


「そりゃぁ良かった!! ジャンジャンお食べ!! そして熱燗も出来たよぉ!」


こっちの町に来て初めての食卓が人と一緒に食べられることを幸運に思う谷下は

ついつい飲み過ぎるまでお酒が進んだ


「ん~~~…………」


「困った子だね~~」


テーブルにうつ伏せになってお猪口ちょこを片手に爆睡している彼女はトロンとした顔をしていた


「こう幸せそうな顔されちゃぁ料理した甲斐があったってもんだよぉ!」


「~~~」


「なんてぇ?」


「ワタシハ…… ヤシタッテモンデゴゼェヤス……

ミナサントデアエテ カンシャノキワミ

ミッカゴ モ ナニコヨウト ワカレタクナイ デス」


「ハァ…… 長い寝言だねぇ! こんな所で〝寝落ち〟られても困るんだよぉ!」



「僕が運びます」



軽く手を挙げたアカリヤミは谷下をおんぶして渡り廊下へと息切れ気味に運んだ

その後ろを脱いだスーツを持って後を歩くえりちゃん


「オモイデ…… ナノ……」


「……思い出を作るのはこれからですよ?」


「シナ ナイ シナナイ…… デ……」


「酔うとネガティブになるんですね 谷下さんわ」


彼女の部屋のドアを開けて布団を敷いてあげるえりちゃん

そこにアカリヤミは谷下をぶん投げてコップ一杯の水をあげる


「…………あれ? 私ったら寝てた?」


「はい…… 絶好調でしたけど」


「ハァ…… ごめんなさい 実はお酒弱くてね」


「大丈夫です 久しぶりに賑やかで楽しかったです」


「私も楽しかったよ!! とっても嬉しい歓迎会でした!」


「……えぇ」



「えりちゃんもねぇ!! ママにギュッてしてもらえて嬉しかった!!」



はしゃぐ子供の声は酔っ払いに響くが 谷下は気分が良かったので頭痛も吹っ飛ぶ

お休みの一言を添えてアカリヤミはえりちゃんと手を繋いで出て行こうとした


「それではまた明日 五人で騒いだ今日という日を忘れませんから」


「うん お休み~~」


ドアが閉められ 谷下はパジャマに着替えて布団に蹲って寝る

意識が無くなる途中でふと あることを不可解に思った



ーー…………五人?




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