表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/108

十七話 三日目 化けるの死人さん


十二時を回った深夜

寝静まる街の静寂を一人の女性の叫び声で一気に台無しに


「どうしたんだぁぃのぞっちゃん……」


「おぉぉ……おやさんおやさん……!!!!」


谷下の指を指した先を大家は眠たそうに目を凝らす


「……ネズミかぁい?」


「違う違う違う!! ゆ……ゆゆゆ……れい……!」


「んあ? 寝ぼけちまってるのかい? 幽霊なんて子供脅すだけに役立てるもんで

私みたいなイマドキ婆には通用しないよぉ?!」


念の為に装備してきた箒とお鍋の蓋を片付けようとする大家は何事もなくその場を後にする


「待って下さい大家さん!! 本当にいるんです!!」


谷下の目には確かに体育座りしている幽霊がハッキリと見えている

ただでさえ怖いのに 大家が見えていないとなると尚更だ


「ここは外観がお化け屋敷みたいだからねぇ 今更事故物件になっても変わりやしないよぉ!」


「お願いします!! 今日は大家さんの部屋で寝させて下さい!!」


「公務員が幽霊苦手とか洒落にもならないよ? もっとシャキッとしなさんな!」


「それは存在しないから強くいられるだけで 本当にいるんですぅ!!」


聞く耳を持たずに私室へと帰って行ってしまった

谷下は恐る恐る自分の部屋を覗くと寝っ転がっている幽霊に鳥肌が止まらない


「……こうなったら」


谷下は渡り廊下を歩き 別室の扉の前へと向かう

軽くノックして部屋から出てきたのは


「何でしょうか? 谷下さん」


「あの~~アカリヤミさん? 今日は私と一緒に寝なぁい?」


「っ……!!」


アカリヤミは勢いよく扉を閉めた


「僕にはまだ〝そういう〟のは早いと思います!!」


「え……? いや違うの! 緊急事態なの!!」


「……谷下さんはその 年下が好きなんですよね? 台所で話しているのを聞いてました

だけど僕なんかより素敵な男性がきっと見つかると思うので諦めないで下さい!!」


「勘違いしてるよアカリヤミ君!! 違うから! 全然そういうのじゃないから!!

ねぇちょっとだけ!! 今夜だけここで寝かせて下さい!!」


「すみません! あなたも私もまだ健全でいた方が互いの将来に支障が出ないと思います!!」


「ほんの先っちょだけでいいから!! 後は私が自由に使うから!! 寝させてぇ!!!!」


「ヒィィィィィ!!!! どうかご勘弁を!!!!」


アカリヤミは布団に潜って怯えてしまっていた


ーー何故そんなに頑なに……?


谷下はこの先頼み込んでも空回りすると理解し

今度はもう一人の住人の部屋を尋ねた


「えりちゃ~~ん? 起きてる~?」


「なぁにママ……」


欠伸しながら背伸びして扉を開けるえりちゃん


「起こしてごめんねぇ 頼み事なんだけど今日はこっちで寝させてもらえないかなぁ?」


「良いよ!!」


えりちゃんは谷下を迎え入れ 既に敷いてある布団の隣にもう一枚敷いてあげる


「はいどうぞ!」


「……なんか涙が出てくるよぉ!」


谷下はすぐにでも布団に潜った

電気を消すえりちゃんも自分の布団で寝るかと思いきや 谷下の方へと潜ってきた


「ねぇママ……」


「ん? なぁに?」


「明日も一緒に寝てくれる?」


「……良いの?」


「うん!」


二人は微笑み合いながら就寝する

一方谷下の部屋にいる幽霊はというと



〝 ……解せぬ! 何故逃げたのだ?! 〟



翌朝 谷下は恐る恐る自室へと戻ると


「……嘘でしょ」


目の前には朝方にも関わらず半透明な幽霊が座禅を組んで待っていた


〝 何故に昨日は逃げたのだ? 〟


「え? ……そりゃぁ逃げるでしょ?」


普通に会話してくる幽霊に気が抜ける谷下は

夜でないのと 幽霊の顔に外傷が無いだけ平静を保てる

よく見るとイケメンだ


「えっと…… あなたは誰ですか?」


〝 ……やはり〝記憶〟が無くなっている 53回目のリセットか〟


「いいえ…… ハッキリと意識はありますけど?」


〝 そういえば〝前回〟は私の姿すら見えていなかったな? 〟


「……前回?」


〝 また〝寝落ち〟たのであろう? ならば見た筈だ 人類滅亡の瞬間を

それとも灼熱の空が訪れない刻には寝てしまっていたか? 〟


「っ……! あなたは何を知っているの?!」


〝 一昨日からのお前の顔を見ていれば分かる 〝初見〟の顔ではないからな! 〟


幽霊はニンマリ笑っている

存在に加えて口までふざけている訳ではないと谷下は腹を括ると


「……あなたは何ですか?」


〝 自己紹介もそろそろ飽きた…… だがいつの世も貴女は私をこう呼んでいる 〟


幽霊は窓の外に見える庭に建てられた二つの墓をノスタルジックに眺めながら


〝 死人シニン…… とな 〟


「死人?! ……ってまさか?!」


〝 昨日は私の話で盛り上がっていたみたいだな…… 

あの子の話はまぁまぁストーリー性があってほんのりギャグのスパイスが効いていた!! 〟 


「あの子って…… 大家さんの事? やっぱり死人さんなんだ」


〝 如何にも! 私は30年前に死んだ死人です! 〟


「本人ならちゃんと名乗ったらどうです?」


〝 吾輩は死人である! 名前など無い!! 〟


「そうですか…… 本の読み過ぎです」


谷下はその場に崩れ落ちると死人は鞄とスーツをぶん投げてきた


「物は触れられるの?!」


〝 〝怨念動力〟だ! 私は未練が根強い故に強力だぞぉ 〟


「あなた怨霊なの?!!」


〝 しかし娘よ 私が貴女に鞄とスーツを投げた理由をこの時計で自覚した方が良いな 〟


時計の針は出勤時間まで刻々と迫っていた


「なんでいっつもこうなるのよ!」


谷下はスーツに着替えている最中 死人に一番聞きたかった事を問う


「大家さん…… というより私にしか死人さんは見えないんですよね?」


〝 今となっては…… だが通算で四回くらいだな 貴女はあの子と私を出会わせてくれた 〟


「え?」


〝 無理にとは言わん 会えるルートがあったってだけの報告だ

私は受けた恩を生涯忘れないと決めた ありがとうな!! 〟


「……死んでますけどね」


谷下は大家から牡丹餅だけを頂き

アパートを出て 毎度お馴染み慌てふためいて役所へと走って行った



ーー大家さんと死人さんがまた出会えるんだ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