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王子の呼び出し

クラウドが旅立って、更に数週間たった。

ルティーナは窓から見える塔を見ていた。やはり、クラウドの留守の塔は見ているだけで寂しさが込み上げてくる。クラウドとはそれ程、頻繁に会う事は少なかったがそれでも近くにいるだけでも心強かった。


「ルティーナ様、ルティーナ様」


ローザの声に我に帰る。


「どうしたの?そんなに何度も呼ばなくても聞こえるわ」


「先程から何度も読んでおります。アッシュレ殿下の従者の方が見えてます。お通ししますが宜しいでしょうか?」


「アッシュレお兄様の使い?嫌な予感しかしないわ。だからと言って会わないわけにはいかないわよね。いいわ、通して頂戴」


アッシュレの従者が入って来た。ルティーナはソファーに腰をかけ従者に扇子越しに目線を傾け、無言で用件を言うように促した。


「失礼致します。ルティーナ王女殿下、アッシュレ王太子殿下の命によりこちらに参りました。殿下より本日、午後からですが水晶の間に来るように仰せです」


「水晶の間?」


ルティーナは思わず眉を潜めて言った。水晶の間はアッシュレの宮殿の応接室として使われている。ルティーナの事を商品としか見ていないのに水晶の間にわざわざ呼ぶなんて普段では考えられない。ルティーナはアッシュレの意図の見えない誘いには乗りたくなかった。


「せっかくのアッシュレお兄様のお誘いですがわたくし朝から気分が優れず熱があるようです。大変残念ですが、もし風邪でアッシュレお兄様に移すのは心苦しいのでお断りいたします」


「失礼ながらルティーナ様、これはアッシュレ王太子殿下の命令でございます。必ず来るようにとの事、預かって参りました」


「命令なのですね…では、伺いますと伝えて下さる?」


「畏まりました。もう一つ、命を預かっています。必ず着飾って来るようにとの事です」


ルティーナは驚きと怒りで目を大きく開けた。


「それも命令なのですね」


「左様でございます」


「分かったわ。では何の用事でお呼びなのかしら」


従者は少し戸惑った顔をしたが、思い直しはっきりと答える。


「殿下は、ルティーナ様に何も詳細を伝えるなと言われてますので…。申し訳ございませんがルティーナ殿下のご質問にはお答え出来ません」


「もう、いいわ。他に用が無ければ下がりなさい」


頭を下げると従者は、早速さと部屋から出て行った。

ルティーナは自分に詳細を告げると都合が悪い事なのだろう。詳細を告げた所で逃げ出す事など不可能ではないか?では、何故?ルティーナが事の内容を知って事前に準備するのを避ける為なのであろう。


「ルティーナ様、本当に行っても大丈夫なんでしょうか?」


「ローザも聞いていたでしょう?行くしかないわ。着飾っていかなければいけないわね…」


ルティーナのお茶の支度をしていたメイドに昼からの準備を言いつける。何でもいいので見栄えのいいドレスの準備をする様にと…。ルティーナはどうしてもアッシュレの為に自ら着飾ることに気が進まなかった。


「何の為に着飾るのか教えてくれなければどう支度したらいいか分からないわ。それでも…きっと、理由を聞いてもどちらにしてもその気になれないわ。無駄な嘆きだわ」


ローザは何か考えたのか厳しい顔をしている。


「やはり、ルティーナ様、事の詳細が分からないので後日、改めて日程を変えて頂きましょう。嫌な予感がします」


「予感も何もアッシュレお兄様ぎ絡むなら嫌な事しかないわ。ローザ、あなた神殿の第三騎士よね。剣術だけなでなく武術も長けているのよね」


「恐れながら一通りは、我、神殿騎士は王宮の近衛騎士にも負けないと自負しております」


「そう、なら心強いわ」


ルティーナはローザに微笑む。ローザが思い出したようにルティーナに手紙を渡す。


「教会からお預かりいたしました」


サーネル国の王太子からの手紙だった。バガラル国とのやり取りが書いてあった。サーネル国とバガラル国の利害関係は一致しそうであった。もともと、サーネル国は規模が小さいが薬草からの薬品や香辛料になるハーブなど加工の技術は優れていたが国の規模が小さい為、中々、貿易では上手くいかなかった。バガラル国の後ろ盾があれば貿易に有利な交渉が出来る。サーネル国もバガラル国と繋がりが出来れば願ってもいない事だ。

バガラル国も医療に関しては力を入れている国なので技術を提供するサーネル国との同盟は利害関係に損はないとの事が書いてあった。

ラーダス国に王妃に関してはいつ処刑されても可笑しくはない。ラーダス国に何度も悲願したが、譲歩してくれないと書いてあった。


ルティーナは手紙を読み終えるとローザにすぐに燃やすように指示をする。


「これをお父様やアッシュレお兄様に目が触れたら大変ね。結局の所はサーネル国もクラウドお兄様もアルテシア令嬢もバガラル国の手の内にあるのね…偶然なのかしら……」


ルティーナは目を細めて見る、ローザの方をみる。


「ええ、恐らくは……」


「そう、偶然なのね。よく考えてみたサーネル国とバガラル国、私が中立させるのも何だか踊らされていたような気がして来たわ」


「では、それは失敗だと?」


「失敗とか出なくて始めからダニエル国王にそうなる様に誘導させられたと言うか…あの時、わざとインパクトのある手紙や贈り物を送られたからそう動くものだと思い込んでいたよな気がする…」


「もしかして後悔されていますか?」


「ダニエル国王の思惑通りに物事が運んで、私の思惑よりも前にある事が悔しいと言うか、やられた感があるというか、結果はそれで良いとは思うのだけど…」


ローザはルティーナに少女らしい気持ちがある事に安堵した。


「宜しいのではないでしょうか?結果はルティーナ様の思惑通りに進んでいるのならば…」


「そうね…」


そして、ルティーナは午後より言われた通りに水晶の間へローザを連れて向かった。

扉の前での護衛の騎士の案内で入る。兄の向かい側に誰かいる様だ。

ルティーナは中に入り挨拶をするがアッシュレはルティーナと目も合わさず返事もしない。どうやら、アッシュレの前にいるのは客人の様だ。


ルティーナが前に進むと客人が立ち上がった。

客人の顔を見てルティーナは目を大きく見開く。


聞き覚えのあるねっとりとした話し方をする男は、ルティーナに話しかける。


「お久しぶりですね。アルターナの真珠、ルティーナ王女」



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