表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/108

十二話 一日目 黒猫とべしゃり


「まず聞こう…… 〝カタ〟って何だ?」


「私が付けたあなたのお名前です 可愛いでしょ?」


いつの間にか地ベタに正座させられ 谷下の両膝にはカタが蹲るように座っていた


「あの~~ ここじゃ風邪引きますからアパートに行きませんか? 部屋にご招待しますので」


「断る… あそこに行ったら俺は殺される」


「……さっきも言ってたけど 人間が怖いの?」


「違うな 俺が怖いのはあの幼女だ……」


「幼女って…… もしかしてえりちゃん?」


「っ……! 〝えりちゃん〟か…… 大分子供扱いされてるようだな……」


「もしかして石とか投げられたの……? 子供だからそういうことしちゃうかもしれないけど私が謝るから!」


「違う!!」


カタは谷下の顔にヒップアタックのおまけ攻撃を食らわせながら膝を飛び降りた


「ありがとうございます!!」


「お礼言っている場合じゃねぇ!!

いいか!? その〝えりちゃん〟に妙な注意や俺の事を匂わす発言は控えるんだぞ!!」


「カタって良い匂いしてるよねぇ! 野良猫とは思えないこの独特な自然の香り……」


「貴様ネコ派だったなぁ! ……って言ってる場合か! いいな絶対にだぞ!!」


「……わかったわかった 黙っておくからね!」


「っ……! じゃ… じゃぁな!!」


笑顔で見送る谷下に反抗するかのようなカタは再び闇に消えようとする


「あっ! 待って!」


谷下は最後に重要なことを思い出して慌てて聞いた


「カタは…… その…… 宇宙人?」


「生粋の猫ちゃんだバカ野郎!! ……俺はお前の」


何かを言いかけたカタだったが 結局何も言わず去って行ってしまった


「……また聞けばいいか」


谷下は長時間の正座で足が痺れ 生まれたての子鹿のようにアパートへと帰る

玄関先にはえりちゃんが座っていた


「どこ行ってたのママぁ?」


「うん…… 散歩」


「…………フフゥン! おかえりぃ!!」


手を繋いで一緒に家の中に入る二人

一足早く食堂へ駆けて行くえりちゃんを前に 谷下は目先の少女に疑いを掛けられずにいた


ーー特に普通の女の子だけどなぁ


谷下は思い出していた

以前カタに会ったとき 逃げたのはえりちゃんだったことを


ーーカタがえりちゃんをイジメていた場合 えりちゃんの反撃を受けてもおかしくない

その反撃によって当たり所が悪かったカタは死んじゃった…… 残酷だけどよくある事故だ


手を洗ってうがいを怠らない谷下は

そんな見えて来ない推理を考えてる内に食堂で皆と夕ご飯を囲んでいる


「ねぇえりちゃん!」


「なぁにぃママ!」


「ここら辺にいる黒猫知ってる?」


「…………」


えりちゃんは黙秘に入った

おそらく自分の推理は正しい方だろうと思った谷下は


「その黒猫にさぁ 意地悪されなかった?」


「……された」


話してくれた しかも確証ありの供述

谷下は箸を茶碗の上に横に寝かせて 隣に座るえりちゃんと面と向かって話せるように身体を傾けた


「でもさぁえりちゃん! 相手の猫は私達人間よりとってもか弱いんだから 無闇に物をぶつけたりしちゃダメなのよ?」


「……………」


「あれぇ? えりちゃんは明るく元気で優しい子かなぁ?!」


「……うん! えりちゃんは弱い者イジメしない!!」


「よし! じゃぁイイ子イイ子してあげる!!」


谷下の膝に抱きつくえりちゃんの頭を撫でる彼女の笑顔を見て 安心した大家はやっと言葉を投げかけられた


「いつの間に仲良くなったのよぉ お二方は~ それにのぞっちゃんも随分元気になったみたいだねぇ!」


「あっ…… すいません今朝は……」


「明日は出勤出来そうかい?!」


「はい! じゃぁ改めまして! 谷下希です!! 今日からよろしくお願いします!!」


そうと決まれば大家は棚からありったけの酒をテーブルの中央に並べ

そうなれば谷下は学習もせずにベロンベロンになるまで呑んだ

しかしその内心は一番最悪の〝悪夢〟を忘れたいが為


「ワタシハ…… ヤシタッテモンデゴゼェヤス……

ミナサントデアエテ カンシャノキワミ

ミッカゴ モ ナニコヨウト ワカレタクナイ デス」


寝落ちる谷下はアカリヤミにおんぶされて自室に運ばれた


「オモイデ…… ナノ……

シナ ナイ シナナイ…… デ……」


「……思い出を作るのはこれからですよ」


アカリヤミは布団の上へと谷下を投げ飛ばし 洗面台のコップに水を汲んでいる


「ありがとう アカリヤミさん!」


「いいえ…… 助け合いですよ

それじゃぁ明日頑張って下さい お休みなさいです」


そい言い残してアカリヤミは部屋の戸を閉めた

戸が締め切るまでに谷下のことをジッと見つめていたえりちゃんを気にも留めず

谷下はそのまま蓄積された心労も重なって爆睡したのであった





翌朝


「……なんで」


玄関先から少し進んだ道端に


「……ねぇなんで カタ?」


「おや…… イチじゃないかい」


黒猫が以前と同じ死体となって横たわっていた




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