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殺し屋アウラは喋らない  作者: エイチャン
2/3

疑惑

ついに、僕とリクトはお父さんには何も言わずに、謎男に着いていくことに。

夕刻、いつもの時間に廃工場に謎男はいた。


着いていきたい事を伝えると、謎男の案内で街の出入り付近に停めてあった荷馬車に乗せられた。


これで、ひもじい生活から逃れられると思うと、やはり嬉しい。


この日謎男に着いてきた子供は僕たち含め5人だった。


荷台に上がると、そこには僕たちを歓迎するかのように大量のパンが入った木箱が置いてあった。


リクトがいち早くそれに気づき、謎男の許可も取らず、パンの包装をむいて、口に放り込んだ。


今度ばかりは僕もパンに飛びつく気にならなかった。


なぜなら大量にありすぎて、絶対に自分の分もあると確信できたからだ。


謎男はニッと笑って「好きに食っていい」といい荷馬車の扉を閉めた。


そして、荷馬車が動き出した。


よくよく見ると荷台の中は全方位覆われていて、外がよく見えない。


ただ、荷台も相当古いらしく、所々壁の木に隙間があり、そこから光が入ってくるので中は薄暗いながらも見えない事はない。


夕方ということもあって、みんなの顔は隙間から入ってくる光でみかん色になっていた。


みんな夢中でパンを頬張っている。


家の事を気にしている子はいない。


ほとんどの子は家族がおらず、僕とリクトは珍しいほうだ。


それでも、お母ちゃんは死んじゃって、お父さんしかいないけどネ。


正直、家ではいつ殴られるか分からないから落ち着かない。


ただ、甘梅雨を凌ぐためにあそこにいただけで、出来ることならさっさと出て行きたかった。


そう思いながらも、どこに行ってもお父さんが追いかけてくるのではないかと、怖くて踏ん切りがつかなかった。


でも今回の家出は安全なはずだ!


だって謎男はいい奴だもん。


あんなにパンをくれる人なんてこの世に2人といないよ!


彼はさっきから僕たちの事を気にかけてくれている。


手綱を握ったまま頻繁にこちらに振り返り、話しかけてくれている。


僕の舌がうまく回っていない話声にも根気よく耳を傾けてくれていた。


「おめえも大変だったなあ」


この台詞は一番こたえた。上っ面でもそんな事言ってくれた人はいなかったからだ。


その言葉だけで胸がいっぱいになった。


気づくと、日は落ちていて、薄暗くなってきた。


僕はお腹がいっぱいになり、殴られないという安心感もあり、眠りに落ちた。


◆◆◆


おしっこがしたくなって目が覚めた。


まだ暗い。夜が開けていないみたいだ。


荷台の外に出てその辺ですればいいや。


荷台の扉に手をかける。


開かない。どうやら外から鍵をかけているようだ。


そういや謎男、鍵かけてたな。


謎男に言ってちょっとだけ外に出してもらおう。


「…?」


荷台の中をチラッと見ると、僕と一緒に謎男に着いてきた子供が一人減っているような気がした。


いま荷台にいるのは4人。


数え間違えたのかな?


あの時はパンで頭がいっぱいだったからなあ。


いや!そんな事はどうでもいい!まず外に出たい!


荷台から謎男が座っている方の壁を叩く。


謎男が座席から窓を通して、顔を覗かせた。


「どうした?」


「あうあう」


あ…。


トイレに行きたいってどう伝えればいいんだろう?


「お…いうぇ…いいあう」


「悪い。何言ってんのか分からん」


もどかしい…!


「お…いうぇい…いいえあう」


「すまん。やっぱり分からん」


どうしよう。荷台は外側から鍵かけられてるから、勝手に外に出ることもできないし。


ヤバイ。漏れそう。


僕は両手で股を押さえて、もじもじとする格好になった。


「ああ。小便か」


なんか通じた!


そうか人におしっこに行きたいと伝えるときはこのポーズをとればいいんだ。


覚えておこう。


謎男が扉を開けてくれた。


僕はすぐさま飛び出し、その辺の茂みで用を足す。


間に合った…!


