【ショートストーリー】バレンタイン
2020年2月のSSです。
今日はバレンタイン。
きっと杏里は俺にチョコをくれるはず。
一体どのタイミングでくれるのか。
放課後に呼ばれる? 机に入っている?
それとも、みんなの前で本命チョコをくれるのか!
期待に胸ふくらませ、当日目を覚ましたが既に杏里はいなかった。
台所もいつも通り。
もしかして、何もしていかなかった?
昨日も今日も台所を使った形跡はない。
きっと色々と忙しいし、手作りじゃなくて市販品なのかな?
でも、俺はもらえるはず!
――
学校でも普通。
昼休みもノーアクション。
放課後まで何もない。
あれ? もしかして今日は何でもない日なのか?
「天童! もらったか?」
「ナニヲ?」
「何だよ、今日はバレンタインだろ? 俺は彩音からもらえてない! なんでだぁー! おかしいだろ?」
どうやら高山ももらっていないようだ。
「そうなんだよ。おかしいと思ったんだ、僕も」
「どうした遠藤?」
「いつも紙袋三つ分はもらえていたのに、今年は一袋しか……」
おぅ。もらえている量がおかしいな。
「遠藤、全部食べるのか?」
高山も突っ込む。
「流石にこの量はね……」
「くれ。チョコくれよー! 俺が代わりにもらってやる!」
いやいや、高山。
それはお前のじゃないだろ?
「いいよ、全部食べてくれ」
「いいのか? ひゃっほー! ……ん? 要らないのか?」
「欲しい人からもらえなかった。ただそれだけだ……」
ほぅほぅ。
「井上さんか?」
遠藤の目が左右に泳いだ。
「ノーコメント」
「ま、それでもいい。しかし、揃いもそろって誰ももらっていない?」
「匂うな。これは何かあるぜ!」
迷探偵高山の出番だ。
「放課後の時間になったら杏里も杉本さんもいなくなった」
「井上さんとも連絡が取れない」
「と言う事は、三人は一緒に行動しているとみていいだろう」
スマホが震えだす。
『六時に高山さんと遠藤さんと一緒に帰ってきてください。それまでは自宅に立ち入り禁止』
なるほど。そういう事ですね。
「よし、男三人でゲーセンに行くか。その後、家に集合。拒否権はない」
二人共多少の文句は言ったが、最終的には俺がバーガーを奢る事で納得。
何で俺が……。
予定の時間となり、男三人俺の家に帰る。
「ただいま」
家の中が甘い匂いに。
これは、チョコの匂いだな。
「天童! まさか!」
「天童君、これは……」
「「「おかえり!」」」
制服にエプロン姿の女子三人。
エプロンには茶色い何かが所々についている。
「司君、こっち!」
俺の手を引く杏里。
「高山君……」
「彩音……」
杉本は恥ずかしそうに、高山の手を握る。
「遠藤君、チョコ欲しい?」
「もちろん」
井上も遠藤の手を握って俺達三人は台所に通された。
そこには箱三個。
「「「せーのっ。 ハッピーバレンタイン♪」」」
女子三人は俺達にそれぞれ箱をくれた。
きっと中身はチョコだろう。
男三人、うっすらと涙を浮かべ箱を開ける。
俺の箱にはハート形の大きなチョコ。
真ん中にピンク色のチョコで文字が書かれている。
高山も遠藤も同じような形のチョコで、文字の色が違う位だ。
「ありがとう! やったー! 彩音からチョコもらった!」
と、すぐに食べ始める高山。
「うっ……。か、固い!」
どうやら固かったらしい。
「僕は自宅に帰ってから、ゆっくり食べるよ」
「あとで感想聞かせてね」
井上も満足そうだ。
そんなちょっとしたイベントがあり、俺と杏里以外は帰って行った。
ソファーに座り、箱を眺める。
ちょうど杏里が紅茶を入れてくれた。
「食べてもいいか?」
「もちろん」
大きなハートの角を少しだけ折り、口の中に放り込む。
甘い、そしてうまい。
「どう、かな? 初めて作ってみたんだけど」
「おいしいよ。杏里の想いがつまっているからな」
微笑む杏里。その表情を見る俺は心もほっこりとする。
「えっとね、もう一つあるんだ」
ソファーに座っている俺の上にまたがるように座る杏里。
向き合い、俺の顔を見つめてくる。
杏里の口には長いチョコの付いた棒が一本。
「んっ」
反対側を俺に食べろと?
良いだろう、その勝負受けてやる!
――ポリポリポリポリ
段々近づく杏里と俺の唇。
ちょ、そろそろくっ付きますよ?
と、思った瞬間に杏里がブーストした。
ぴったりとくっついた俺と杏里の唇。
「んっ……」
頭の中が白くなる。
しばらくそのままで、無音の時が流れ、数秒後に離れる杏里。
その表情はなぜか、うっとりしてるし、顔も赤い。
「だ、大胆にきますね」
ちょっと驚いた。
「きょ、今日は特別な日だから……。もう一本食べる?」
袋から出てきた同じチョコ。
返事は一つしかないだろう。
「いただきます」
こうして杏里と過ごすバレンタインの甘い時間は過ぎていく。
ホワイトデーは、何をお返ししよかな……。