表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/108

九話 四日目 ハナビを打ち上げよう


しっかりと作られている地下の階段を降りていくと一つの大きな部屋へと辿り着いた


「ここは何ですか?」


「君と私の愛の巣さ!」


「え?」


「なんて冗談言ってる場合じゃないんだよねぇ ちょっとこっち来て貰えるかい?」


薄暗い部屋に電球一本

その光すら届かない奥へと心臓をバクバクさせて近寄る谷下に

榊葉はとある箱詰めの物を懐中電灯で照らした


「……そう 箱に書いてある読み方が正解ならばこれは〝花火〟だ」


「花火……」


「驚いたよ…… 誰も知らない筈のこの地下でずっと眠っていた先祖の遺産を君が当てたんだから」


「……自分でも変なんですがね」


「そうです! あなたは変なお姉さんなんですぅ!!」


「えっ?!」


「ハッハッハ!! ちなみに君はこれがどういう物なのか知っているのか?」


「いえ…… それが名前だけなんです」


「ふぅん……」


榊葉は小さな戸棚から一冊の雑誌を取り出した


「これが花火さ」


渡されたカラフルな本に映っているのは 夜空に咲いた色とりどりの大きな花だった

それを見た一人の人間は何とも言えない高揚感に駆られる


「こんな素晴らしい物を私達の先祖は生みだしていたんだ ……綺麗」


「……何故その先祖達は私達にこんな美しい技術を残してくれなかったんだろうね」


「これはその…… この写真と同じように打ち上げられるのでしょうか?!」


「材料は火薬・割薬・和紙・星等ってことは調べてて分かったんだど

どうにも昔ながらの言葉で言うなら〝湿っちゃってる〟ね!」


「火薬がですか?」


「いやそこに点火するまでの導火線が原因らしい だから天日干しすれば大丈夫だとは思う

だけどなんせ何世紀も前だからねぇ………」


「下手に火を付けちゃうと山火事になる恐れがあると……」


「だから地下に保管されてたと思うんだけどね」


「……もしかしてこのサイロもかなり前から?」


「そう…… ある意味この建物も世界遺産だよね~~」


天日干しする為に花火の材料全てを外に運んできた二人が塔から出てきた時には人が増えていた


「昨日振りぃ谷下先生!!」


「染島さん! ……何であなたも先生呼ばわりなんですか?」


「えっ…… あぁ何でだろうなぁ!!」



「呼びやすいからじゃないかなぁ?」



後から2000GT(車)でやって来た高山は窓を開けて笑いながら会釈する

差し入れと共に降りてきた彼ともう一人 見ない顔だ


「紹介するよ こちら牡丹卍の神主であり俺の同級の〝夜桜月霞ヨザクラゲッカ〟だ」


動きづらそうには見えない通気性が良さそうな薄い袴を着ており

何より場違いなのが背中にアサルトライフルを背負っていたことだった


「初めまして谷下希です」


「……戦争が起きる気配がしてなぁ」


「はい?」


突然の夜桜の発言に谷下は心臓を飛び出さざるを得ない

しかし周りは当たり前のように大ウケする


「大昔にあった国同士の大規模な戦争のマニアでなぁ

この持ってきた奴も一応本物で実弾も携えているらしい」


「もしかして……」


谷下は榊葉の方を見る


「もちろん!! ここにあった物だよ!!」


「いやいや危ないでしょ?! これをよくを分かってないですけど危ないでしょ?!!」


「大丈夫だって! 夜桜さんも善人に弾は当たらないって言ってるし」


「いやいやいやいや?!!!」



「この世に安全地帯なんてないんだ……」



銃の件について中々落ち着いてられなかった谷下だが

それでも時間が進み 導火線等の日光浴もほのぼのした絵面なせいか追及を諦めざるを得なかった


「それで夜桜さんをここにお連れした理由とは?」


「まぁその…… 俺も榊葉と高山から今朝ハナビのことを聞いてな

火薬とかの危険取り扱いに詳しい人間はいないかと聞かれてだな

そんな知り合いなんていなかったから とりあえず夜桜に連絡したら

〝火薬〟って言葉聞いただけで寺を放り出して来るもんで連れて来た」


「つまり信頼していい人ではないんですね?!」


谷下は夜桜の方を見ると 彼は仕事人のような表情で頼もしそうに言った


