プロローグ
西暦XXXX年
夏空にオーロラが掛かる港町【羨門街】
夕焼けを包む光のカーテンは淡く 紅潮した海と同調している
本来の美しさが台無しの理由はベールに包まれた背景が意地悪をしているからだ
時刻は夕刻
子供が息を切らして帰ってくる道中を照らしていた
思い出を振り返れば母親代わりの夕陽が今となっては地獄の合図
そういえば今日が終末だ 呟いて諦めるため息と共に漏れたその言葉はそのまんまの意味で
あと少しで全てが無くなる 今はそんな時間帯だ
「……あれ? ……こんなときに寝落ちるなんて」
お山の高台にある腐りかけのミカン畑
気温は徐々に上がっていき 前から不可思議に感じ取れる息切れが
生きようとしている筈の彼女は 未だに生きようとしているミカンの実りから背を向けていた
「もう…… ここまで来たら何も変わらない」
木の隣には白いガーデンテーブル 幼子がいたであろうテーブルチェアまで設置されていた
こんな地獄絵図の赤黒い景色を見る為に用意されていた訳でもない筈なのに
そう思うと悲しみが込み上げてくるが こう熱いものが切羽詰まってきては既に涙は枯れてしまっている
「世界の終わりの間際に…… まだ出来ることってなんだろう……」
太陽と思える小さい光からやってくる煉獄の風が目の前の正体だ
爆発に寄ってこの星に手を伸ばす〝ソレイユフレア〟は自分達と握手を求めている
それは皮肉なことに 遡れば貴方達の過ちと後悔が祟った自責の念に他ならない
「また…… 死ぬ時は独りっきりなんだ……」
机にうつ伏せになる麗しく怪しい彼女は最期までそこを動くことはなかった
プラズマの熱風が通り過ぎようとも 自分が愛したこの街から出て行こうとは思わない
「どうせ逃げ場なんてなかったんだ…… 外も真っ暗 どこに逃げろっていうのよ……」
彼女は寝ることが出来なかった
絶望で頭がいっぱいな貴女の名前は〝谷下希〟
世界を救える為に生まれてきた救世主の名前よ
そして今日この日 世界は終わりを迎えた
知る限り二度目の小さな小さな人類滅亡 そうワタシは省みる
大地は干上がり 空は既に死んでいたのよ
変えることは不可能 変えなくても良いとも思っている
何故ならそれが貴方達の選択だったじゃない
だからワタシも眠らせて貰おうかと思います
この先に未来を選ぶ者がいない限り 私に生きる価値は無いんですもの