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ウォータードメインプラネット〜あるいは彼はどうやって運命を切り開いてゆくのか〜  作者: 三州 誠一郎
第一部 遠い夏の日 第一章 降り立つ火
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第四話 降り立つ火〜始まりの終わり〜

 ウィクスハイトの右腕は完全に機能を失っていた。穿うがたれた右肩の激しい痛みは、かろうじて引いている。だが、まだ冷静になんてなれない。怒りがおさえられない。いや違う、心地いいんだ。身を任せよう、こんなに憎しみに満ちているのに、最高の気分じゃないか!


「やるぞ、アシュレイ!! 一気にケリを決着つける!」


「はい、先ほどの被弾による損傷そんしょうは深刻です。動力ものこわずか。グラディウスでの戦い方、わかりますね?」


「もちろんだ、行くぞ!」


 ウィクスハイトが走っていた時にほとばしった光は、マシーンの放った銃弾だった。ウィクスハイトの被害は甚大じんだい。更にはナイフで受けた傷により、右腕ほとんどは稼働かどうしない。マシーンとの戦力差は分からないが、機体の全長はほぼ変わらないとデータが示していた。


 決戦を急ぐのは感情からだけではない、勝利するためには必然だった。


 ウィクスハイトを加速させる。マシーンは左手にナイフを構え、逆の手に備えたスマートガンでこちらを狙っている。姿勢制御バーニアを使い、機体を左右に振って回避運動を繰り返しながら敵に接近する。が、被弾。ズドッ、と衝撃が走る。


「うぐっ」


 三発()らった。動かない右腕に特別深い二発、一発が頭部装甲をかすめた。それでもなお無理な体勢から体躯ボディを浮かび上がらせてマシーンへ肉迫にくはくする。その動きはまさにロボットだからこそ可能な体軸たいじくを無視した動きで、身体の各部位は連動していないかのごとくだ。攻撃準備に集中させた上半身は、大地を両脚りょうあしのために必要なバランスを取ろうとしない。無駄は無いのだろうが、人間にはおよそ真似出来ない動作だ。


 ウィクスハイトははやい。その代わりに防御性能を犠牲ぎせいにしている。姿勢を低く、脚力きゃくりょくとバーニアを駆使くしし、地表すれすれから敵のふところに飛び込む。


「行けぇ!」


 グラディウスを敵の腰辺りから振り、一気に切り上げる。その一撃がナイフに阻止そしされ、激しい火花が散った。

 二撃目は足許あしもとを狙ってするどくが、これも跳躍ジャンプで回避された。敵もたくみにバーニアを使っている。

 反撃が来る。距離を取っての射撃、やはり右腕狙いだ。


「回避運動、右です!」


 ウィクスハイトは半身はんみになり、攻撃をける。それに成功した瞬間、三度目の攻撃に転じる。最上段からマシーンの胸部を目掛めがけて剣を振り抜く、それを更に防御したナイフにヒビが入ったのを俺は見逃さなかった。

 敵が閃光煙幕フラッシュフォグを放出する。瞬時にして光に包まれる戦場。視界を奪われた状態からの敵の銃撃はしかし、ウィクスハイトを傷付けることはなかった。


 感覚センサーまし、敵にる。


 距離は遠くない、真っ直ぐに加速ブーストを掛けると、光の中から敵の姿が現れた。敵は銃撃するタイミングを失い、二度、三度と追い打ちを許す。

 ナイフを狙い突き、横薙よこなぎと攻めをす度にグラディウスが空を切り、うなりをあげる。剣撃を見事にかわす敵だったが、五度目の一撃、右下からの逆袈裟斬ぎゃくけさぎりが敵マシーンのナイフを砕いた。破片となったナイフがきらりと輝く。


「よしっ」


「今です!」


 グラディウスに全ての膂力りょりょくを込めて敵の左胸部をつらぬとおした。マシーンの傷口が火花で染まる。

 ついにとらえた。それでもマシーンは抵抗を止めず、全力で反撃を試みる。最接近しているため、スマートガンはふうじる事が出来た。だが敵はグレネードを持ち、こちらと共に自爆を狙っているようだ。

