不死、喧嘩する
「あんた、それ私に一言も言ってないわよね?」
「言う必要ありゅ?」
「あるでしょ!今!私は!あなたの主!」
「微塵もそう思ったことねぇな」
一度もそう思ったことは無い。こいつらのせいでこんな奇妙な生活をすることになったんだ、当たり前だろう。
「あの……ミーニャちゃん、あの二人止めないの?」
「いつもの喧嘩……あれでもあなたの前だから抑えてる、と思う」
おおっと殴られかけた。最近は身体能力が上がっているおかげでこいつら吸血鬼の力にも対応することができるようになった。最初の頃なんか結構な頻度でミンチになってたからなぁ……
「それで、この子。どうする気よ」
「うーん……いっその事本家とやらに文句言いに行くか」
子って歳じゃありません、と。横からそんな声が聞こえてくるが無視。
今回起きた件は犯罪だし、そんなことのために彼女の人生を潰されたら敵わない。しかもやったのが安倍家という日本にある華族や武士の中では最上位のお家だ。
「むしろ上手く扱えたら権勢出来そうなんだよな……」
「だからってねぇ、こんなことされたら主人の私が」
「だからなんでお前のことを主だって認めなきゃならないんだ」
未だにそこに対する怒りは収まってません。そう態度に出してみる。それを見て勢いを良くするバカ。
「え、ミーニャちゃん。あの人は君達の従者なんでしょ?あんなこと言わせていいの?」
「いいの、むしろこちらが彼の人生を狂わせちゃったから本当は謝らなきゃいけない」
「何したの?」
「一般人だった彼をこっちの世界に巻き込んじゃったの……」
「そう、なの?」
哀れみの視線を貰うが無視。てかなんでこいつは俺の事を大変なことにしやがったくせにここまで強く俺にあたっていられるんだ?なんか無性に苛立つ。
「……正直お前らと一緒にいる理由はないぞ?」
「は?そしたらどうするのよ、私たちに見捨てられたら──」
「見捨てる?見捨てるだと?いい加減にしろよ?こっちがどんだけ我慢しているか知っての上での発言か?」
こいつらに雇われなくてもいいのだ。別に今までの生活は悪くなかったが、それでもなんでこいつのストレス発散要員みたいに毎日毎日文句を言われなきゃならないんだ。
確かにあの時はこいつらに雇われるしかなかったが、今の状況に至ると他に鞍替えすることも容易い。そして俺を巻き込んだことを使いこいつらを脅すことも出来る。それをさせまいと妹の方は俺に何も言わないで好きなようにさせていた、だがこの馬鹿が今、台無しにした。
「お前、俺にしでかしたこと覚えてるよな?うん?どうだ?そこまで間抜けじゃないよな?」
「な、何よ。もちろん覚えてるわよ」
「その上でこの態度かぁ……」
うん、こいつら救いようのない馬鹿だな。
「もういいわ、お前らどっか行けよ」
「だから何よその主人に対する態度は──!?」
衝動的に蹴ってしまった。だがまぁいい。気にしない。
「御上、しばらく俺はお前と行動する」
「え、なんで?え、え?」
「いいからこい」
こいつは見捨てられないからな、こいつらのことはもう放置だ。
「ちょっ!やめてよ!」
「……」
2人から離れていく。もう二度と戻らないと決意して。
そして誰も居ないような、あいつらが追いかけてこないあたりで止まりため息を着く。
「はぁ……いや、すまん御上。巻き込んじまったな」
「……どういうこと?」
「端的に言うとあれは演技だ」
「え?」
そう演技だ。ということで事情を話すと、あの件については俺はもうどうでもいいと思っていて気にしていない。
そして今の生活は割と楽しいのだ。あのアホ姉を弄るのが楽しいのだ。
「なんでこんなことしたのかってことだが……まぁ、あいつらの親からの指示だわな」
「なんのためにあんなことをしたの?」
「調子乗りすぎ、少し大人しくさせて。だとよ」
「それでも蹴るのはやりすぎなんじゃ……」
「その親から痛みで教えろだってよ。あいつら……いやレナが話をしても聞かないから、強硬手段を取るって言ってきてな」
割と良心に来るな。指示とはいえやりたかなかったが、反省しないアイツが悪い。
「そしてミーニャは姉に従いすぎ。確かに些細なことで喧嘩するが大きい事とかは姉任せ。周りを見る目はあるのに何も言わないからこうなる……はぁ……ま、俺に謝罪してきたら許せって言われてるからな。自主的に来るまで放置だ」
「それでどうして私のとこなの?」
「スマンがしばらく世話になる」
「え?」
「代わりに護衛をやってやるから許して?」
恥ずかしいがあぁやって別れた手前屋敷に戻れないんだ。本来なら野宿とかする気だったんだが、ちょうどいいから彼女を巻き込んでみる。
「部屋空いてるからいいけど……護衛?」
「今後お前狙われるからなぁ。巻き込まれた手前見て見ぬふりは出来ん」
「お人好し?」
「言うな」
ちょっと恥ずかしい。顔を逸らすと笑われた。悲しいなぁ……