あちらのメイド様からです
「・・・と、ともかくだな。前ゲーム、LJOで最後にクリアしたのが、六英雄で・・・今、世界を導いている五英雄は、そのうちの5人だ」
「五英雄・・・アーサー、ポラリス、アリス、ムサシ・・・そして、ソフィアですね」
ユウタがまだふらふらしながら、呟く。
「それに、カゲを加えた六英雄、そして、宝王シルビア・・・前作における、たった7人の生き残りだな」
サクラが言う。
「六英雄は知っているけど、宝王シルビアさんは初めて聞いた!」
「まあ、そのシルビア、というのが、LJOでの俺の名だ」
「「「「??!」」」」
レイ、ユウタ、エレノア、カゲが声にならない声を上げる。
カゲ、何時の間に。
あと、ちゃっかり驚く側に混ざるな。
「・・・マスター、前作経験者だったんですね・・・」
ユウタが、驚いた様に言う。
「まあな。システムとして変わった部分も多いが、色々教えられる事は多いと思う」
「宝王って、何ですか?」
エレノアが尋ねる。
「俺の職業名だな。レンジャー系列、4次職だ」
アークトレジャー、という呼び方は、いつの間にか誰かが言ってただけだが。
多分、普通に、『ほうおう』で良い。
「ますたー、本当は4次職で、表示されているレベルは偽装って言ってたよね!本当のレベルは幾つくらいなの?」
「そこまで高くないぞ。1,288,466だ」
「「「「「????!!??!?!!」」」」」
トキ、サクラ、レイ、ユウタ、エレノアが、声にならない声を上げる。
え、なんで、トキとサクラまで驚いているんだ?
「お・・・お・・・おかしいにゃあああああああああ???!」
「落ち着け、何もおかしな所などない」
「・・・マスター、マスターが前作経験者、六王の7人目、人類の救世主、前作最高レベル到達者、宝王、六王の上に立つ存在、神々を従えし存在、至高の六王のギルドマスター・・・それは知っていたが」
「待て、色々おかしい所がある」
「だからってそのレベルはおかしいぞ?!」
サクラが叫ぶ。
「・・・いや、レベルはおかしくないだろ・・・?」
サクラ、色々知ってるなあ・・・至高の六王とか、ほぼ誰も知らない筈なんだが。
むしろ、トキのレベルの低さが気になるんだが・・・姉と妹を比べるのは良くないか。
「・・・なんか、ますたー、すごい・・・!」
ぎゅううう
レイが結構強い力で抱きついてきた。
「人類の救世主・・・マスターも、魔王討伐に関わっていたんですね。前作の生存者なら、当然ですか」
ユウタが敬意を込めた目で見る。
眩しい。
「伝説の人物を間近に見て・・・感動です」
エレノアが言う。
いや、普通にしてくれ。
「このお酒、おかわりは可能でござるか?」
カゲが月花に尋ねている。
「・・・あれ、見慣れない方がいるような・・・?」
サクラが半眼で呻く。
気付くのが遅いぞ。
「カゲさん?!」
トキが叫ぶ。
「あ、お構いなく」
カゲが手で制す。
「カゲ・・・カゲ・・・六英雄?!」
ユウタが叫ぶ。
「はい、六英雄のカゲでござる」
「凄い・・・」
エレノアがうっとりとして言う。
「拙者より、そこにおられる、トキ殿の方が凄いでござる。六英雄の7人目・・・そして・・・六王、魔導王フェルの妹・・・前作で、LJOに参加していないにも関わらず、フェルから聞いた話だけで魔導大系を確立し・・・他にも、他種の制度は、トキが考案したものが多い・・・LJOにログインしていなかったけれど、十二分に英雄でござるよ」
「・・・まさか、魔導王フェルの妹、解子が、トキだったとは・・・」
サクラが呻く。
「え、まって、何で今本名ばらされたにゃ?!」