僕はホッとしてそのまま荷台に乗った。


謎男が扉を閉めようとしたとき、僕は子供が一人減っているような気がした事を思い出した。


謎男に聞きたい…。


どうしよう。


「ん?どうした?閉めるぞ?」


「あいうぇあ」


「なんて?」


うーん…。


僕は両手を広げてみんなの方に伸ばした。


そして、その後5本指を立てた手を謎男の前に突き出した後、親指を折って4本にした。


伝わるかなあ…?


「わからん。もう寝ろ」


だよなあ…。


僕は自分が寝てた場所にとぼとぼ歩いて行き、再び寝転んだ。


それを見て、謎男は再び扉に鍵をかけた。


なんでも伝わるわけじゃないよなあ…。


僕の動きを見て、謎男の表情が変わったような気がしたから、もしやと思ったんだけどなあ…。


ま…。僕の勘違いだったかもしれないし…。


……。


寝よ。


◆◆◆


「おい、アイツらどこ言ったんだ?」


リクトが言った。


やっぱりおかしい。


絶対おかしい。


朝起きたら、荷馬車に乗っている子供は僕とリクトだけになっていた。


「おい。オッサン。他のやつらはどこに行ったんだ?」


リクトが窓越しに謎男に問う。


「あの街に帰ったよ。気が変わったんだってサ。途中で降りたいって俺に行ってきた」


ばれても構わないというような嘘だった。


「残念だなあ。後ちょっとでうまい飯がたくさんあるところに着くってのに。ここまで俺についてきたお前らは偉いぞ!」


「オイ!オッサン!アイツらが帰れるわけねーだろーが!街まで遠いんだぞ!」


「だよなあ。俺も無理だって言ったんだけどみんな聞かなくってさ」


「嘘ついてねーだろーな!」


「つくわけないだろぉ。なんも心配すんなって」


リクトが何を聞いてもはぐらかされる会話が続いた。


僕は一昨日のリクトの言葉を思い出していた。


僕が謎男についていこうとした時だ。


「やめとけ、嘘だぞありゃあ」


背筋が凍るのが分かった。


騙されるってこういう感じなんだ。


騙されてる事が分からないものなんだ。


僕は俯いたまま、後悔するしかなかった。


これからどうなるか分からないのが怖かった…。


僕もリクトも言葉は交わさなかったけど、逃げなきゃという気持ちは同じだったと思う。


◆◆◆


みんなが消えたのは決まって僕たちが寝ている時だった。


きっとその間に何かあるのだ。


僕たちを寝たままどこかに連れていくのだ。


リクトと僕は寝たふりをして、その時、何が起こっているのか確かめることにした。


寝たふりをしつつ、本当に寝そうになった時、リクトに何度もつねられた。


目をつぶってると眠くなるんだよお…。


そんなやりとりを繰り返していると、ふいに馬車が止まった。


謎男がこちらの様子を見たのを窓から差し込む月の光の影で確認できた。


謎男は僕たちが寝ているのを確認すると馬車から降りた。


夜という事もあって、いくらに馬車の壁に隙間があっても薄暗くてよく見えない。


僕とリクトは壁に耳を当て少しでも外の情報を拾おうと、感覚を集中させた。


誰かと話している声がする。


「へえ。いつもご贔屓にしてくださってありがたいこって」


「まだ残ってるか?」


「もうほとんど売れちまいまして、旦那のお眼鏡にかなうかどうか分かりやせんが」


「前置きはいい。早く見せろ」


「へえ、今寝てるんでさっと決めちまってください」


謎男が荷台の後ろに回る足音がした。


謎男が荷台の扉に手をかける。


開く。


その瞬間、僕とリクトは謎男の顔に飛びついた。


僕が謎男の顔を抱き抱えるように視界を塞ぐ。


「うおっ!?」


謎男は一瞬怯む。


「死ね!」


その隙を逃さず、リクトは謎男の股に頭突きをした。


「がふぅっ!!」


謎男はあまりの激痛に地面に倒れ込む。


「トラム!」


リクトの掛け声に続く。


逃げるしかない。


僕とリクトは茂みに駆け込んだ。


ガサガサと音を立てながら走る。


僕は軽いパニック状態だったので、時々視界が回転してこけそうになる。


その度に体勢を持ち直し、不格好に足をばたつかせる。


文字通り一寸先は闇。


周りが真っ暗で真っ直ぐに走れているかどうかもわからない…!!


