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ウォータードメインプラネット〜あるいは彼はどうやって運命を切り開いてゆくのか〜  作者: 三州 誠一郎
第一部 遠い夏の日 第一章 降り立つ火
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第八話 拡大する炎〜生と死の境目は〜

 光が徐々(じょじょ)に収まってゆく。塔が発光を始めて、ゆうに二分が経過していた。


 今回の戦いでは大した意味を持たないが、マシーンの出現しゅつげん兆候ちょうこうから戦闘開始までに猶予ゆうよがあるという事実は、まことにとって僥倖ぎょうこうだ。対策を立てる時間があれば、優位に立てる。マシーンは空より降りてくる他無いのだ。


戦闘開始エンゲージまで、残り十五秒。識別のため右側の機体をマシーンアルファ(α)、左側の機体をマシーンベータ(β)とします」


 マシーンの姿に識別表示カーソルが重なり、緊張が高まる。塔から二百メートル強の北側にポジションを移す。マシーンを護る光が消え、兵士ソルジャータイプ二機が大地に降り立つ。打撃有効と判断し、ウィクスハイトは一気にスマートガンの弾丸を放出した!


 こちらから見て左側のベータに集中的に放った銃弾は、敵二機が同時に発射した銃弾と交錯こうさくする。ウィクスハイトは急速離脱きゅうそくりだつ。こちらの銃撃はベータの装甲をけずった。激しい打撃音が響く。ウィクスハイトにダメージは無い。爆炎の中に見えるベータは射撃を続けるが、こちらの速度に対応しきれていない。


「二度目なんだ、簡単にやらせるかよ」


 再加速アフターバーナーを使いながらすきを見ては残弾を放ち、右腕をかばって移動する。出来るだけ左側に敵をとらえるよう疾駆しっくし、二機のマシーン同士の射線を重ねさせる機動で攻撃をける。


「同士討ちするほど馬鹿な奴らじゃない、かっ」


 敵弾がウィクスハイトの背後で火花を散らした。狙いは正確だが、真はその軌道きどうを読み、冷静にかわす。

 ガツン、という低い音が鳴った。残弾が尽きたようだ。弾倉マガジンがスマートガンから排出はいしゅつされる。結局、ウィクスハイトの攻撃も初撃しか命中させられなかった。だが、こちらへの命中弾は無い。初戦よりは有効な戦術を取っているはずだ。


「アシュレイ、フィールドバリアは離れた場所にも張れるんだな!?」


「はい、マシーン周辺に集中すれば動きを止めることも可能です。動力残量(プール)から考えて、五回の使用が限度です」


「十分だっ」


 たけり、機体を更に加速させ、アルファに詰め寄る。アルファの機体がベータの射撃を邪魔する。アルファが距離を取ろうとバーニアを噴射するが、真はその背後に光の壁を張った。ウィクスハイトのバリアフィールドを応用した攻撃だ。バリアにぶつかったアルファは、回避速度分かいひそくどぶんの加重を無防備な背に受け、背部バーニアと装甲にダメージをい体勢を崩す。


「一度目! これならいけるが!」


 咄嗟とっさにスマートガンをアルファへ投げつけ、グラディウスへと装備をえる。真はコントロールレバーを全力でにぎり、突撃する意志を固めた。


「右方より銃撃、注意してください」


「くッ!!」


 フィールド攻撃をしてないベータからの攻撃、今や弱点となっているウィクスハイトの右半身に火線かせんが走る。金属同士がぶつかり合う音がコクピットに殺到さっとうする。


 また右腕だ。コントロールの効かない右腕は機体に引っ張られるだけだったので、良い的になっている。多数の銃弾がウィクスハイトの右肩を穿うがつ。

 しかし攻撃をものともせず、真はフィールドで動きを封じたアルファへ攻撃を集中する。ウィクスハイトに向いたスマートガンが火をいた瞬間、二度目のフィールド攻撃。アルファの目の前にバリアをはり、跳弾ちょうだんを発生させる。全身に損傷そんしょうを受けたアルファは身動きを取れなくなった。


らえ!」


 グラディウスを横薙よこなぎにアルファの右腕部を切断する。そして剣を上段まで振り上げたのち右膝みぎひざを切断。右半身を失いバランスをくずしたアルファは、大地に背中を預けた。


「アルファ脅威度きょういど七十%減少。ベータからの攻撃が来ます!」


「バリアァーーー!」


 鼓膜こまくが破れる程の轟音ごうおん炸裂さくれつする。激しい銃撃に真の脳は爆発的に興奮した。


「うわああああああ」


 冷静になるひまなど無い。ウィクスハイトはバリアで受けた衝撃も利用し、敵との距離を取るため急いで山影に後退こうたいした。


「大丈夫です、今の攻撃は無効化されました。しかし、このままでは運動性の問題から不利な戦闘をいられます。真、右腕を捨てましょう」


 無事を確認した真は、ウィクスハイトの右腕をる。装甲は削り落とされ、筋肉をしたケーブルだけが、かろうじてつながっているような状態だ。戦闘前に提案された右腕の排除はいじょ即断そくだんしていれば、少しでも脅威を減らせたかもしれない。判断が遅れてしまったが、アシュレイの助言に後事こうじゆだねることにした。


