二十六話 一日目 開かずの間
オーロラがくっきりと浮き出る放課後の時間帯
職員室で出前を取ってラーメンを食べている谷下は一緒にいる佐分利に聞いた
「三木って子はここの生徒なんですか?」
「違うわよ…… でも珍しい格好をしていたわよねぇ
まるで昔の患者服みたい 何かに繋がっていたチューブも病院には無い素材の物よ」
「それって…… どういうことなんですか?」
「彼女は重い病気にかかってるかも知れないわね…… 口元に呼吸器の様な跡もあったから重症患者なのかも」
「そんな子がなんで……」
「病院から抜け出したって思うのが普通だけど…… こう未知の物を所持されてちゃぁ」
謎の少女に谷下は腑に落ちない
「その子は何処から来たと思います?」
「神隠しの逆バージョンだったりして! 別の世界から迷い込んできたのよ」
「佐分利先生…… オカルトに走ったら原因究明にたどり着けませんよ?」
「私もよく確かめてないのよ…… 千代子ちゃんが三木って子を連れてくるときバタバタしててね
話聞いたときは階段越しだったのよ 保健室開いてるから寝かせおいてって伝えただけ」
「じゃぁまだ顔も見てないんですか?」
「そうよぉ! 私も書類整理とか多くて保健の先生は暇人扱いされるけど結構忙しいの!」
チャイムがなると同時にドアが開かれて息切れを起こして千代子が入ってくる
保健室の鍵を慌てながら要求し 谷下と佐分利を連れて保健室へと向かった
「随分急いでるわねぇ…… 千代子ちゃん」
「うん……! なんかあの子の事を考えてたら授業も集中できなくてね!」
「二人は知り合いなの?」
「うぅん…… 今朝登校してる時に拾った」
「拾ったって……」
謎が謎を呼ぶばかり
鍵を開けて中へ入るとカーテンの裏には相変わらず容態が悪い三木が寝込んでいた
「ゲホッ! ゲホッ!!」
「今からお薬用意するからねぇ」
佐分利が棚を漁っていると
谷下は佐分利が持ってきたチューブの切れ端を見ていた
「三木ちゃんが付けてたチューブ 確かに病院に行ったときにも見かけたことないかも……
針から血が垂れてるのは先生が抜き取ったからですか?」
「いいえ…… 廊下に落ちてたから拾っただけよ?」
佐分利はお薬と水とマスクを運んできて
三木を起き上がらせて飲ませてあげた
「よし! これでもうだいじょっ……」
立ち上がろうとする佐分利はそのまま床に跪く
「ちょっと! 大丈夫ですか?!」
「大丈夫大丈夫…… 過労かなぁ…」
谷下は佐分利に肩を貸してあげ
隣のもう一つのベッドに寝かせてあげた
「先生もお薬飲んで下さい!」
「大丈夫大丈夫!! ゲホッ…… 今日はこのまま家に帰って休むわ」
佐分利は身内の人を呼んで軽トラで帰ってしまった
三木は落ち着きを取り戻して安静に寝ている
取り残された谷下と千代子は本題に移った
「じゃぁ行きますか? 開かずの間」
「うん! 案内させて悪いね!」
校舎の二階へと登って奥の窓の無い陰気な突き当たりにぶち当たる
二人はドア窓から中を覗き込んで見るが 噂通りの散らかり用だった
千代子は鍵を開けて電気を付けるとイベント毎に作られたであろう学校の思い出が詰まっている
「埃っぽい……! ゲホッ!ゲホッ!」
「パッと見て一冊の本を見つけるのは大変だねぇ」
中へと入っていく千代子は埃を掻き分けながら奥へと進んだ すると
「谷下さん!! この先にまだドアがありますよ!!」
「えっ?!!」
谷下も足場を確保しながら進んでいくと確かに準備室と書かれた立て札が見えた
「開かずの間の準備室って何があるんだろう……」
「元々ここは旧視聴覚室ですからねぇ 色んな機材が置かれてますよ」
恐る恐る中へ入ると そこは真っ暗で小さな小部屋だった
埃を被った本やテレビなどが置かれていて 何よりも驚いたのは
「スクリーンだ……」
車輪付きの大きなスクリーンもまた使われずに眠っている
過去には視聴覚室で活躍していた機材の一つだろう
「ここは電気が付かないみたいだから谷下さん気をつけ…… うわ!」
千代子が躓き 机の上にあるプロジェクターに肘を突いてしまった
すると突如真っ暗な部屋に小さな明かりが灯され スクリーンに白黒の映像が映し出された
『〝西暦XXXX年〟 これが私達に押しつけられた現実だ』
映像の向こう側には一人の女性が黙々と話し続けている
「この人誰だろう?」
「制服は昔の奴かなぁ? だけどここの生徒だよね?」
「西暦って何でしたっけ?」
「確かキリストが生まれた翌年を元年とした紀年法だったような……
大昔の人達はこれを基準に大晦日とか正月があったらしいね」
二人は静かにその映像を拝聴した
『これから話すことはこの島の実態です 何処にも羽ばたくことの出来ない檻とも言おう
そしてもし私の話を聞いて 信じてくれる者が現れたならこの言葉を届けたい
〝 我々は天に招かれています 見えない幸福を見出し 共に受け入れようじゃありませんか? 〟』




