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九十九話 神様と教祖


大きな轟音と共に打ち上げられた尺玉は宙を舞い

飛び散った火花を真下から見上げるアイリーンは思わず仰いでいた


「これが千年前に実在した…… 花火……!! とても感慨深いわ……」


「……」


「あなたも感動してるのね……」


「いや…… 俺は……」


「そりゃそうよ!! こんなに壮大で神秘的な光景を見せられたら感情が落ち着いてられないもの!!」


感動は特に感じていなかった 千年前とはいえ何回かは見て来ていたのだから

ただ 記憶しているデータとはいえ 当時の思い出が蘇るとなると胸が苦しくなり

この気持ちを何て表せば良いのだろう


「昔を思い出して悲しくなる事を 言葉にするとしたら何が良いと思う?」


「そんなの…… 〝懐かしい〟でしょ?」


「懐かしい…… 懐かしいか……」


余り物の中に湿っている花火は後日何とかするとかで

次も見たいと言っているアイリーンを学校まで送ることにした

ここで俺は役所の女性に注意された過ちを 二度繰り返すことになる


「おじさんってさ…… もしかして神様?」


「えっ……?!!」


「人を軽々背負って平気で歩ける距離じゃないよね?

空き地から山を登って そして下って隣町まで悠々と足を止めないけど…… 異常だからね?」


「そっかぁ…… じゃぁ正体を明かすしかないね」


「……」


「……俺はロボットなんだ」


「っ…… そうなんだ…… まぁ別に関係無いけど」


「??」


気付けばもう夜明け間近 学校の敷地に到着したが 門には守衛さんが

周りを囲う塀をよじ登る事に造作もない俺は そのジャンプ力に呆気に取られていた彼女を寮まで運ぶ


「高校に進学したんでしょ? じゃぁ卒業しないと」


「……うん わかった 目標も出来たしね!」


「目標?」


「あのサイロにはまだまだ私の知らない夢が眠っているんでしょ?」


「うん? ……そうだな テレビゲームとか誰かが持っていたな」


「フフフ!! その口振りだと何百年も前から存在しているんだね!!

テレビゲーム?! なにそれ チョーやってみたいんですけど!!!」


「声が大きい!! 今度持ってくるから……」


アイリーンに手を振り 守衛の存在もあってその場から逃げるように立ち去ろうとするが


「私は故人が遺した物を見てみたい!! 発掘したい!!」


「だから声が大きい!! ……見つけてどうするんだよ」


「別に…… 今は取り敢えず無い物を見つけたい!!

行く行くは共有出来る遊び場を創ったりするかもだけどね」


「金がいるだろ…… しかもこの世界は変革を怖れる人が多いぞ?」


「それはどうしようね!!」


「っ……」


無計画はロボットにとって体が痒くなる一つ

溜息交じりにやれやれと首を横に振る俺は


「じゃぁ俺が町長になって先導してやるよ」


「……ハァ???」


「丁度なってみてもいいやって思ってたから 次回にも出馬を試みる予定だったんだ

町長になってからのデカい目標とか特に決まってなかったから 手を貸してやるよ」


胸の高鳴りとか ワクワクするなど 気持ちが爆発するほどの話でも無かった

だが彼女は違うようだ 表情を見れば察せる

これから凄いことが始まるんだって心の中で言ってそうな そんなトキメキの顔をしていた


別れると俺は必然に自宅に帰ってくる

さっきまで刃物を向けていた 幼い少女はあどけない顔で何も知らず眠っていた


「君は谷下博士のようになれるかい? 意味は少し違うけど獅子の系譜なのかい?

……生まれたての雛に いきなり母親は無理だよなぁ?」


立膝でブツブツ独り言を語る なんとも情けない姿

そこまでして俺は母親に 谷下希に何を求めているのだろうか


「縁あって町長を目指すことになった 君が成人するまで取り敢えず獅子代行と言ったところかな

まぁそろそろ人工太陽も爆発する頃だろうから 任期もこの虚しく残り続けた文明の終点まで請け負うだろうな」


年齢は0才だが 見た目は小学校に入学しても違和感なし

生まれて間もない谷下希を 俺は小学校に入学させて寮に入れることにした

〝クローンの教育係〟という命令は放棄

言われてないことを実行し 言い付けを無視する様を 久し振りにソトースに聞いてみると


〝 あぁ お前は人間だよ 人間よりも人間だ 〟


そう言ってくれて 少し仲直りでもしたつもりだったのかな


入学式にはもちろん怪しまれないよう父親を装った

同僚の保護者に出会ってしまって上手く誤魔化すのは大変だったが

最初を終えれば二度と谷下希と接点を持つことが無いのだから 気分も晴れる


これは紛れもないDVや育児放棄だった だが俺にも目的が出来てしまったのだから仕方がない


元々普通の人間を装う為に買った家だったが クローンと鉢合わせしないように荷物をまとめ

谷下希からすれば雲隠れしたかのように 俺は拠点をサイロへと戻した

山の上に戻ると 地下研究所から必要な物を取り出すなり入り口を塞いだ

もしもの場合を想定した措置だった 万が一にも谷下希が成長してここに戻ってきても見つからないように


「誰にも邪魔させない…… 俺は母親を創るんだ」


〝 目的がブレていないようで結構 我も力が回復しきる頃合いに迫っている 〟


「そこまで力を溜め込んでいるのに 俺を乗っ取らないのかい?」


〝 我とお前は協力関係のもと今まで一心同体でやってきたのだ 最期の最後に裏切るマネはしない 〟


「……そうか 俺を信じてくれてありがと!」




二年後

アイリーンは卒業論文に有りっ丈の思いを殴り書きし

あまつさえカメラを回して動画を残すといった強行も

卒業式前と言う事もあって穏便に済まされ 無事に子々孫学校の門を潜り学業を終えた


在学中に俺が教えた 人類滅亡の再来を信じた彼女は預言の書を記し広め

卒業時点で多数の信者を引き連れて着々と準備を整えていた


町長である俺の工面も得て

数年後には目立たない場所にドームを構え 〝カイコ真理教〟という教団が立ち上がったのだった

彼女曰くこの名前の意味はこっそり教えて貰ったが

〝蚕で留まる島から飛び出して過去へ癒着しよう〟とのこと


表向きは信者が集まりやすいように 飛び抜けた神などを信じ込ませて集団を支配していた

ここら辺の彼女の考え方や思想は豹変していたが 俺としては別にどうでもよかった

察するところ 親や教師への反骨精神が沸点に達して心がすさんだのだろう



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