「仕方ない。右腕を強制排除パージしてくれ」


「了解、パージします」


 右の肩関節よりすべてが、ばつん、と気味の悪い音を立て機体から離れていく。関節部から光と、血の様な真っ赤な液体が噴出ふんしゅつする。


「ぐうあッ」


 強烈な痛みが真の身体に走る。これが腕を切断する痛みなのか!? 初めて経験する衝撃的な痛みに真の顔がゆがむ。


損傷そんしょう箇所かしょ、シャットアウト」


 とアシュレイ。その間二~三秒。光と液体は止まり、痛みはすうっと消えていった。


「はぁはぁ、マシーンは?」


「少しずつ距離をめて来ています。ウィクスハイトのバリアを警戒けいかいしている様子。ですが動力プール八%。バリア使用可能回数は残り一回を想定するべきです。先ほどの防御でかなりのパワーを損失そんしつしました」


「わかった」


 残るは開戦時にダメージを与えたベータだ。そのせいか若干じゃっかんぎこちない動きでこちらへとせまっている。だが、ウィクスハイトも右腕を排除し、バランスを失っている。状況は五分五分といったところか。重心が左へと傾いたウィクスハイトでは、本来の機動性を発揮出来ない。武器はグラディウス一振りのみ。どうするか。限りなく圧縮されたながく短い時間。

 

 その均衡きんこうを破ったのは、自衛隊の攻撃だった。Airsからの警告があったはずだが、いまだ自力での状況じょうきょう打破だはあきらめていないらしい。

 いや、正しくは今までの戦闘中にも攻撃を加えていたが、真はそれに気を留める余裕がなかった。数台の戦車がつぶされ、戦闘機が火球へと姿を変えていた。攻撃のすべてはマシーンの装甲の前に無力と化した。

 それでも攻撃を止めないのは、責任、義務、使命……。何であろうと、それらはこの現実に悲惨な結果を残すことしか出来なかった。そしてまた一人。戦闘機がウィクスハイトの上空を通過し、マシーンへ特攻をかける態勢たいせいに見える。


「やめろ! これ以上命を無駄にしないでくれ!」


 真のさけびは聞こえるはずもない。通常兵器とウィクスハイトとでは、想像を絶するほどの速度の差があった。いくらウィクスハイトよりも俊敏性しゅんびんせいに劣るといえ、マシーンが戦闘機を撃墜げきついすることは、飛んでいる虫を叩き落とすよりもはるかに簡単な行為であった。


 戦闘機がベータのスマートガンの射線に入った時、真の中で何かがプチンと音を立てて切れた。


「ちくしょォオーーーっ!!」


 次の瞬間にはウィクスハイトはベータの正面へ移動し、グラディウスを投げ飛ばしていた。膂力りょりょくすべてを込めて投擲とうてきしたそれは、ベータの腹部へ突き刺さる。激しい打撃を受けたベータは、特攻を狙った戦闘機の針路上しんろじょうかられた。


「真、今です!」


「いけーーーーーー」


 ウィクスハイトのバーニアスラスターが爆炎をあげる。川を飛び越え、水飛沫みずしぶきを辺りに散らした。


 一気に肉薄にくはく、スマートガンが真を狙う。その距離、約五十メートル。ベータは目と鼻の近さだ。接触する直前、ベータが銃弾を乱射する。


「いまだぁっ」


 バリアフィールドをウィクスハイトの目の前で展開。銃弾が乱反射らんはんしゃした所でバリアごとベータに突貫とっかんし、体当たりで体勢を崩す!

 すばやくバリアを解除し、グラディウスを握った。ベータの腹部に刺さっているグラディウスを、思い切り引き抜く。無理矢理金属をこすり合わす嫌な音。


 引き抜いたを小剣を返し、頭部へとどめの一撃を狙う。エネルギーが通ってないために切れ味を失ったグラディウスは、鈍器へと化していた。大きな音が、ぐしゃりッ。ベータの頭部を押し潰し、胸元まで圧壊(あっかい)させた。と、同時にマシーンは全身から閃光を放つ。


「くっ」


 攻撃かと思った真は身を躱すが、その閃光はマシーンの断末魔だった。魂を散華さんげするように、火の玉のような曖昧あいまいな形を持った光球が幾条いくじょうにもベータから漏れ出す。