「任せておけ…… こういうのは素人が気軽に触っていい物ではない」


「あなたも素人ですよね? というか神主さんですよね?!」


「手つきが悪い素人が火薬の扱いを誤って倉庫を火事にしたっていう事件が一般的だったそうだ

不慣れを咎めるつもりはない 猛省して学んでくれるのであれば釜の飯を囲んで一緒に食えよう

だが同じ事を繰り返す愚衆は罪も無い同胞の命を平気で奪うのさ だからそういう奴は戦場に連れて行けない」


「何の話をされてるんです?」


「俺はてめぇの命を国家の為に捨て去ることが出来る」


「コッカ?」


「前線に赴き 振り返れば帰りを待っている愛する家族を守ることだけを頭に入れ

己の正義に遵ずる覚悟を鬼へと具現し ただ前に…… ただ前へと誇りを持って進まん!!」


「あなた神主ですよね?!!」


このやり取りが終わる頃には日も暮れて

上空に咲く自然の花火とでも表現しようオーロラがここにいる全員を見上げさせた


「きっと綺麗ですよね! オーロラに負けないくらい!!」


「じゃなきゃ花火が当たり前に書かれているあの雑誌は嘘になるでしょうね!」


いつの間にか夜桜が平地に筒を設置していた

余っているだけの資料を基にいよいよ準備に取り掛かる


「こんなタマネギが花を咲かすってか?」


「タマネギじゃなくて尺玉って名前らしいです でもホントすごいよね…… 日本の文明は」


「こんな技術を他にもあって さぞ退屈しなかったんだろうね~ 当時を生きれた人間は羨ましいよ」



「なんでこんな外の世界が無い島に生まれたんですかね…… 私達」



谷下の発言に四人は悲しかったり悔やんだり 既視感とはまた違う振り返る気にもなれない過去に浸る


榊葉「人類滅亡か…… 海を渡っても行けないし〝日本列島〟なんて伝説の巨大大陸は本当にあるのかな~」


染島「俺は誰かの妄想が一人歩きしてると思うね!! この島だって楽しいことイッパイあるじゃねぇか!!」


夜桜「俺は最終核戦争で人類滅亡して そんな中で奇跡的に生き残ったのがこの島の人間だと思うぜ!!」


高山「そうかなぁ…… 俺はやっぱり温暖化かな~~ 現実問題だし身近に思っちゃうよね~~」


谷下「でも死ぬほどの影響を私達が受けているわけでもないですしね~

ここは不景気と感染症の連鎖によって防ぐのが遅れた医学の敗北とかですかね!!」


えりちゃん「えりちゃんはえりちゃんの最後の力を振り絞って皆を助けたと思うんだぁ!!」


アカリヤミ「難しいことは僕には分かりませんけど 当時の人達もまさか自分達が全滅するなんて思わなかったでしょうね」


大家「ンハハ!! 壮大な若者達の話は老体にキツいけどねぇ 酒がある時代に退屈は無かった筈だよぉ」


夜桜が導火線に点火させる

危険が無いように遠くまで離れた全員は心が一つになった

これから起るのは間違いなく未知の体験 ワクワクが止まらない感情の隙間に夏の温かい風が不思議な空間へと誘ってくれた


「カウントダウンでもしますか?」


「いつ打ち上がるかも分からないのに?!」



「10! 9! 8! 7! 6!」



検討してる間にもえりちゃんが大声で数え始めた

釣られて谷下やアカリヤミも一緒にカウントを進める



「「「「「 5! 4!! 3!! 2!!! 1!!!! ゼロぉぉぉぉ!!!!! 」」」」」



三秒遅れの発射がとても心地良かった

打ち上げられた尺玉は遙か上空まで一直線に登り その時はやってきた



「…………っ~~~~ たぁまやぁ!!!!」



谷下の叫び声と共に夜空に開花した色とりどりの花火が島全土にその眩しい顔を見せる

人々は新しい理由の下 玄関を飛び出し 窓を開けて 今やっていることを中断し

突如として空に現れた 見慣れたオーロラとはまた別の力強い花火を見て数秒間 見入ったのだった





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。お世話になっております、縹です。ご作品、ここまで読ませて頂きました。 賑やかな仲間と共にお役所仕事をこなす主人公のハートフルな展開がとても素敵です。お祭りの件は残念でしたが。。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