十話 四日目 人類滅亡
シート開いて宴会ムードになっていた谷下達八人
夜桜はあるだけ花火を打ち上げてその場は大団円に舞い上がっていた
「これを見てくれた人々が来年 考え直してくれて祭を再開してくれればいいんですけどね」
「どうだろうねぇ…… そうなら良いけど花火の製造方法も練らなければなくなるね……」
「あっ! 予算が嵩んで尚更ってこともあるのか……」
「夜桜さんが殆ど打ち上げちゃったからね~~」
注がれた酎ハイを足下に置いて谷下は立ち上がった
「皆さん! 今日は本当にありがとうございました!!
思わず発見した花火がこんなにも人の心を潤す大輪の花とはつゆ知らず
ましてやこんなに大勢の人達と見れるなんて奇跡です!! とっても嬉しい奇跡です!!
嫌なことが重複する日々を乗り越える素晴らしい過去の遺産を私達が引き継ぎ
皆がまとまって明るく過ごせる世界を創りましょう!」
「おっ!! いいぞいいぞぉ谷下先生!! 歌え!!」
「それはどう見ても一丁締めの流れなんだけどさぁ
まだまだ宴もたけなわな刻ですし 改まるのは早いんじゃないですかねぇ谷下先生!!」
いつの間にかその場にいる全員が先生と呼んでいた
「私は先生なんかじゃありませんよ」
「だけど君は私達島民に今日この日 〝花火〟を教えてくれたじゃないですか?」
高山が谷下の足下に置かれたコップに酒を注ぎながら褒めの言葉を贈る
「私は…… 花火が何なのか知りませんでした
それこそ前々からこの場所に花火が眠っていたことを知っている榊葉町長の手柄では?」
「だけど俺は使おうとしなかった
目の前にあるのに危ない物だからと言って眠らせたままでいた臆病者だよ」
「そんなことは……」
染島が榊葉の背中を強く叩きまくった
「ホントアンタは慎重というかクソ生真面目というか…… 見ててムズムズするぜ!!」
「おいおい…… いくら俺が寛容で紳士なダンディー町長で通っているからって何言っても許されるとは限らないよぉ?」
「おぉ上等だぁ!! 今ここにケンカ祭りを開催しまぁす!!」
「子供もいるんだからやめなさい!!!!」
取っ組み合う染島と榊葉を割って裂こうとしている高山
谷下も既に出来上がっていたのでゲラゲラ笑うしかなかった
笑い過ぎて視界が回った谷下は麦茶入りのコップを貰うと何処かへ移動する
「谷下先生! どちらへ?!」
「ちょっと酔いが回ったのでそこら辺歩いてきます」
「山を単独で歩くのは危険だ!
サイロの方へ歩いて少ししたらミカンが成ってる木の下に白いガーデンテーブルがあるからそこで休むといいよ」
「ありがとうございます」
「街も一望出来るから絶景スポットだよ」
筋肉バスターされている榊葉に言われた通りに進むと
本当に羨門街を一望出来る高台へと辿り着いた
一件ずつの家の明かりが魅せてくれるイルミネーションを傍観できるこの場所は
酔いを覚まそうとする谷下にとって とても居心地の良い場所だった
「……まだちょっとお日様が顔を出しているのかな?」
辺りがまだ明るさに包まれる夏至の夜なのかもとウトウト瞬きを早める彼女はそのまま寝てしまう勢い
ーーいけない…… こんな楽しい日なのに先に〝寝落ち〟てしまっては失礼だ
何度にも渡り日の沈みを見届けながら瞬きを繰り返していると
不意に見開いた瞬間に気がかりな現象が訪れた
ーー……あれ? もう朝? どんどん…… 明るくなってない?
酔って幻覚を見ているのか
まるで時間が巻き戻されているかのように辺りに差し込む紅い光が強くなった
ーー夢? ……違う ちょっと意識を集中しても変わらない 何これ?!!
踏ん張ろうとすればする程 襲ってくる紅い景色と睡魔が谷下を苦しめた
やがて海の奥から迫ってくる津波にも似た熱風のような焦土の土煙が街全体を飲み込もうとしているのだ
「変な冗談やめてよ…… これは夢だよね? もう私寝ちゃってるんだ… 外で寝るから風邪でも引いたんだ」
徐々に体温が上がっていくのが分かる だけど夢の中でさえも 眠い
ーー怖い…… 怖い…… 怖い怖い怖い! 早く汗だくでもいいから目覚めてよ!!
微かに足音が聞こえる 小さいのにまるでこの世の終わりに臆することのない足音
「ねぇ…… ママ?」
ーー〝ママ〟って…… もしかしてえりちゃん? 早く逃げて!!
「ママはさぁ…… 終わりを見るの 何回目?」
ーーえっ……?