「あれがマシーンの動力源、エーテルです。高濃度のエーテルエスケープ(EE)が観測された以上、機体が動くことはありません」


「か、勝ったのか……」


 直後ドン、と重い衝撃が走る。


 それは打ち残していたマシーンアルファからの攻撃であった。

 



  ————————やられた。

 



 僕は、死んだ。


 強烈な感覚だ。肉体がバラバラになり、血液が噴出する。痛みを感じる時間さえ無い。


 これで、すべてが終わった。


 確実な死を感じた。コクピットを貫いた敵弾は僕の身体を粉々にし、ウィクスハイトの胸部に赤い花を咲かせる。


 間違いなく現実だ。


 しかし、死を感じた刹那せつな、時間が巻き戻った。本当にそう感じたのだ。マシーンの放った銃弾が胸部を貫くほんのまたたきほどの時、真は現実をやり直すことになった。


「!?」


 何が起こったのか分からない。それでもウィクスハイトを緊急回避させ、致命傷をける。


「ッッッッッ!! しまった、あっちはまだだったか!」


 ウィクスハイトのわき腹に風穴が開いた。傷口からEE(エーテルエスケープ)。完全な回避は不可能だった。半身を破壊し戦力を失ったと思われたアルファが、左手に持ったハンドガン状の武器で攻撃を加えていた。


「ううう」


 激痛が真を襲う。ほんの一瞬の痛みであることが唯一の救いだ。さっきの体験はなんだったんだ? だが、今はアシュレイに問う余裕もない。


 アルファはほとんどの機動力を失っており、姿勢制御バーニアを駆使し、かろうじてバランスを保っている。対するウィクスハイトも満身創痍まんしんそういだ。しかし、機動力は残っている。

 すぐ反撃に移る。ハンドガンからの攻撃を避けるため、アルファを中心にらせんを描きながら接近するウィクスハイト。大回りな加速により強力な遠心力が発生し、重力負荷じゅうりょくふかが真をおそう。

 ウィクスハイトのコクピットは負荷を軽減するが、それでもなお通常の人間ならば簡単に押し潰してしまうほどのものである。真にとっては少し身体が鈍くなった程度の感覚である。アルファの銃撃はウィクスハイトの後方、数メートルすれすれを流れていく。グラディウスを振りかぶり、不慣れな左腕に力を込めてアルファの左胸部に打ち込む。


「終わりだ!」


 今のグラディウスでは、装甲を殴りつけるような攻撃しか出来ない。それでも胸部装甲をえぐったあとは、ずぶずぶと押し進み、ちょうど人間の心臓の位置まで突き徹す。

 そして、例のEE。アルファの全身が、完全に脱力する。


「お疲れ様でした、真。戦闘終了です」


 特攻をかけようとしていた戦闘機が、帰還かえっていくのが見えた。


「はぁ、はぁ、よかった、一人でも助けられたようだ……」


 真の精神は限界に達しようとしていた。初陣から一晩で二戦。しかも敵戦力は倍増していた。その上、死をも体験してしまった。


「今回の戦闘は、ウィクスハイトが圧倒的不利な状況にありました。奇跡的な勝利です」


 気休めのつもりか? 愚痴ぐちを言おうかとも思った真だったが、極度きょくどの疲労とともに甘美かんびな勝利の余韻よいんが身体をふるわせる。


「ああ、アシュレイのおかげでもある」


「いえ、当然のことです。しかし、油断をしないでください」


 油断? さっきの戦闘に不満でもあったのか? 確かに一度は死んだような体験をしたが……。


「上空の塔を分析ぶんせきしてみましたが、光の変動パターンがマシーン出現前と変わっていません。多少確実性にはおとりますが、再度の侵攻しんこうがあるかもしれません。少しでも体力を回復するために隣の調整用メディカルベッドへ移ってください。」


「——なんだって、まだ敵が来るのか?」


「はい。考えてみてください。もしあなたが敵陣を一気に攻めるとしたら、誰を狙いますか?」


「……それは、敵の大将だな」


「その通りです。今回の場合、最終兵器であるウィクスハイトを狙ってきます。それも、間隙かんげきなく、力をつけ始める前に。真、これは戦争なのです」


 そうか、そうだったな。まあいい。今は他のことは後回しだ。少し、休もう。


「対策は立てないといけないが、……疲れた。アシュレイ、後は任せる。敵の現れる兆候きざしがあったときは起こしてくれ」


 真はそう力無く言い、操縦席の右側にあるメディカルベッドへと寝転んだ。今後を考えてはみるが、すぐに睡魔が襲ってきた。相当、疲れていたようだ。


 ベッドとは操縦席を挟んで反対側にある補助席に座るアシュレイから「おやすみなさい」という言葉を聞きながら、真はどろのように深い眠りへと入っていった。

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