表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/108

二十話 四日目 神出鬼没の少年


朝になると幽霊が起こしてくれる非日常の生活へと


〝 遅刻するぞ谷下先生!! 〟


「……」


谷下は震えていた

最初の朝から四日目 つまり今日が終焉だ

生きている限りの命が絶たれる 死を歓迎しない運命の日


〝 ……大丈夫か? 〟


「うん…… やっぱり緊張しちゃうね! 死を覚悟するって」


〝 緊張か…… 和むよ 〟


「出社はするよ…… 今日を怯えていたら絶対この日は欠勤になっちゃうから」


〝 貴女からしたら今日が自分の命日と言っても過言ではない

四日間ある内から身体を休める一日を作ってもバチは当たらないぞ? 〟


「……わかった」


谷下は役所に電話を掛け 黒電話の受話器を受け取った高山から言われたことは同じだった


『無理はしなくていいよ 明日に備えて今日は元気な一歩を踏んできなさい!!』


「……申し訳ありません ありがとうございます」


受話器を返すと深い溜息が漏れる

近くを浮遊していた死人は提案した


〝 谷下先生がやりたいことをやればいい 記憶を引き継いだ分だけバタバタしてくるからな 〟


「私がやりたいことか……」


こんな状況で閃く筈もない谷下は前回の今日に行っていたピクニックを皆に提案した


「のぞっちゃんが会社で嫌なことされたみたいだよぉ! 私達が元気づけてあげよぉじゃないか!」


「えりちゃんはリュック持ってくぅ!!」


「こういうのノープランで行くの楽しいですよね」


アパートの住人は唐突のイベントをハイテンションで承諾してくれた


「……ねぇ死人さん 人生がリセットされるって

相手を知る上でこれ以上の力は無いよね?」


〝 そうだな…… おかげで疑心暗鬼という厄介事が解消された 〟


「これに関しては私に授けてくれた どこぞの神様に感謝しないとね」


〝 ……人間相手に限るがな 〟


「え?」


死人は天井を貫いて外に行ってしまった

最後の一言が気になったが 死人が逃げた理由は目の前に現れる


「どうしたんだぁいのぞっちゃん! 独り言呟くようになるまで昨日は打ちのめされたのかい?」


「いえ…… 大丈夫です 準備は出来ましたか?」


「準備してないのはのぞっちゃんだけだよ さっさとパジャマ脱いできな!」


谷下が準備している隙に 大家はオート三輪を引っ張って来た

えりちゃんのリュックには相変わらずお酒が入っている

準備を終えた三人は大家が乗っている車の荷台に乗り込み

ここで大家は至極真っ当な質問を投げてきた


「さぁて…… どこ行くよ?」


「「「 あ…… 」」」


当然目的地は決まっていない

前回のピクニック先は死人の口からも出た榊葉が所有する山だったのだから

殺人の容疑がある相手の場所に気軽に行けるわけも無く ましてや人ん家の山に無断でお邪魔する勇気も無い


「あ……」


そこで谷下は三日前に高山に連れて行かれた場所を思い出した


「灯台近くの広場なんてどうですかぁ?!」


「いいねぇ! そこ決まり!! さぁ出すよぉ!!」


エンジンを吹かす大家の車は小道に沿って走らせた

小石にタイヤが乗り上げればガダンとバウンドするのが楽しくて

荷台に座っていた三人は屋根を掴んで立ちながら 前から吹いて来る風に当てられていた



「我々は天に招かれています!!!! 見えない幸福を見出し!!!! 共に受け入れようじゃありませんかぁ!!!?」



人通りが多い商店街付近に必ず出没する団体に四人は目を配る


「あっ…… カイコ真理教だ」


「うるっさい連中だねぇ 天に招かれてるなんて そんなの死んでからで考えりゃあいいじゃないか!」


「大家さんもあの教団を知ってるんですか?」


「絶対に天国に行けるから拝んで金出せって集まりだろ要は?

なんでもそこの教祖は〝神の腹心〟って呼ばれてるじゃないか 馬鹿馬鹿しい」


「神様の話し相手か……」


「ご機嫌取ってるから教祖を崇める者には特別に同じ天国へと召させてくれるんだってね~~」


蚊程も信用していない大家は鼻歌交じりにその集団を横切って行った

荷台の三人は集団の姿が見えなくなるまでただ見つめている


高山と一度訪れた見覚えのある景色が住宅街を掻き分けて徐々に見えてくる


「ここまで来るのに結構時間が掛かるんですよねぇ」


「私らの住んでるアパートが街の端だからねぇ 山には近い方だけど海水浴は日程組まないとね」


「ですよね~~」


無駄に広い駐車場に三輪を停車させ 四人は車を降りて広場へと向かった


「……あれ?」


谷下は塔の上を凝視する


「あれって……」


陽の影に佇む黒い影の正体は赤いランドセルを背負った少年だった


ーー……確かティキシだっけ?


名札にそう書かれている男児はただ何をするわけでもなく自分を見つめていた

ただ疑問に思う箇所が一点 前回でティキシに会ったのは山の方の畦道あぜみちだったのだから

それに少年がランドセル背負って何故あの場にいたのか不思議でしょうがない


「……なんでここにいるんだろう? 偶然?」


時間帯で追うなら矛盾はしない

田んぼで出会ったのは朝方 今は昼時

電車を使ってここへ来たのなら何も問題ではなかった


「どうかしましたか? 谷下さん」


一人上を向いている谷下に声を掛けたのはアカリヤミ


「塔の上に子供がいてね…… 気になって見てたの」


「……本当だ いますね!

背負ってるのはランドセルですかねぇ? 珍しい」


「うん……」


「あっ! 大家さんがブルーシートを敷き終わったのでオッパジメないかって叫んでます」


「そうだね! 行こう!」


宴会の様に騒ぎ始めるピクニックは大家の仕切りの下 大いに盛り上がった

そして日は沈み始め 不穏な風が楽しい雰囲気に混ざり込もうとしている


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