舞踏会での思惑
この舞踏会はルティーナの品評会みたいなものだった。
国王はルティーナをいずれは他国に売るつもりである。国王はルティーナを有力な貴族に下嫁にする気は微塵もなかった。アルターナの貴族が王族との繋がりを持つのを嫌がっていた。
国賓は他国の独身の王子や国王ばかりである。バガラルの国王が今回、参加したのはアルターナの国王も驚いた。
アルターナの訪問もいつも国王の代わりのバガラルの大臣が参加している。アルターナの国王もバガラル国の訪問にはアッシュレを行かせている。
バガラルの国王と挨拶は交わしたが、まだ、幼い少年の癖にやたら堂々としている。前国王よりも国王らしいのがシャクに触る。
アルターナは前国王とは友好関係が深かった為、恐らく元国王にとっては、アルターナ国王をよく思っていない。今日も言葉とは裏腹の目をしていた。用心深い性格なのであろう。
ルティーナは、自分から近づかなくても周りから国賓から貴族達が寄ってきた。ルティーナも彼らが近づいてくるのはそれなりの思惑がある事は重々承知である。外国からの国賓と話だが意外にもアッシュレの好感が高い事に驚いた。どうやら、アッシュレは外交の才能があるしい。
外国からも王女達がアッシュレ目当てに舞踏会に来ている事も一目瞭然である。
アルターナの貴族達もルティーナに寄って来た。何人かの殿方と子息とダンスをし夫人達とも挨拶を交わした。ルティーナが意外に話しやすい人物だと分かると多少夫人達も口が軽くなる。
ルティーナは一人の中年の男の視線を感じた。背も高く整った顔立ちだったが、ルティーナを上から下まで舐めるように見てくる。
ルティーナも気分が悪くなり何処かに逃げようとしたが男はいつの間にかルティーナの前にいた。
「これは、これは、アルターナの真珠出会えて私はなんて幸運の持ち主なんだろう」
「貴方は?」
「申し遅れました。ラーダス国王第一王子のウルリッヒ・リーベルスと申します」
ウルリッヒは舐めるようにルティーナを見る。
「私はアルターナ第一王女のルティーナ・ルービンスタインでございます」
「アルターナの王女がこれほどまでに美しいとは、ラーダスの王妃にふさわしい」
ルティーナは何をこのウルリッヒは何を言っているのか分からなかった。既にラーダス国には王太子妃はいる。
「ご冗談が過ぎますわ。ラーダス国には既に素晴らしい王妃も王太子妃もいらっしゃいますわ」
「貴方の為にその座を開けるとは容易い事ですよ。私と一緒に一曲、踊りませんか」
ウルリッヒは、手を差し出す。ルティーナは仕方なく手を取ろうとすると後ろから呼び止める声がした。
「ルティーナ王女、先程、私と踊る約束、お忘れですか?」
ダニエルがルティーナに手を差し伸べ出来た。
「ウルリッヒ王太子殿下、もう訳ありません。折角、お誘いでしたが先にバガラル国王陛下のお約束がありました。また、お誘いくださいませ」
ルティーナは、ダニエルの手を取った。
そのままホールへ行きルティーナはダニエルと踊る。ダニエルは以外にもダンス上手くルティーナも踊りやすかった。ダニエルはルティーナに話しかけて来た。
「邪魔をしてしまったかな?」
「いえ、寧ろ助かりましたわ」
「なら、良かった」
二人のダンスは会場の人を魅了した。
曲が終わるとルティーナもダニエルも人気のないバルコニーへ行く。
ダニエルがルティーナに飲み物を差し出しながら話し出す。
「ルティーナ王女は私を怖がらないんだね」
「正直に申し上げても?」
「構わない、今宵は何を言われても聞かなかったことにしよう」
「では、遠慮なく。お会いする前までは恐ろしい方だと想像してましたわ。お会いしてからは不思議な方だと」
「ほう、不思議とは?私がですか?」
「とても、人を殺めるとは思えませんでした」
「ふふふ、正直な方だ。その正直な貴方だけにお教えしましょう」
ダニエルはルティーナの耳元で小声話す。
「悪魔が死ななければ大勢の人が犠牲になる。迷いもなく真に護るものさえ見ていれば成し遂げます。しかし、貴方には私と同じことをさせたくない」
ルティーナはダニエルを見る。
「私は、それでもアルターナを変えたい」
「貴方が困った時は頼ってください。微力ながら力になれると思います。では、今宵はこれで」
ダニエルはそのまま去っていった。
舞踏会も幕を閉じた。