飛ぶ鳥が落ちる勢い
「蒼天の槍め・・・!」
珍しく、アイリスが声を荒げる。
かなり焦燥した様子だ。
横のミストも、何時もの陽気は隠れ、疲労を顔に張り付かせている。
「どうぞ」
カゲが出したお茶と、お茶菓子を食べ、2人が一息つくのを待つ。
蒼天の槍・・・フェルも困っていたが、みんな迷惑している様だ。
まあ、俺も被害にあったと言えばあったんだけどね。
「お疲れだな」
「うん・・・最近は休まる暇が無くて・・・」
ミストが疲れた様子で言う。
引き抜きとか勧誘?
「今日も、午後から防衛・・・何でこんな事に・・・」
アイリスが言う。
勧誘とかじゃなく、蒼天の槍に良い様に使われてる感じ?
「ヒイロめ・・・」
ミストが恨みがましい声で言う。
大体状況は読めた。
勢力が強くなった蒼天の槍が、調子に乗って、他のギルドを酷使しているのだ。
従う必要は無いと思うけど・・・そのあたり、色々有るのだろう。
「何が、自分を待っている白馬の王子様がいるだよ。自分のギルド放り出して雲隠れなんて。ギルドが空中分解して、行き場無くした人が流れ込んで、うちは大混乱だよ!」
超展開?!
ミストが呻く。
乙女かっ。
そもそも、男なのに王子様って。
いや、人の趣味嗜好にどうこう言う気はないけど。
「うちもだよ。やる気に満ちた実力有るギルドメンバーが一気に数十倍増えて・・・喜ばしい事だけど、限度がある」
アイリスが突っ伏して言う。
うわ・・・
とは言え、俺も自分のギルド放り出した身なので、ヒイロとやらには少し同情する。
みんながヒイロに頼り過ぎたのだろう。
他人の手柄を奪い続けた、良心の苛責も手伝ったのかも知れない。
なむなむ。
「そう言えば・・・」
アイリスが、ふと思い出したかの様に言う。
「僕の所に、変な女性が来たよ」
「変な女性?」
アイリスは、こくり、と頷く。
「至高の六王の事を嗅ぎ回っているみたいだった。僕が元至高の六王って言うのは有名だからね。探りを入れに来たみたい」
「気になる人は気になるんだろうね」
俺は苦笑しながら答えた。
実態は、ただの仲良しまったりギルドだったんだけどな。
所属メンバーの実力、エリア開放数、名前・・・謎のギルド感が強い。
「情報提供する義理も無いしね。もう半年以上前に解散したって言ったら、嘘だってくって掛かられたよ」
アイリスも苦笑する。
「私の所にも来るよ、至高の六王の事を聞く人・・・そう言えば、うちにも、解散したって信じない女性来たよ」
ミストが言う。
同じ人かなあ?
ミストがはっと気付いた様な表情を見せ、
「実はこっそり再結成してたり?!」
「無い無い・・・俺以外がこっそり創ってたら知らんが」
「ギルド名、至高の六王のギルドは存在しません。混乱を避ける為、同じ名前での登録は出来ません。例え解散済でも」
月花が否定する。
にしても、
「結局、ミストとアイリスのギルドが、防衛の中心になっているのか?」
「うん・・・うちは賞金稼ぎのつもりだったんだけどね。何時の間にか、遊撃隊のコアギルドに」
ミストが困った様に言う。
「僕は、元々治安維持の騎士団だったからね。拠点防衛のコアギルドになったけど、平時の警備の人員も増えて、悪くは無いかな」
アイリスが、やや回復した様子で言う。
「他に、フェル殿のギルド、リミア殿のギルド、フィロ殿のギルド、うちのギルドが規模が大きいでござる。最大規模のギルドは、碧山の盾でござるな」
カゲが補足。
なるほど。
「今まで後退を続けていた人間領が、踏み止まる様になってきました。プレイヤーの皆さんの貢献が大きいようでござる」
カゲが言う。
「そっか、良い傾向だな」
さぼってる負い目はあるものの、嬉しくはある。
エリアの開放や、強力な武具の供給、狩場情報の提供はしているけど。
しばし歓談し、2人と別れた。