 瞬時しゅんじ察知さっちし、素早くウィクスハイトの躯体くたいを沈め、胸部に突き立てたままのグラディウスをななうえへとかたむけた。残る全パワーを使い、夜空へと飛翔ひしょうする。


「うぁぁああ!」


 マシーンを貫いたグラディウスは、胸部から首へと昇り、あごを切り裂いて頭部をった。


 一刀両断。


 わかたれた勢いから、グレネードは敵の手から遠く放たれた。


 マシーンのひざくずれ、断末魔だんまつまの如き光を放つ。そして、時の流れが止まったかのように、実にゆっくりと大地へとその機体をとしていく。それは完全に沈黙した。


「やったか!?」


 決着を演出するかのように、グレネードがウィクスハイトの後ろで盛大に爆発したが、ダメージは無い。


「敵性マシーンの動力消失を確認。戦闘終了、お疲れ様でした。ウィクスハイトの勝利です」


 アシュレイがときこえをあげた。


 ウィクスハイトは力尽きたようにグラディウスを手放す。


「はあ、はあ、はあ。春歌はるかさん、かたきったよ……」


 破壊衝動の矛先ほこさきを撃破したことで、極度の疲労とともに多大な充実感を得られた。


「これが、巨大ロボット(ウィクスハイト)の力なのか」


 知らず知らずのうちに俺は笑っていた。


「はい、初陣ういじんとしてはお見事でした」


 初陣?


 アシュレイの言葉に引っ掛かりを覚えたが、聞き流した。たった今、死闘を演じ終えたのだ。


 怖くはなかった。楽しいとさえ感じていた。衝動のすべてをぶつけた。最高の気分だ。


 ウィクスハイトは傷付けてしまったが、アシュレイの言う通り初陣で無傷の勝利など望めたものではないのかもしれない。いや、多分そうだろう。そもそもウィクスハイトが無ければどうなっていたんだ?


 あのマシーンは? 一体何だったんだ? 町を破壊したのはあれに違いないだろう。あれは、敵だ。


 でも、何故それが分かっているのだろう。アシュレイの事だって、ウィクスハイトの事だってさっき知ったばかりなのに。


 ——なのに随分ずいぶん前から知っている気がする。なつかしい、というのは少し違う。最初から違和感が無かった。アシュレイとは古い知人のように。

 確かにウィクスハイトを動かせた。それだってなぜ出来たかは分からない。自分の手足のように、いや普段動かしているこの生身の身体よりもっと直感的で、意識しなくてもより早く、より正確に動いてくれた。

 操縦方法が頭の中に入力されたのか?

 そんなのは感じなかった。気付いた時には……、気付く前からウィクスハイトは思い通りに動いていた。必要な情報はすべて分かっていた。戦い方、戦場の空気、ウィクスハイトの状態、マシーンの存在。


 一体どこまでが分かっているのか、それが分からない。戦闘に必要な事だけは理解したつもりだ。


 不思議な感覚だ。それでも何とか戦闘に勝利した。これで良かったんだ。良かった。——よかった? 何が……?


 アシュレイと一緒なら何だって出来そうな気がする。でも、今、見えている光景は……。


 戦闘を開始する前から燃え盛っていた町は、ウィクスハイトの攻撃も影響してほとんど消えて無くなってしまった。巨大マシーン同士の戦闘はここまで凄惨せいさんな被害をもたらすのか……。戦闘時に発生した衝撃波は、残骸ざんがいとして辛うじて残っていた家屋などを木端微塵こっぱみじんにしてしまった。




 目が覚めてから短い時間しか経っていないと思っていたけど、空はもう真っ暗だ。

 ドス黒い煙に炎の色が反射し、風景は赤く染まる。灰が舞い散り、土や木だった様々な物が粉々になって辺りに転がっている。聞こえるのは、炎の轟音ごうおんのみ。


  空を見上げると、小さな光。でも、集中すれば分かる。あれは星だ。もう、そんな時間だったのか。


 これは、すべての始まりだったんだ。


 二〇〇九年七月十二日午後八時前。


 戦闘の終わった町の周辺は、戦闘力が集結しつつあり、戦争を想像させる雰囲気がただよってきていた。

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