不死、潰される
俺、六花大造は生まれた時から身体的な運が悪い。
俺が幼児として過ごしてきた時はさほど大きいことは無かったようだが、常に生傷を作り、両親は俺から目を離すことが出来なかった。
成長し、中学へと行く頃になると次に起こったのは物を無くし、常に持つ物が新しかった事だろう。とてもお金がかかったようで貧乏神と一時期虐められていた。この時だけだろう、身体以外での不運に見舞われたのは。
高校へ行く歳になると、たまに骨折をしたり体調を崩し重要な時には何かしらが起こり遅刻が当たり前になった。まともな友人が居たとはいえず、不良にも定期的に絡まれていた。
大学へ出るとついには死にかける事が多くなった。車に轢かれるのは生温く、時には包丁で見知らぬ女性に刺されたこともあった。そしてその傷が治らぬ内に頭上から降ってきた花瓶で頭蓋骨にヒビを作る。体のどこかには必ず包帯があり、ミイラ男と呼ばれるのが当たり前。そんな毎日だった。
だが俺は決して死ぬ事は無かった。それは何故か。
理由は単純だ。
俺が決して死ぬ事がない、不死だからだ。不死人とも呼ばれる存在なのだ。
そのことに気づいたのはとある会社に採用された日である。
それまで俺は幾つもの会社に就職しようとしても、お祈りメールしか来なく、テンションが下がっていた時に採用されたため興奮していたのだ。
その勢いで祝いとして居酒屋へ入り、酒をたっぷり飲んで帰ったのだ。その道中だった。
何を思ったのか酔っ払った俺は路地裏へと入ってしまったのだ。まぁ特段それだけだったらおかしくは無いのだが、その日だけは何か雰囲気が違った。路地裏の先に何かしら動く存在がいて、酒で気が大きくなった俺はそれにちょっかいをかけようとしたのだ。その時は野良犬かな?と思いなんの警戒もせずに近づいてしまう。
結論を言おう、俺は路地裏の先にいたヤク中の男に滅多刺しにされ一度死んだのだ。そこで俺は驚愕した。
何故か死んでいない。最初は夢かと思ったがスーツにはナイフで滅多刺しにされたあとがあった。つまり夢ではなく事実なのだ。自分は不死なのだと、そして納得した。
「これまで死ななかったのは不死のせいか」
子供の頃から傷の治りが早かったのは気になっていた。そういう体質かな?とも思ったが両親はそんなことも無く、遺伝ではないと思い、突然変異かな?とも思ったが、大学になってから友人の伝手で遺伝子を解析してもらったが至って普通で特に変わりもなかった。
長年の疑問が解決した瞬間なのだ。その時は何故か確信していた、自身が不死なことに。恐らくこの体は気づいていて心だけが知らなかったのだろう。だがまだ頭が否定していたので、ボロボロの服で家に帰り、首に包丁を突き立てた。なんの恐怖もなかった、そう、あっさりと、日常の動作のごとく家にあった包丁を喉に刺したのだ。
引き抜くと落ちた血が逆再生した様に喉へと戻り、数秒すると喉にはなんの痕もなかった。
そして自分自身が怖くなった。何故、こうもあっさりとして居られるのだと。同時に納得していた。元々人じゃないのだから精神構造も違うのだろうと。
なので俺は無視した、不死だということを。それもそうだろう、たかが不死なのだ。それ以外は人間だ。お腹も空くし眠くもなる、それだけが唯一の救いだった。
まぁそんな事を無視していたのが祟ったのだろう。
不死だと気づいてから3ヶ月後。俺は空から降ってきた姉妹に潰されて二度目の死を迎えた。
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「はぁ……覚えることが多すぎる。デスクワークとはこうもめんどくさいのか。ま、俺はまだマシなんだろうなぁ」
先輩が良かっただけに俺はまだ恵まれているのだろう。同時期に入った奴が先輩にパシリされてる所見るとそう思う。
それに上司だ、俺が揃えた資料を見ずに上に提出した癖に責任を俺に押し付けやがって。確かにミスをしたのは俺が悪いが、検問してくれれば問題はなかったのだ。気づけなかった俺も悪いさ……けっ。
「なんか入ったばっかだけど嫌になるな。これならまだ公務員狙った方が良かったな」
あそこは定時に終われるからなー、こんな時間まで仕事やるとは……これはまさかブラック企業と言うやつでは?違うか。
腕時計を見る、9時半。ここから歩きで20分で家だ。そういえば夕飯食べてないな、牛丼食べたいな。す〇家が近くにあったよな。行こうかな。
「あな──」
「お姉──」
上からなにか言い合うような言葉が聞こえる。声的に女同士だろう。これだから女は──
あ?ちょっと待ておかしいぞ。上?ここら辺に高い建物はないはず。どういうことだ?
そして見上げた先には、お互いの頬を抓りながら落ちてくる、2人の少女の姿があった。その姿にはコウモリのような翼が生え、ゴシック様式というのだろうか、世間的にはゴスロリなどと言いそうな服を着た少女達である。
はて、こいつらが落ちてきている方角的に俺に当たるな。あんな速度の女二人が落ちてくる。ほう、そうか……
死んだな。
そう思った瞬間。俺は潰された。
「もう!どうしてくれるのよミーニャ!」
「そう言われても、お姉様が悪いんです!」
「なんですって?私が悪いって!?」
「当たり前です!お姉様が私の大事な、大事なお人形を壊すから!」
「それは謝ったじゃない!それに新しいのも買ってあげたし!」
「そういうことじゃないんです!もうこれだからお姉様は馬鹿なんです!」
「誰が馬鹿ですって!?」
うるせぇ、こいてらの会話を地面の染み状態で聞いた感想はそれだった。
人の事殺しといてまた喧嘩をする。てかこいつら何者だ?お姉様、ということは姉妹なのだろうか。昨今あんなコスプレするのは可笑しくないが、それで空を飛んでいたのは驚きだ。
まぁ俺みたいな不死がいるんだ。空を飛べるやつがいてもおかしくないな。
「てめぇらぁ……いい度胸じゃねぇか」
「「!?」」
それよりもさっさとこいつらをどうにかしよう。潰れて血まみれのスーツはこの際どうだっていい。予備は家に大量にある。
「え、なんであなた生きてるの!?」
「お姉様、この人どこかおかしいです」
「何ごちゃごちゃ喋ってんだ。いいからお前ら」
「な、何よ?」
「謝罪しろ!」
「……は?」「……え?」
なんだその呆けた顔は。被害を蒙ったのはこっちなんだよ。謝罪しろよ。
「いいから謝罪……話はそれからだ。な? な ? 」
「ひっ、ごめんなさい!」
「ごめんなしゃ、さい!」
「よろしい。俺は帰る」
はー、これだから最近の奴らは。着替えてから牛丼食いに行こ。
「……え、どういうこと?」
「わ、分かりません……」