表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

国王の悪夢

ルティーナは体調が悪くなったと言い、ウルリッヒが着替えから戻る前に自室に戻った。ローザも手加減しなかったのでしばらくは部屋で蹲っているから戻れないだろうと言って即座に立ち去る事を進めた。ウルリッヒも侍女であるローザに脇腹を殴られた不名誉な事は伏せておきたかったらしくアッシュレからのお咎めはなかった。それよりも、アッシュレはバガラルへの外遊の準備に多忙だったらしく、ウルリッヒの訪問も煩わしい本音でルティーナに押し付けたのが事実だったらしい。それを証拠にウルリッヒは翌朝にはアルターナを出て行った。


「ルティーナ様、浮かない顔ですが何か気がかりなのでしょうか?」


「ええ、ダニエル国王陛下の手紙ではウルリッヒ殿下の興味を向かせなければいけなかったと思うの。アレで良かったのかと思って…」


ローザはうんざりした顔でルティーナに言った。


「ウルリッヒ殿下のお心は十分、ルティーナ様に向いていると思いますが…。手に入らいもの程、固執するような方にお見受けいたしました。特に媚びを売る価値も無いかと…」


「男女の事は難しいわ…。ウルリッヒ殿下が私に向いているなら問題ないわ」


と、言いながらもルティーナの気分は晴れていない。


「まだ、ご不安ごとが?」


「お兄様がバガラル国に外遊の話があるのよね。もしも、バガラルとアルターナが同盟を結んでしまうとアルターナはより強固な国になってしまう。お父様とアッシュレお兄様に隙が無くなるわ」


「ルティーナ様のラーダス国との縁談が進んでいる以上、バガラル国との同盟は難しいかと思われますがラーダス国とバガラル国は冷戦状態が長い間、続いています。私の個人的意見ではあの王太子の元へルティーナ様嫁ぐ事は反対ですが…」


ルティーナはローザを見て困ったように笑う。


「アルターナでは王女は私一人よ。お父様とお兄様は最大限利用しようと考えているわ。選り好み何て不可能よ。それよりも嫁ぎ先の国をどう利用するか考えた方が時間の無駄にならないだと思うのよ」


「だからと言って、あのような男と…」


ローザは思わず本音を口にしてしまった。縁談はサーネル国とラーダス国であればラーダス国の方が有力だ。ここで、もしもバガラル国が名乗りが上がれば話は違ってくるとは思うが、わざわざ縁談の話為にアッシュレがバガラルに行くとは思えない。


「それよりもアッシュレお兄様はバガラル国へ行く理由は何かしら?」


「アルテシア様の件でしか考えられませんが?」


「本当にそうかしら?アッシュレお兄様の真意は別のところにあるよな気がする…」


ルーティナはアッシュレが確実に何かを摑んでいるか、他にも何か目的があるのだろうか?クラウドはバガラル国でアッシュレと会うとは考えにくい。公式の場でクラウドを表に出すことは絶対しない。何故ならクラウドは病床から出れないほど病弱な事になっている。いつ死んでもおかしくないとも王宮内で噂されている。もし、バガラル国でクラウドが何かあったら…。ルティーナは首を振り嫌な考え払拭した。


数週間後にその嫌な考えが現実のものとなる事も知らずに…。



ここはバガラル国の宮殿の国王ダニエルの寝室である。

ダニエルは深夜まで政務をこなし浅い眠りに着いていた。ダニエルは眠りに着くと同じ夢ばかり見ていた。前国王、王太子の最後の日の夢があの日から毎晩の様に訪れる。


あの日は大雨で雷も酷かった。恐らくレナウド・ティソット伯爵の策略でなるべく今から起こす反乱の発覚を遅らせるために大雨の日を選んだのであろう。

当時、ダニエルは国王や王太子から疎まれていた。幼い頃から武術より勉学に励んでおり、優れた知識、発想力も優れていた。とても5歳の子供の考えではなかった。

その発想力は時には貴族世界を否定することもあり子供だとは言え許せないと国王も王太子もダニエルの事を邪険に扱うようになった。

伯爵がダニエルに近づいたは反乱が起こる5年前だった。彼の夫人と娘が盗賊に襲われ夫人は亡くなり娘は心が壊れたと聞いている。伯爵は国王の主治医だったが精神的な事でダニエルの主治医になることを望んだらしい。疎まれていたダニエルに使える事は医官としての降格を願い出たと同じだった。

伯爵はダニエルの主治医になり密かにダニエルに王として教育を密かに始めた。

同時に着々と国王の側近や家臣を失脚させることに伯爵は成功させていた。伯爵は側近の女性癖を調べ上げ好みの女性を近づけ資産を食いつぶさせたり、家臣の性癖から趣向など細々と調べ上げ賭博好きの物は国庫に手を出させ失脚させたりと着々と王族派を潰して行った。

