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十一話 一日目 最初の朝


ーー何かに揺らされている そんな感覚だ

何に乗ってる? なんだかとても長い夢を見ていたような……


「っ……!!?」


バスの中でうなされていた女性は突然足音を立てて起き上がった


「いや…… 夢じゃない!!」


谷下は辺りを見渡す いつも通りの景色だがこの感覚は覚えている


ーー今は…… 〝四日前〟にこの街に来た日だ


バスは停留所に停車し 前と同じように彼女はこの地に足を着けた


「…………どうなっているの?」


どこも変わった様子のない町並み

しかし当たり前だった紅く染まる夕空を見て初めて抱く恐怖


「ど…… どうしよう…… に…… 逃げなきゃ…!」


あの恐怖の熱風を見た海の反対側へと歩き出す谷下

しかし短い中でも一緒を共にした大家達の顔が浮かんだ途端


「っ…… 知らせなきゃ!!」


谷下は急いで坂を下る

踏切を確認せずに通過して 急いで馴染んだアパートへと辿り着く


「ハァハァ……」


初日の頃とは別格で躊躇なくドアを開ける谷下は屋内に入るなり大声で尋ねる


「すみませぇん!!」


殺風景な渡り廊下に響き渡る掠れた声に

物音混じりにノロノロと左の部屋から出て来たのは大家だった


「昼間っから元気が良いねぇ!! 回覧板かぁい?!」


「えと…… あの……」


「なんてのは冗談だよぉ! 今日からここに住んでくれる谷下希ちゃんだろぉ?!」


「えっ……」


「さぁさぁ上がって上がってぇ!! 疲れただろう? 駄菓子あるよぉ!!」


大家さんは時間が戻っても大家さんだった

すると見知ったもう二人も顔を出す


「あぁ!! ママ!!?」


「えりちゃん……」



「初めまして…… アカリヤミです」



アパートのメンバーが自分を出迎えてくれて安らぎを感じる

まるでいつもと変わらないかのように


「うっぅぅぅ……」


不思議と堪えていた涙が流れた


「おやおやどうしたんだい!! もしかして道に迷って来たのかい?!」


「……違います」


実際は迷っていた

もしかしたら本当に長い夢を見ていたのではないのかと

だけど恐怖が脳裏に焼き付いて あの一瞬の滅亡トラウマが消えてくれない


椅子に座らされてテーブルには粗茶が

訳を聞いてくれる大家達に全部話したいが何も口から漏れることは無かった

逃げてはいけない筈の真実なのに 夢かもしれないってだけで言葉が詰まる


「まぁ今日はゆっくりすると良いさねぇ! 明日から出勤なんだろぉ?!」


「はい……」


ーー高山課長や染島さん…… 夜桜さんや榊葉さんは 信じてくれるだろうか?


自分の部屋は前と変わらなかった

にも関わらずえりちゃんに案内されるのは不思議な体験だ


「ねぇママ!!」


「うん? なぁに?」


「……うぅん 何でもない!! おやすみ!!」


バスの中で寝てきた自分は正直眠たくないのだが

何故かえりちゃんの言葉に甘えて 布団の中に潜ることにした


しかし あの悪夢が蘇る


「……一睡も出来るわけないか」


気がつけば布団の中で半日を過ごし

ふと起き上がった時には辺りが薄暗く オーロラが徐々に美しい彩りを現わしていた


ーー本当だったら今日は…… 勤め先の役所に挨拶しに行く予定だったのに


考えながら寝込んだ結果 微かに残る頭痛を手で抑えながら外へ出る

玄関先でお出迎えしてくれる筈だったえりちゃんの姿も見えず 代わりに谷下が段差に腰を下ろした


「ハァ…… ハァハァ…… 三日後には全て終わる…… そんな話を誰に相談したら……」


しかしもっとも先に挙げられる絶望は


ーー逃げ場なんて本当にあるの?

避難所? 防空壕? 核シェルター? もし防げたとしてあの災害が終えた後は外に出られるの?


自分で頭痛が激しくなるように仕向けてるのが苦痛で考えるのを止めたくなる


「ハァ…… そういえばこの時間帯って黒猫がいたんだよなぁ……」


谷下は不意に左の電信柱へと振り向く


「……いた!」


「ニャオ……」


薄暗い路地と毛色が同化しているも ギラギラと光る二つの眼光がこちらを見て座っていた


「っ~~~~~カタぁぁぁぁぁ!!!!」


死んだ筈の黒猫カタが生き返ったのは谷下にとって今日一番の喜びだった

しかし忘れているだろうが相手は野良猫 飛び込んでくる谷下にひゃくれつ肉球をお見舞いする


「ウハァ! お前は明日事故で死んじゃうんだよぉ!? ホント夜道は気をつけるんだよぉ!!!?」


「っ……!」


カタは言葉を理解したかのように顔で反応を見せ

尻尾を振りながら後退する


「あれ?! もしかして伝わったのかな……」


暗闇に消えていくカタ

ちょっと一安心する谷下がアパートに戻ろうとした その瞬間



「付いて来な…」



人気の無い闇の向こうから聞こえた一声

ドキッと驚く谷下はその場で固まった


「えっ? 誰?」


「ミャオン!」


「……カタ?」


四部の恐怖と六部の好奇心で谷下はカタが消えた方へと歩いて行く

辿り着いた場所はカタを埋葬した空き地だった


「おーい…… カタ~~?」


「一回で呼ばれたら来いよノロマ!!」


ビクッと恐る恐る後ろを振り向くと

カタを埋めた場所の地にその黒猫は毛繕いをしながら片目でこっちを見ていた


「〝付いて来い〟って言ったのカタなの?」


「………………だったら不満か?」


谷下の思考は停止した そして


「え? え?!! 猫がしゃべってる?!!!」



「ギャーギャー叫くな!! 俺が〝殺されたら〟どうすんだ!!」




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