頼りはリクトの茂みでをかき分けて走る音だけだった。


音を追いかけるように僕も走った。



「うおっ!?」


リクトの叫び声の後、何かが転がり落ちるような音がした。


リクトの走る音が聞こえなくなった…!


前方の状況を目を凝らして確認する。


足下が茂みで隠れてよく見えなかったが、僕の少し前が、ちょっとした崖になっていてリクトはそこに落っこちたらしい。


「うぃおぅ!」


リクトの名前を呼ぼうとするが、うまく言葉にできない。


でも、リクトなら僕が自分の名前を呼んでいることに気づくはずだ。


もう一度。


「うぃおぅ!!」


…。


返事がない。


なんがあったんだろうか?


真っ暗で崖の下が何も見えない。


どのくらい深いんだろう?


僕も降りてみようか?


どうしよう…!?


ガサっ!


背後から茂みの音が聞こえた。


人の足音だ。僕たちを追いかけてきた人達だろうか?


降りる?


降りない?


どうしよう。どうしよう。


どのくらい深いかわからないし、僕も怪我するかもしれないし。


リクト…!どうすればいいの!?


ガッ!


ふいに右手首を掴まれた。


振り向くと、謎男がそこにいた。


しまった…!


「心配したよトラム。どこいくつもりだったんだよ。いつつ」


股をさすりながら、あくまで優しい人間として僕に接する。


だが、顔は苛立ちを隠し切れていない。


「ありゃ?リクトはどこだ」


「あうい…あ」


「そうか、逃げたか。残念だ。でもトラム、お前はお腹いっぱい食べさせてやるからな」


僕をバカにしてるのか…。


確かにバカだけど、お前が嘘をついているのは分かるんだぞ!


僕は謎男に抱えられ、その場を離れた。


リクトを崖の下に置いたまま…。


◆◆◆


僕は謎男に再び荷馬車に連れてこられた。


荷馬車のそばで1人の人間が立っていた。


謎男が僕の腕を掴んだまま、その男に近づく。


黒いマントを被っていて男か女かわからない。


声からは女の人っぽいけど…。


「2人いなかった?」


「へぇすいません…!逃げられちまいまして…」


「コイツはいくらだ」


いくら?


何を買うんだ?


コイツ?


誰の事?


「6万てどこですかね」


「まだ、小さいし、傷も多い。高くないか?」


「ういあ?」


「あ…!バカ!喋るな!」


謎男が慌てて僕の口を塞ぐ。


「言葉に難があるな」


「へ…へぇ…」


「4万なら買ってやる」


「そ…そりゃちょいと安すぎやしませんか?」


このやりとりで確証得た。


謎男は僕をこの黒マントに売ろうとしている!!


僕が売り物!?


「うぃいいえあああ!!」


「おい!暴れるな!へへ…。どうしちゃったんでしょうねコイツ」


謎男は僕を押さえながら、作り笑いを黒マントに向ける


「言葉に話せないのだろう?なら、やはり4万だ。それでダメなら買わない。」


「へ…へぇわかりやした…。毎度あり…」(下手したら売れないかも知んないし、さばいてしまうか)


黒マントがお金を謎男に渡す。


「へぇ。確かに」


謎男が僕を黒マント方に渡す。


え…?え…!?


どう言うこと?


終わり?


売られたの!?


なんだよコレ!?


「あ゛あ゛あ゛!!」


僕は暴れた。


すごく怖かった。


売られたら何をされるのか…!


「う゛う゛あ゛あ゛!!」


ドムッ!


胃が持ち上がる感触。


僕は黒マントにお腹を殴られていた。そのまま気絶した。


目を覚ました時には、夜が明けていた。


◆◆◆


「おはよう」


目を覚ますと目の前に僕と同じくらいの長い赤髪の女の子の顔。


「起きてますかー」


目が覚めたばかりで寝転んだ体勢の僕の顔を、女の子が前屈みで隣に座り覗き込んでいた。


「げんきですかー」


ぼくに言ってるのだろうか?


