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ウォータードメインプラネット〜あるいは彼はどうやって運命を切り開いてゆくのか〜  作者: 三州 誠一郎
第一部 遠い夏の日 第一章 降り立つ火
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第三話 降り立つ火〜憧れの、現実〜

 ————気付いたら、真っ白な空間にいた。


 最初は病院に居るのかと思った。事故を起こしたのかと思ったんだ。うっすらと、車を運転していたことを覚えている。


 いきなり何かにぶつかった? いいや、やっぱり何が起こったのか分からない。


 事故? そうだ!!


 ぼくは今、どこにいるんだ? こんな、ゆっくり寝ている場合じゃない。早く、何が起きたのか確認しなきゃあ!


 そう、春歌はるかさんは? 一緒にいたはずだ、となりには……いない! なんだろう、確か春歌さんと居た時、雨が降ってきたような気がする。それにどんな意味があるのかまで辿たどれないけど、必要なことだった、そんな気がする。雨。ここには空があるようには思えない、一体ここはどこなんだ?


 ベッドに寝てる、のか? 僕の他には誰もいないようだ。それどころか何もないじゃないか。


 ? 僕は今、泣いているのか? 何で泣いているんだろう、涙が流れてるって実感は無いのに。思い出そうと思ってる訳じゃないけど、思い出があふしてくる。父親の事、母親の事、傷付けてしまった友達、そいつと仲直りした事。まぶしいのに見続けた太陽。目に悪いからやめなさい、って誰かに言われたっけ。最期まで優しかったじいちゃん、気の強いばあちゃん。初めて連れて行ってもらった海、あの頃見た花火は、退屈だったしちょっと怖かったな、あの爆発音。僕の事を評価してくれた先生、その考えを大事にしなさいって。


 でも、今大切なのは思い出じゃない。僕にはやらなきゃいけない事がある。知らなきゃいけない事がある。

 これがもし死ぬ時に見る走馬灯だっていうなら、このかされる気持ちは何だ。ここが天国なら何でこんなに落ち着かないんだ。僕はきっと生きているんだ。春歌さんの手をにぎったんだ、離す訳にいかない。そのために生きて来たし、生きていたいんだ。


 手を伸ばしてみる。体は動く。集中すれば指の一本一本が分かる。


 ! 少しずつ、見えてきた。目がぼやけていたのか? 意識を失っていたんだろう、当たり前か。体の輪郭りんかくより記憶の輪郭のほうがハッキリとしている。夢じゃない。夢ならこんな感覚にはならない。


 ここは何もない空間、いや、違う、違うぞ! 病院でも、ベッドでも、車の運転席でもない!


 そう、何かの操縦席そうじゅうせきのようだ。でも、なぜ? なんでこんな所にいるんだ?

 おかしい……。


 わけがわからない。

 戦闘機のコクピット? よく似た感じだけど、違う。いつかアニメで見たような、ロボットのコクピットに似てるようだ。どっちにしろ乗った事なんか無い。


 何故だ、やはり夢を見ているのか?


 そうだ、確かに僕はロボットにあこがれていた。いつか巨大な戦闘ロボットに乗って、走ったり、飛んだり、戦ったり、人を助けたり、したかった。


 ここは何なんだ。空想の世界? それとも、死んだのか。だから自分の思い通りの場所なのだろうか。


 いや違う! 違うと実感する。事故にって、まだ生きているなら悠長ゆうちょうなことを考えてられないんだ。

 なんてことだ。か、体が自由に動かない。動くのは右手だけか?

 くそ、早く、はやくここからだっしゅつしないと!!




「おはようございます、これは夢ではありませんよ」


————————————?????


 声がした? 女性の声だ……。気のせいかも。

 どちらにせよ目を、覚まさなければ。感覚をますんだ!


 音がする。炎と風の音だ。 においがする。木や、様々なものが燃える匂いだ。空が見える。真っ赤だ。夕焼けにしては赤すぎる。違う、違うぞ。真上は夜のあおさなのに、まわりが赤く光っているんだ。


 おかしい。真上を見上げているはずなのに、地面も見える。空と大地が同時に見えているんだ。横も、後ろもだ。どういう事なんだ?


 それに、それに……すべてがグシャグシャだ。

 える風景、全部何もかも。爆発でも起きたのか? あの流れ星…、隕石? まさかっ。


 でも、でも……。町が、僕の町が壊されている。僕の車も……。


 破壊サレテル、焼カレテイル、オシツブサレテイル!!


 ——感じる、何かいるぞ、それも目の前に。人の形? いやしかし、大きい、大き過ぎる。あれは人じゃない。向かいの山が小さく見えるほどの大きさだ。


「なんだ、なんだよ……、何が起こっているんだ!?」


 悲鳴のような声を必死につむす。


「あれは敵です。あなたの町を破壊し、彼女を殺害したマシーンです」


 女声じょせいに僕はおどろいた。


「だ、誰だ!」


 誰? いや、僕はこの女性を知っている。そう、確かにっている……。


「あのマシーンを放擲ほうてきすれば、被害が更に拡大します。どのような手段でも構いません。あらゆる方法をって、目標を撃破してください」


 そうだ、分かる。目の前にいるのは敵。倒すべき敵だ。この町を破壊した、憎むべきモノ。春歌さんもヤツに殺された……?


「嘘だ! そんなわけがない! 絶対にそんなわけ……」


「この町を破壊したのはあのマシーンです」


 冷徹れいてつな事実だ。繰り返されるマシーンという言葉が頭を支配し、その意味が『敵』に置き換わってゆく。


 全身がたぎるように熱い。あの機械がにくい。


 撃破……、そう、やらなければいけない事を本当は分かっている。


(ヤツは機械マシーンだ! 何も躊躇とまどうことはない! 命の無い機械、ならば破壊してやる。それだけだ、徹底的てっていてきにやってやる!)


