十八話 三日目 岐路
ーー役所でやる仕事はおそらく前回と同じだろう
この日は町内会で染さんが会議でフルボッコにされ
その後に高山課長から〝染さん慰め会〟のついでで〝私の歓迎会〟に誘われる
そこで榊葉町長と出会って 私が何故か〝ハナビ〟を口に出し
そして何故か花火一式が榊葉さんの所有する山の地下に眠っていた
「もしかしたら榊葉さんは私の身に起きたことを知っているかも……」
ーー思い返せば町長らしからぬ 意味不明の数々を口から出していた
「〝獅子の系譜〟とか〝八人の神様〟とかすごい神話を語っていたなぁ……」
「谷下君! 準備は出来たかい?」
「えっ!! あっ…… はい!!」
デスクで一人黙々と考えていた谷下は高山に呼ばれるまで集中が途切れなかった
同じ時刻 同じ公民館に出向き 前と同じく谷下はヘトヘトになりながら館内へと入っていった
「ハァハァ…… 今日が猛暑ってのも変わってない……」
室内でオバちゃん達に熱く歓迎され 何もかも想定通りだった
「だから生活が苦しいから祭を取り止めにするってことがまず間違いなんだ!!」
「仕方ないじゃないですか〝染島さん〟 そもそも死活問題によって客足が途絶えてるんですから!」
ーーおーおー…… やられてますなぁ染さん
谷下は花火という存在を今ここで話してみたかったが
おそらく知っているのは現時点で私と榊葉さんだけなのだろうと我慢した
田舎から出向いてきた人達が帰ると 男共は主婦の方々が作った芋煮を食べながらの反省会
洗い物を手伝っている谷下に高山から声が掛かる
「お疲れ谷下君! 急で悪いんだけど今晩時間空いてる?」
「……大丈夫ですよ」
「良かった!! 実は君の歓迎会をしようと思ってね!!
役所内は毎日てんやわんやでね 染さんの慰め会のついでになっちゃうけど?」
「はい! 大丈夫です!」
期待を裏切らないという言葉は今の状況で的確かは分からないが
高山は谷下にとって信頼出来る人間だと確信していた
「そりゃ良かった!
私はやることがあるから 先に【寿司処センモンガイ】に行って待っててくれ
もちろん染さんのツケだから先に頼んで食べててくれてもいいからね」
「わかりました!!」
「ハッハッハ! 遠慮しないねぇ!! 今日は元気で何よりだよ!」
「えっ…… あっ! すみません!!」
「謝ることじゃないだろぉ!! 今日は腹いっぱい食わせて上げるからね!!」
分かりきった人生は時として危ういと微かに谷下は理解した
高山が去って行った後 妙に手の震えが止まらない
「なんだろ…… ちょっと怖かったな……」
前と少し違う会話をしたのが原因か 人類滅亡の時が迫っているからか
複雑な現状を一人で抑えるしかない谷下は 震えの原因を突き止めることは不可能だった
寿司処センモンガイ
谷下は一足早く店の前に着き 暖簾を潜って引き戸を開ける
「ヘイらっしゃい!!」
明るい大将がいるカウンターを挟んで奴は居た
ーーここも同じ そしてある意味チャンスかも
「こんばんわ……」
谷下は躊躇なくその人物の前で足を止める
「えっと…… どちら様?」
「榊葉町長ですよね? 私は谷下希と言います!!」
「…………」
榊葉は大将から水を貰い 一気に飲み干すなり谷下の顔をジッと見つめた
「君は獅子の系譜かい?」
「っ………」
ーーさて何て言ったら良いんだろう?
高山さんは確か〝一見さんには誰でも聞いてる〟と言っていたが……
「あの!」
「ん?」
「花火って知ってますか?」
「………いいや 知らないけど?」
「……えっ?!!」
谷下は固まった
上手く次の一声が出てこない
「私も変なこと聞いたね! 忘れてくれ!」
「いや…… ちょっと……」
「お~! 待たせたねぇ谷下君!!」
時間ピッタリに高山も染島を連れて店に入って来た
「変なこと聞かれなかったかい谷下君?」
「いや…… その……」
しかし時は正常に動こうとする
「なんだアンタらの連れかい!
……ん? てことは君が高山の言ってたもう一人の新人君かい?」
「……はい」
前と変わらない会話が続いてしまった
今日の会議の内容 温暖化についての仮説
何も問題無い いつも通り
ーー……いつも通りってなんだろう
会話に参加しながらも脱力感が否めない谷下
締めて店を出た四人は変わらず二手に分かれて解散した
「じゃぁ俺達も行こうか?」
「はい……」
特に何事もなく道中の蛍を見ても特に会話が発展することは無い
気がつけばアパートの前に到着している
「じゃぁね谷下さん!!」
「はい…… 送って貰ってありがとうございます」
ここで振り向いたら榊葉に肩を叩かれる筈だが 榊葉は振り返ること無く闇に消えていってしまった
「……ハァ」
〝 何かあったのか? 〟
ヌゥ~ッとナチュラルに壁から通り抜けて話しかけてきたのは死人だった
「ただいま…… 何も無かったから逆に疲れてしまって……」
〝 あいつ榊葉だろう? 何もされなかったのか? 〟
「されてません!! ……というより知ってるんですか?」
〝 ……これから長話に付き合えるか? 〟
谷下は台所からペットボトルを一本貰うと
風呂に入って覗き見している死人を殴り パジャマに着替えて歯を磨き終え
布団の上に体育座りになって話を聞く態勢が完了した
〝 私が火事を起こして自殺したって話は聞いたな? 〟
「はい…… というより本当に自殺なんですか?!
大家さんとの約束破って…… それに小説を書いてる人間が本なんて燃やします?!」
〝 そこまで察しているのなら話は早い 〟
怨霊とは思えない死人の笑い顔とは真逆に 谷下は〝まさか〟と思っていた
〝 私は殺されたんだ 〟
「やっぱり他殺……」
〝 犯人はあの榊葉直哉だった 〟
「えぇ?!!!!」