六王であること
「シルビアなら、独自の調査網や、シルビア自身の高い調査能力も有るだろ?それを駆使してフェルを見つけて欲しい」
・・・?
「何故俺がフェルを探すんだ?」
「シルビア?!」
アイリスが驚きの声を上げる。
「・・・シルビア・・・君は・・・フェルを助けないと言うのかい?」
ミストが震える声で問う。
・・・?
「助ける?何からだ?」
「フェルを、魔王軍からだよ!」
ミストが叫ぶ。
「シルビアさん・・・私からも御願いします。フェルを・・・助けて下さい。あんな勝手な人でも・・・私の、私達の親友なんです。仲間なんです」
リミアが懇願する。
いや・・・しかしだな。
「シルビア。御願いだよ」
フィロも、真面目な口調で言う。
「・・・いや・・・あのな。何故フェルの心配なんてするんだ?フェルに狙われた相手の心配をするのなら分かるが・・・フェルの心配をするなんてナンセンスだろ?」
お前等、フェルを何だと思ってるんだ?
「シルビア!君はまたそうやって!良いかい、もう六王は昔の様に最強じゃないんだ。レベル上げもしていなければ、狩りもしていない。六王は・・・もう過去の称号なんだよ。確かに、シルビア、君は最強のままだ。でも、みんなは違う・・・フェルは・・・六王は・・・弱い・・・」
ボタンの掛け違い、か。
歯車がずれたというか・・・
「なあ、みんな。何故至高の六王が最強だったと思う?」
「それは・・・みんながいたから、です。最強の人達が集まった、最強のギルド・・・最強のPT、それが至高の六王の強さです」
リミアが言う。
みな、特に異存は無いようだ。
そっか、そうなるのか・・・
「違うよ」
俺は悲しくなって、告げる。
「至高の六王の強さは、集団としての強さじゃない。至高の六王は・・・まったりギルドだ。最強を目指すギルドではない。たまたま、集まっていたメンバーが・・・個人としてそれぞれ最強だった、それだけだ」
そう、それは原点。
そして。
「何故最強だったか・・・それは、みんなゲームを楽しんでいたからだ。そして、みんなゲームが上手かったからだ。強くあった、だから強かったんだ」
ミストはその言葉を咀嚼するように頷くと・・・
「でも・・・もう違う。私達はもう・・・強くない」
それが2つ目の間違い。
「なあみんな・・・確かに、ミストはその強さを・・・放棄したようだ・・・でもさ」
そう。
「何故、他もそうだと、決めつける?フェルは・・・変わらず、この世界を楽しんでいるよ?」
だから。
「フェルの心配をするなんて・・・ナンセンスだ。あいつは、笑って戻ってくるよ。何一つ心配する事なんて──」
ゴウン
凄まじい音が響く。
吹き上がる光の柱。
吹き飛ぶ大樹。
そして・・・巨大なクレーター。
訂正。
そうだよ。
フェルの心配は要らないけど、敵・・・もこの際心配する義理は無いけど・・・
固有フィールドじゃないんだぞ。
禁忌クラスの魔法を行使したら、跡地がどうなるか・・・
クレーターには、漆黒のもやが渦巻き・・・
恐らく、中和しなければ数百年は草木も生えないだろう。
後で月花達に処置してもらおう。
「おい、フェル」
クレーターの中央に悠然と飛ぶ人物に、声を掛ける。
「あら、シルビア。おひさー!」
笑顔でフェルが応える。
「やり過ぎだ。地形が変わってるってレベルじゃないぞ?」
「・・・森にちまちま隠れる奴等が悪いのよ。他の四王とかを誤魔化せる時間にも限界があるのに・・・」
「いや、速攻でばれて、お前の捜索を依頼しに俺の所に来たぞ?」
「・・・リリック・・・後で毟る・・・」
フェルが呪詛を吐き出す。
何を毟る気だろう。
ようやく、他の人達が追いつく。
フェルは四王に笑顔を向けると、
「残念だったわね。見ての通り、あいつは私が倒したわ・・・死体は確認できないけどね」
「残念とか・・・そういう話じゃないだろ。何をやってるんだ?!君は自分の立場を分かっているのか?!」
ミストが叫ぶ。
フェルはきょとんとすると、
「魔導王にして、魔導士ギルドのギルドマスターよ!」
「そこまで分かっているなら・・・軽率な行動を控えるべきだろう。君に何かあったらどうするんだ?!君がどれだけ貴重な存在か・・・!」
アイリスが叫ぶ。
フェルは溜息をつくと、
「貴方、何を言ってるの?私は魔導王、六王よ?みんなの憧れ、そして、みんなが私についてくるの。身の安全とか考えていたら、何も始まらないでしょ?」
そう。
「なあ、ミスト。みんな六王の話を聞かない・・・統率がとれない・・・って言ってたよな。それってさ、今フェルが言った事に原因があるんじゃないのか?」
みんな、六王が偉いから従っていたんじゃ無い。
六王の行動に惚れ込んで従っていたんだ。