ダニエルはどれも伯爵が絡んでいることを知っていた。ここ数年で国王の側近は半分ぐらいは変わっているだろう。


そして、反乱の戦火を放つ日が来た。深夜、城外にいるダニエルの前には武装した伯爵、一同、多くの戦士が集まっていた。


「国王の暗殺では今のあなたが国王になっても国王威厳が弱いものとなってしまいます。威厳を保つには国王と正面から戦って玉座を奪わなければいけません。覚悟を決めてください殿下」


ダニエルもこれ以上、今の国王や王太子がこの国の玉座にいれば国が崩壊するかそのうちに他国から攻められるであろうと思っていた。だが僅か10歳の自分に国王が務まるのであろうか?伯爵は更にいう。


「自分を幼いと思わないで下さい。あなたは大人に匹敵するほど聡明です。十分、国王としての能力がある。今、足りないものは私たちが補います」


今ここで返事をすれば後には引けない。今からさらに攻め込む者達の期待の目がダニエルにのしかかる。自分の背に多くの命を背負う事になるがその重荷から逃げではいけない気がした。ダニエルは覚悟を決めた。


「私も覚悟を決めた。この国の頂点として我が命を捧げよう」


ダニエルの言葉を合図として伯爵を含めた反乱軍が王の私室を目指して攻め立てた。国王派の護衛の騎士や軍の騎士団が国王を護る為にダニエル達に襲いかかる。

ダニエル達も国王を目指して進む。城内の戦火を放ってからはダニエルが躊躇する間もなく次々と襲いかかって来る。躊躇えば死ぬだけだ。訳もわからずもう何人、切ったのであろう。ダニエルは周りの血生臭いに酔いそうだった。


(もう、やめてくれ。これ以上、来ないでくれ)


肩の息も上がって来た。切っても切っても現れる国王の部下に途方にくれていた。


「一体、いつになったら終わるんだ」


それを聞いた伯爵の息子、ハルクがダニエルの背後を護りながら言う。


「殿下、ここを上がったら陛下の部屋です。既に我が父が先に進んでおります」


それからも、何人も切り倒しながら国王の部屋を目指した。国王の部屋に入ったときダニエルは目を見張った。既に先に攻め込んでいた伯爵は国王の上に馬乗りになり剣を突き付けている。部屋には血だらけの虫の息の王太子が伯爵の部下によて縛り上げている。初めて伯爵の憎しみと怒りに満ちた顔を見た。


「遅いですぞ、殿下!もう少しで私が国王の息の根を止めるところでした!殿下がやらなければ意味がないのですぞ!」


と言いながらも今でも国王を殺したくて仕方ない伯爵は殺気を弱めることはなかった。先ほどまでダニエルの背後を護っていたハルクも伯爵と同じ憎悪を露わにしている。


「我ら一族の無念を晴らしてください。本当なら我が手で恨みを晴らしたい…。しかしこの国には強い国王が必要です。全ては殿下に委ねられている。早くこの時代を終わりにして新たなバガラル国の時代を作ってください」


ダニエルはハルクの言葉に促されて父、国王の元へ行く伯爵は国王へ威嚇を緩めない。国王は横目でダニエルを見据える。


「国王の座はお前にやる。頼む亡命でもなんでもいい。命だけは助けてくれ…。愛する息子よ」


ダニエルは知っていた。つまらない理由により多くの使用人や家臣が死んで逝った事を死んで逝った者には愛する者を残していった者もいた筈だ。ダニエルは虫唾が走った。つい昨日まで自分を罵倒し無能扱いし続けた息子に愛を語るとは…。横で倒れている兄の心配すらしない。あんなに可愛がっていたではないか。


「私は物心つく頃から見ていた。幾人の罪もない人間が命だけは助けてくれとあなたにすがった筈。あなたはその姿を見て喜んで命を奪っていった!それでも命乞いするのか!己の恥を知れ!」


とダニエルは言い放ち、ダニエルは躊躇いもなく剣を国王の喉に剣を突き下ろした。国王の血飛沫がダニエルの顔を赤く染める。そしてダニエルは足早に兄の元に行き同じように命乞いをする兄の首を跳ねた。


「これで、悪しき古い時代は終わりました。実の父の国王を討った事はより強い国王を誕生させた事と世間に広まるでしょう」


伯爵が静かに言う。ダニエルは伯爵の言葉が聞こえているのか聴こえていないのか。血だらけの自分の手を眺めながら呟いた。


「私は命乞いをした人間を殺したのだな。この罪は一生背をわなければいけない」



そしてダニエルは悪夢から目覚める。空は少し明るくなりかけている。酷い汗を掻いている事に気付く。国王の最後の顔が忘れられない。彼らの最後の「助けてくれ」と言う言葉が耳から離れない…。だが後悔はしていない。あれからダニエルは何の感情も湧かなくなった。悲しみも怒りも同情すら感じない。

ただ、あのアルターナの王女と話した時は久々に楽しかった気がする。


従者が何かの異変を感じたのか部屋で待機をしていた。


「さて、国を一国、潰さねばならない。ティソット伯爵を呼んでくれ。また、血生臭い戦いになりそうだ…」


従者は国王の命を聞くと部屋から出て行った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