ゲームに参加していなかったせいで、本名の方が有名になってしまっている。
憐れな。
まあ、フェルが妹の本名をべらべら喋ってたせいもあるだろうけど。
「解子さん、すごーい」
レイが微笑む。
「にゃあああ?!キャラクターネームで呼ぶにゃああああああ?!」
「・・・まあ、俺が言いたかったのは、俺が前作のシルビアである事、六英雄とも一応つながりが有る事、くらいかな。トキも、前作から関わっているので、色々詳しいと思う。何か分からない事があれば、聞いてくれれば良い。効率の良い狩り場とか、戦闘の方法とか・・・」
「有り難うございます。助かりますぅ」
エレノアが嬉しそうに言う。
「あの・・・聞いても良いでしょうか・・・?マスターって・・・ひょっとして、女神様に拝謁した事が有るのでしょうか?」
「有るよ」
ユウタの問いに、答える。
・・・いや、今此処に居る全員が拝謁中・・・
「・・・凄いです!」
ユウタが祈る様な仕草をする。
「凄い凄い凄ーい!女神様、私も会いたい会いたい会いたい!会って、踊りを見て貰うんだ!」
「そっか。俺も見たいから、そこの岩の上ででも踊ってくれるか?」
「うん、良いよ!」
わーぱちぱち。
シン・・・
不意に、空気が凍る。
いや・・・なんだろう。
空気が止まって・・・何かを・・・待っている・・・?
あれは・・・レイか?
今まで楽しそうにしていたレイが・・・まるで別の存在の様に見える。
ゆっくりとした動作で、岩の上にのぼると、
この世、造り給うたもの
その御業、感謝の術無く
この身は御身のもの
されば踊らん
それは、神への賛歌。
それは、神への感謝。
神に捧げる踊り。
心に、魂に染みこんでくるその唄と、
生きる喜びそのものの様な舞い・・・
永遠とも思えるその時間は、刹那の間に終わり。
「・・・ふう・・・どうだった?」
「・・・凄いな。感動したよ」
満面の笑みで尋ねるレイに、素直に感想を返す。
空気が動き出した気がする。
まるで、世界そのものが、足を止め、レイの踊りを見ていた。
そんな気がした。
す
月花が、レイに布・・・羽衣?を差し出す。
「ん、何、これ?」
「あちらのメイド様からです」
「・・・えと・・・おひねり・・・的な・・・?さっき凄く美味しいジュース貰ったよ・・・?」
レイがメイド様を戸惑い、見ると、メイド様が微笑む。
うわ、メイド様の笑顔、滅茶苦茶貴重な気がする。
「・・・まあ、大した話はできなかったが、今日はこんな所か」
「・・・今日は生涯忘れられない1日になりましたよ」
ユウタが引きつった笑みを浮かべる。
確かに、レイの踊りは凄かった。
「みなさん、凄いですねぇ」
「まあ、過去は過去、今はただのギルドマスターだ。あまり気にせず付き合って欲しい」
エレノアに、素直な気持ちを言う。
「ますたああああ!好き!」
「おう、俺もレイの事は好きだぞ」
レイの頭を撫でる。
「改めて実感したけど・・・マスター、やっぱり凄いんだな。うまく言えねえけど・・・私がマスターを好きなのは、マスターが凄いからじゃねえ。そこだけは言っておく」
「お・・・おう」
サクラの微笑に、微笑を返す。
「あー、やっぱり、サクラと反応が違う!」
「まあ、大人の関係って奴だ」
サクラが、レイの頭をてしてしと撫でる。
「ご主人様・・・」
月花が、そっと耳打ちする。
「どうした?」
俺も、小声で尋ねる。
「後で、メイド様が話が有るそうです。カゲさんも一緒で構いません」
「承知したでござる」
さて。
・・・そもそも、女神様にはばれてなかったんじゃなかったのだろうか。
何で普通に此処にいたのか。