王女、仕返しされる
この日の王宮の朝は騒がしかった。聖女が王太子の婚約者として迎え入れる準備に追われていた。
まだ、リチャード伯爵の令嬢と王太子は婚約者解消はしていないので、あくまでも予定としてだが、王宮ではアルテシアは婚約者として扱われる予定だ。
ルティーナは部屋の窓から王宮の前で何台も馬車がや大勢の騎士で迎えに行く、アッシュレを見て呆れていた。
「そんなに浮かれるなら始めから捨てなければいいのに……」
ルティーナが呟くと、ローザが肯定する返事の代わりにクスクスと笑う。
アルテシアの事を思うとルティーナは溜息を吐いてソファーへ座る。ローザが何通か手紙を持って来た。
それを恨めしい目でルティーナは見る。
「あー言わなくても誰からかの手紙か分からるわ。ところでそれらの手紙は封は開けられているのかしら」
「いいえ、未開です。お読みにならないのですか」
「なんの権力もない王女の手紙なんて興味ないのね。お父様もアッシュレお兄様も。まぁいいわ、私には都合がいいわ。ローザ、サーネル国の王太子のお手紙から読むわ」
ローザから手紙を受け取ると一読した。
ルティーナはサーネル国の王太子は、舞踏会で会っていた。サーネル国は農家や田畑が豊富で堅実な国であった。その国に相応しく王太子も温厚な人物であった。手紙の内容は求婚の申し出をした事と何故か求婚を懇願する内容だった。
手紙を読んで暫く考え込んだルティーナを心配そうにローザが伺う。
「ルティーナ様?」
ルティーナはサーネル国王の手紙の気になる一文を読んだ。
「変だわ、この手紙……。『貴方にこの婚姻を受けて頂いたら私達、サーネル国の王族が救われる。どうぞこの求婚を受け下さい』なんて、おかしいわ」
「確かに…変ですね」
ルティーナは嫌な予感がした。残りの手紙に目を向けた。
「ローザ、その手紙の中にラーダスの王太子からの手紙がある筈なんだけど……」
「ええ、ございます。お読みになりますか?」
ルティーナの嫌な予感がの元凶の手紙を受け取る。ルティーナは手が震えるのを抑えて恐る恐る手紙を読む。
読み終えるとルティーナの顔は真っ青だった。その場で倒れそうになるのをルティーナは何とか平静を保った。ローザはルティーナに断りを得てラーダスの手紙を慌てて読む。
『親愛なるルティーナ王女。
貴方に初めて会った事が昨日のように思うよ。
先日、アルターナ国王に貴方への求婚を申し込んだ。
アルターナ国王からの返事が待ち遠しい。
残念な事に貴方には、望む権利も断る権利もない。
間違いなくアルターナ国は、貴方を我が国へ嫁がせる事を望むだろう。
何故なら、私の正妃の座を貴方の為にわざわざ空ける事にしたからね。
貴方も元正妃の処遇の事が気になると思って報告しておく。
私の元正妃は、今、不貞行為の疑いで牢に入っている。私は元正妃に裏切られてとても悲しい思いをしている。酷い話だと思わないか?
我が国の王族の妃は不貞行為を犯すと死刑なんだよ。
貴方がラーダス国へ嫁ぐ日に決別の為に二人で刑を立ち会って欲しい。
貴方がラーダス国の正妃にならない事が分かれば待つ必要がないから刑は実行しようと思う。
今の貴方の顔はあの時の強気な顔のままでいるのか、悲愴な顔でいるのか分からないのが残念だよ。
貴方がどう思おうと、貴方にはなんの権利もない。
そして、貴方は何も出来ない。
残念だね、ルティーナ王女
ラーダス国王第一王子ウルリッヒ・リーベルスより愛を込めて』
ローザが怒りを露わにして叫びに近い声で言う。
「これは、脅迫ではないですか!」
「これは、脅迫ではないわ。これは舞踏会の時の仕返しのつもりだわ。ラーダスの王太子妃殿下の不貞もきっと捏造した話だわ。こんなに時期に都合がよく不貞行為が発覚するなんて…。サーネル国の王太子の手紙を読むかぎりまだ王太子妃の事を知らないみたいね」
ローザの手前、冷静を取り繕ったが、ルティーナは悔しくて仕方なかった。手紙に書いてある通り何も出来ない。国王の決められた道しか選べないない。ラーダス国の王太子妃の死を黙って見ているしかない。
ルティーナを正妃に差し替えるだけなら元正妃を離縁してサーネル国に戻せばいいだけの話を処刑までするのはラーダス国の惨忍さが浮き出ていた。
「ウルリッヒ王太子に完全にやられたわ」
ルティーナはもう一通の手紙が目に入った。バガラル国の刻印の入った封筒である。ローザがルティーナの目線に気が付きルティーナに渡した。
「バガラル国王陛下からです。アルテシア様の件で国王陛下、アッシュレ殿下の目に止まらなかったみたいですね。開封されてませんがお読みになりますか?」
(ダニエル国王の事だから、お父様やアッシュレお兄様に読まれても問題ない事しか書かれてないと思うけど)
『敬愛なる、ルティーナ王女へ
私の事を覚えているか不安が過るが、聡い貴方の事だから大丈夫であろう。
以前の建国際の時は、ゆっくりと話す事が出来なくて残念だった。私と貴方は歳が余り離れていないので…《中略》……。君との出会いの記念に贈り物送った。君なら私の考えている事が分かると信じている。
バガラル国王ダニエル・パレデスより』
「ローザ、バガラル国王から贈り物は?」
ローザは不思議そうな顔をしてルティーナに二つの小箱を渡す。
「先程、中身を確認しましたが……」
ローザがいい終わる前にルティーナが箱を開けた。中には髪飾りが入っていた。黒い羽にイエローダイヤモンドの飾りだ。ダイヤの部分は取り外して別の飾りがつける事ができるものだ。もう一つ箱を開けると先程の髪飾りの取り替え用の飾りのようだ、白百合をモチーフにした金と真珠で出来たものだった。ルティーナはイエローダイヤモンドを白百合に変えようと思ったが爪の所が折れてて変えれない。箱の中にメッセージカードが入っていた。
『白百合のアクセサリーは壊れているから私が自ら直しに行くからまではそのまましといて欲しい。それまでは黒羽とダイヤの飾りのままにしといて欲しい。
ダニエル」
ルティーナは暫く考えて、あ、なるほどとダニエルの贈り物意味がわかった。
白百合はサーネルの象章、黒い鷲はラーダスの象章、イエローダイヤはルティーナの目の色と同じ。
壊れたアクセサリーをわざわざ国王が直しに行く。
どうやら、ラーダス国の王太子妃の事をダニエルは知っているようだ。
どのように調べたのかルティーナはダニエルに聞く機会あれば聞こうと思った。
ローザは、全く理解できないという顔している。
ルティーナは自信たっぷりにローザに言う。
「面白い事になりそうよ」