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二十七話 一日目 カイコ真理教


『あなたはお気づきでしょうか? あなたはどれくらいこの世界を知っていますか?

〝災害〟 〝疫病〟 〝不況〟 〝不信〟

生き辛い時代が何千年も前から存在していたのです

そんな人間社会にトドメを刺したのが己を振り替えさせた神秘的な夕焼け空でした

ヒンヤリとした朝の暁風から頑張る一日を与えてくれる日の出が

私達の先祖にとってどれほど希望に満ちていたでしょう

その日の終わりに文明が滅ぶことを誰が予期していたでしょうか?

諸問題の解決も叶わなかった人々の死は救いだったのでしょうか?

……なら何故? 我々の先祖は我々を未来へ残したのでしょう? 考えた事がありますか?

また滅ぶかもしれない文明を復興しろと? 残されたこの島だけで何が出来ると?

どうやって私達の先祖は人類が滅亡した中で生き残れたのでしょうか?

その全ての記録が今は存在していません 今を生きている人間が興味を持たないからです

私も島中を駆け巡り 答えを探しました だけど手掛かりすら見当たりません

こう雲を掴むようなわだかまりに蝕まれて心が荒んでいくことが先人達の希みなのだろうか?

だとすれば大した優しいイジメだと私は思います

生きていさえすれば それだけで良いなどと一方的な戯れ言だ

人は探究心故に偉人達が残した知恵と財を受け継いで進化していくことが歴史だった筈だ

なのに遺した物が本だけだった 実用しようにも無い物で溢れている

夢を見させるだけ見せて現実に陥れる ファンタジーを知るだけ知って満足に死ねと?

滑稽で残酷 今の時代の学業を把握した先に待っていた勉学は浅はかだった

何もかも中途半端だ 学びたいのに用意されていない……

そんな時 私はある男に出会った

その者は知らないことを教えてくれた 恋をしてしまうまでに頭がスッキリしたのだ

虫食いだった榊の葉に命を吹き込んでくれるかのように その男は何でも知っていた

しかし結果は変わらなかった それどころか恐ろしい真実を知ってしまった

大昔には青い空が存在していたことを証明する写真を見せながら彼は言った

当たり前だったその生きた空を殺した紅い空が 人類滅亡へと誘うカウントダウンだと


だから私達はこれからとある〝教団〟を創ろうと思う

名は〝カイコ真理教〟

再び訪れる厄災まで幸福を振り返ろうという組織を創設するんだ

昭和後期から平成・令和へと確かに実現していた事を再確認してみようじゃないかと

あの頃に戻り 人間が慈しんだ激動を 思い出を 我々で再現してみようじゃないか?


未来を諦め もう一度子供になろう 大人になっても私達は滅ぶのだから』


映像はここで途切れた

消える間際に聞こえる教員達の怒鳴り声

彼女の言葉を認めていない証拠だろう

それは聞いていた千代子も同じだった


「人類滅亡だって そんなのいつ来るんですかねぇ!」


しかし谷下は違った

顔は青ざめ 額から流れる汗が頬を伝う


「谷下さん? 大丈夫ですか?」


「……大丈夫」


「結局…… 預言の卒業論文は見つかりませんでしたね」


「そうだね…… とりあえずここを出よう」


二人は旧視聴覚室を出て 保健室へと戻ろうとした


「谷下さん もしかしてあのオカルトチックな話を信じました?」


「そ…… そんな訳ないでしょ……

でもあの人はカイコ真理教の創設者ってことになるのよね?」


「まさか入信するなんて言わないですよねぇ?

宗教なんてお小遣い減らすだけだってオカンから聞きましたでぇ?」


「大丈夫大丈夫……」


「……でも確かに映像に映っていた人って教団を開設した人なんですよね

名前知ってる人なんか今の校内でいますかね?」


「佐分利先生は帰っちゃったしねぇ…… 他に仲の良い先生いないしな……」


保健室へと戻った谷下と千代子

容態に変わりない三木はベッドで寝静まり

二人は佐分利がいつも準備していたドリップコーヒーを拝借して一息つく


「今日は付き合ってもらってゴメンね……」


「いいですいいです!! 私もオカルトは信じない方ですけど冒険するのは楽しいので」


笑顔で答える千代子に谷下も安心する

カーテン越しから飲料水を要求してくる三木の声に千代子はすぐに反応した


「ゲホッ! ゲホッ! ……ありがとう」


「いいよいいよ!!」


「……ありがとう 千代子」


「また喉渇いたら身体を起こしてあげるから」


気さくに三木のフォローに入る千代子は楽しそうだった

側で見ていた谷下は微笑みながらも彼女に質問してみた


「二人が出会ったのって今日よね? まるで幼馴染みのよう……」


「……なんでだろうね いつも隣に居た感じがするんだよ」


スクールバックを背負った千代子は谷下と一緒に外に出る

すっかり真っ暗なグランドにポツリと取り残されている谷下達は無防備に風に当たりながら帰る


「谷下さんはこの後どうするんですか?」


「わからない…… また夕貴姉さんとこに行ってみるわ

千代子さんは学校泊まるってホントなの?」


「うん…… やっぱり三木ちゃんを放ってはおけない

一度家に帰って二人分の着替えやら歯ブラシセットを取りに行かなきゃね

晩ご飯は家庭科室から適当に拝借するとして……

あとはお泊まり会では避けて通れぬ闇鍋用に珍味の食材調達かな?」


「そっか…… 佐分利先生はおそろく明日休むだろうし 三木さんの看病頑張ってね!」


校門前で手を振り合って別れた谷下は再び図書館へ向かう

時刻が時刻で既に閉館しているにも関わらず 谷下は実家の感覚で敷地に足を踏み入れた


「およぉ?! 久々の学校はどうだったよのぞっちゃん!!」


「一応収穫はありました 懐かしの〝サブリン〟にも会えたし……」


「佐分利先生もまだまだ元気だよね~ 婚活切羽詰まってるって聞くしあの人も色々大変なのよ~」


「もう四十路よそじですもんねあの人……」


「どうするのぞっちゃん? 家に来る? それとも実家に帰る? 誰も居ないんでしょ?」


「そうですねぇ 泊まらせてください!! 明日は朝早く行きたい所があるので」


「おぉ!! じゃぁ久し振りに闇鍋でもしますかぁ?!!」


「もはや女子会の伝統ですよね~ 学生時代は通過儀礼の様なノリでしたもんね!」


「酒も財産より貯蓄してあるから今日は呑むぞぉ~~!!!」


「ハハハ…… なんか私 酒に恵まれてるな」


枝垂れ梅の林道を肩を組み合って帰路を振り返る二人

端から見れば姉妹のような 活気ある歌声交じりに季節外れの赤い花を咲かせた




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― 新着の感想 ―
[一言] 謎が少しずつ増えていきつつ、公開されていく情報。 どうなるんだろう??
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