乙女の勘
「シルビア、有難う!」
フェルが抱きつこうとしてくる。
そっとカゲで防ぐ。
「どうしました、フェル殿?」
カゲが尋ねる。
「カゲ、邪魔・・・」
フェルが不機嫌そうに言う。
そう言われてもなあ。
「それより、シルビア、やってくれたわね」
ん?
「俺は何もしてないと思うが・・・」
何の事だろう?
ムーンフォレストエリアの開放は、フェルに関係無さそうだし。
「またまた、分かってるのよ」
フェルがくすくす笑う。
困惑してそっとカゲを見るが、カゲも分からな・・・え、目を逸らした?
「シルビア──蒼天の槍を潰してくれたのよね!」
何故?!
「・・・いや、そんな事実は無い・・・」
「そんな訳ないじゃない。だって──」
いや、関わり無いし、そんな訳無い・・・無いよな?
何か証拠でも出すのだろうか?
「だって、乙女の勘がそう告げているのだもの」
「ねえよ」
リミアが、困った顔で告げる。
「シルビアさん・・・」
「どうした、リミア?」
何か困った事が起きたのだろうか?
「シルビアさん・・・蒼天の槍を潰した事は賛否有りますが・・・程々にして下さいね」
「潰してないぞ?!」
フェルに乗ってきた?!
「嘘ですね」
「嘘じゃないって!」
看破のフリして冗談言うのやめて欲しい。
「実は、私の所に女性が来まして・・・」
リミアが語り始める。
ん?
「至高の六王に関して聞かれました」
ああ、そいつか。
やはりミストやアイリスの所に来た女性と同じ人物だろうか。
「私の所にも来たわね」
フェルが言う。
「ほう。ミストやアイリスも同じ事を言っていたな」
リミアが続ける。
「私も、迷い子を導くのが務め。詳しく話を聞いてみました」
突っ込んで聞いてみたのか。
「因みに、美しい緑色の髪の女性でした」
「え」
え?
「命が危ない所を、底が知れない強さの男性に助けて貰ったそうです」
・・・
いや、あの時の女性なら、助けたのはカゲ・・・だよな?
「その男性が去り際に、至高の六王所属だと言い残したそうです」
「・・・そ、そうか」
冷や汗が流れるのを感じる。
いや、女性の正体が分かっただけ・・・それだけだ・・・
「その女性は、蒼白く光る槍を持っていました」
やっぱりあの時の女性かあ。
「蒼天の槍のギルドマスター、ヒイロの特徴とも言える神器・・・蒼天龍牙ですね」
「ちょ」
思わず呻く。
リミアが続ける。
「ユニコニアの北の大森林で、シルビアさんがヒイロを助けた。その際、シルビアさんは至高の六王所属と言い残し、気配を断って消えた・・・シルビアさんの事を忘れられなかったヒイロは、終にギルドマスターの地位を返上。シルビアさんを探す旅に出る。ギルドマスターを失って求心力を失った蒼天の槍は、幹部連中が利権を求め空中分解。メンバーは、丁度台頭しつつあった至高の六王の元メンバーのギルドに各々散っていき・・・今に至る、と」
「・・・その・・・何だ・・・不幸な事故だったね」
あの女性がヒイロだったのか。
仮面で正体を隠していたそうだが、実は女性。
「つまり、シルビアさんのナンパが、蒼天の槍を崩壊させたと」
リミアが沈痛な表情で言う。
「それはおかしい」
突っ込む。
ナンパじゃない。
「・・・やっぱり、シルビアは私の為に蒼天の槍を潰してくれたのね!」
フェルが歓喜の声を上げる。
「違う?!」
狙ってやったんじゃないからな?!
「私が積極的に営業活動をした結果、うちのギルドは現在、構成メンバー数が2位!押しも押されぬ巨大ギルドになったわ!職業のバランスも大分よくなったし!」
フェルが胸を張って言う。
「リリックさんが可愛そうですね!」
思わず突っ込む。
魔導ギルドが、魔導士以外を大量に集めるなよ。
バランスが良くなるって何でだよ。
「シルビア・・・」
フェルが俺をじっと見て・・・
「次は碧山の盾を御願い」
「しないよ?!」
そもそも、狙って解散させられるものじゃない。
・・・イデアならできるんだろうけど。