「うぃい」


そうだ!黒いマントの人の事!謎男!リクト!


あの夜の事を思い出し、バッと体を起こす。


「はぐぅ!」


「あえ!」


その時、僕の額が女の子の顎に直撃した。


女の子はうずくまり、痛みに悶絶していた。


そして僕も額を押さえてうずくまる。


いたいい…!


「おぇんぅ」


謝罪のつもりだった。


けど多分伝わらない。


「大丈夫だよ」


ん…?伝わったのか?


予想外の反応が来たのがちょっと嬉しかった。


まぁ僕の謝罪が伝わったかどうかはわかんないんだけど。


額をさすりながら、今自分どこにいるのか確認する。


そこは上も下も壁も真っ白な広い部屋だった。


僕はこの部屋の床にただ寝ていたようだ。


部屋の中には僕や女の子以外にも、10人くらいの子供がいる。


見た感じ、年はバラバラのようだ。


僕と同い年くらいかなという子もいれば、明らかに僕より、年齢が上にも下にも違う子達がそこにはいた。


みんな、おもちゃで遊んでいる。


他にも猫やら犬やらこの部屋には沢山いる。


ここは…?


「皆さん、ご飯の時間ですよ」


部屋に1つしかない扉が開く。


黒い服を着た白髪のおじいさんが大きな鍋をワゴンに乗せて、部屋に入ってきた。


子供達はワゴンに近寄る。


ご飯!?


その言葉を聞いたらお腹が急に空いてきた(気がする)


奪られる!


そんな懸念が僕の頭をよぎった。


当然子供達は、ご飯があればそれに飛びつくだろうと思っていた。


が…。


子供達はワゴンを先頭に一列に並んだ。


一番前の人から、お椀に何かをよそってもらっている。


「わーい。今日はスープだぁ」


赤髪の女の子は喜び、勢いよく立ち上がる。


そして、何だかよく分からない、動きをし始めた。


赤髪がゆらゆらと左右にふれる。


何をしているのか?なんの動きだろう?


「これはねぇ。スープのダンスだよ」


なんだ?スープのダンスって…。


…。


……。


!?


えっ…?


僕、喋ってないよね…。


この女の子、僕の思ってる事伝わったんだろうか?


いやでも…。ただ、1人ごとで言ってるだけかもしれないし…。


「行くわよ!」


「あういい…」


僕は女の子に手を引っ張られ立ち上がる。


他の子供達を真似て僕も並ぶ。


ワゴンに近づくに連れ、良い匂いがしてきた。


僕が一番前に来ると、おじいさんが僕に汁を入れた器と先っちょが丸くて凹んでいる棒を一緒に渡してくれた。


スープが湯気を立てている。


人参とジャガイモ、他に名前の知らない緑色の野菜が入っていた。


この棒を僕は生まれて初めて使う。


知らない家族がお店で使っているのを窓越しに見たことがあった。


僕はそのお店に入った事がないし、スープも飲んだ事がなかった。


「おいしい〜」


その家族がやっていたように、僕はスープを口に含む。


まったりとした風味が口から鼻へ広がる。


とても暖かい。


僕は行儀悪くペチャペチャとスープを食べた。


その隣で…。


赤髪の女の子も口周りをスープでべちゃべちゃにして音を立てながら食べていた。


ホントに…食べかすやら、なんやらで…僕たちの顔は残念なことになっていたと思う。


器が空になったらおかわりをする事ができた。


僕たちはお腹いっぱいスープを平らげた。


確かに謎男が言った通り、お腹いっぱいおいしいものを食べる事ができた。


謎男に騙されたと思っていたけど、そんな事なかったのかも。


お腹が満たされていたので、気持ちは楽観的になっていた。


「器とスプーンをこちらへ持ってきてください」


白髪のおじいさんが、そう子供達に呼びかけると食べ終わった子供は器と先の丸い棒をワゴンの方に持っていった。


ほう、この棒はスプーンというのか。


僕もみんなに習って、食器をワゴンに返した。

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