 視界まで燃え上がるかのようだ。だが、戦うための情報はクリアに伝わってくる。不思議な感覚、先ほどまで黒い影にしか見えなかった機械仕掛けの巨人も、その細部までが認識出来る。


 敵の姿は、屈強な兵士のような全身像シルエットで、深緑の迷彩装甲ロービジュアルアーマー、背部には接続アームでつながる長大な銃器スマートガン大袈裟おおげさ姿勢制御装置バーニアスラスターなどを彼方此方あちらこちらに装備している。

 人の似姿にすがたをしているが、機械であることがよく分かる。


 状況を理解するにつれ怒りが増してゆく。絶望と怒りの波がオレの中で激しくうねりをあげる。


 オレはさけばずにいられなかった。


「く、くそぉぉぉおお、ちくしょう、ヤツを、ヤツだけは、絶対に、絶対に……!」


 絶対に!


破壊ころしてやる!!」




 全力で走る。はるか前方にあった風景がまたたく間に後方へと遠ざかっていく。疾風かぜのごとく走っているのか。


 途轍とてつもない力がみなぎってくる。激しい怒気と破壊衝動はかいしょうどうに今、ふるえている。


 視界の中を光がほとばしる。なんだこれは、オレを傷付けることは許さない!

 

「う、ぁぁぁああああ」


 絶叫おたけびと共に右拳みぎこぶしを振り上げる。らんかぎりの力を込めて、正拳を放った。


 渾身こんしんの一撃がマシーンの頭部をとらえ、轟音ごうおんを鳴らす。と、同時に自分の腕をも破裂させてしまった。


「ぐっ!?」


 すぐに分かった。右腕はもう使い物にならない。しかし、痛みはほとんど感じなかった。怒りの副作用かもしれない。


 マシーンから距離を取り、右腕のダメージを確認する、そこにあったものは……。


「!? オレの腕じゃない!」


 それは、生身の肉体では無かった。硬質こうしつな、腕の形をした「物体なにか」だった。


 なにか、つまり右腕らしき物は光沢のある純白をしていて、くだけてはいるが元は彫刻のような美しい造形デザインであった事がうかがえる。騎士の甲冑よろいをメカニカルにした風で、ともかく、戦闘を意識している形だ。

 左のてのひらを確認する。それはエンジニアグローブを攻撃に特化させたように見える。


 驚きを隠せないが、集中はかない。マシーンはすでおそかってて来ているのだ。その動きは捉えていたし、防御の予備動作は完璧だった。


 ただ、極度の緊張と気分の昂揚こうようあだとなったのか、こころとからだ一致しない。


 攻撃を適切にかわしたのは精神だけで、からだは直撃を喰らった。予測が外れた分、その衝撃は大きい。マシーンの武器が右肩をつらぬく。今度こそ激痛いたみが走る。


 抑えられぬ怒りがあふし、感情の制御せいぎょが効かない。オレにはヤツをにらけることしか出来なかった。


「ぐうぅッ!貴様、……キサマァァ!」


 潰れた顔から不気味な光、目と思われる一つの光点がこちらを見返す。マシーンは左手に持ったナイフをにぎなおしている。軍人の使う多様な戦術が取れそうな得物えものだ。

 そして、再び攻撃態勢に入っている。


「落ち着いてください、まこと。マシーンに与えた損傷そんしょう軽微けいびなものです。素手では効果的な打撃を与えられません。こちらも武器を用いて応戦しましょう」


 女性のアドバイスが響き、少しだけ冷静になれた。距離が近すぎる、おれは大きくんでマシーンと離れた。


「武器だって!? 何があるんだ、”アシュレイ”!」


 『アシュレイ』


 そう、彼女は”アシュレイ”だ。不意に口にしたが、それこそが彼女の名だった。


 先程さきほどからとなりにいたのに、なぜ気付かなかったのだろう。今、俺に必要なひとだ、戦うために。アシュレイは俺に力を与えてくれる。


「当機『ウィクスハイト』の主武装は小剣『グラディウス』です。あつかづらいでしょうが、左腕さわんに装備してください」


 左腕部に懸架けんかされているグラディウスを、利き腕である潰れた右手で無理矢理引き出す。

 抜刀されたそれは、重力にしたがい、えがきながら大地へと落下していく。

 グラディウスが地表をつらぬき、の部分だけを残して静止した瞬間、俺はついに『ウィクスハイト』、すなわち巨大人型ロボットに搭乗している事を理解した。


 疑問など浮かびもしなかった。ただマシーンを自分のウィクスハイト撃滅げきめつするだけだ。

 怒りや憎しみ、哀しみ、そして使命感。そうした想念そうねんと共に、左手をグラディウスにかざす。


 大地にひざをつき、逆手で小剣を握る。

 そしてウィクスハイトは直立し、小剣グラディウスを瞬時に順手に構え直す。その威力いりょくを確かめるようにそらを切り裂く。リィン、というような音がした。


 その姿は、さながら神話や伝説の登場人物が物語の幕開けに手にする聖剣、封印されし力を解き放った瞬間のようだ。


  すさまじい力の奔流ほんりゅうがグラディウスに集まってゆくのがわかる。


「これで勝てるんだな? ”アシュレイ”!」


「はい、ウィクスハイトが負けることはあり得ません。『あなた』に、私と共に戦う意志が在り続ける限り……」


  二人が居るのは戦場。真とアシュレイは場にそぐわない微笑みをわしった。

 それはまるで、これから始まる戦争たたかいを、心の底から楽しもうとでもうような恍惚こうこつとしたかおであった。

最後までお読み頂きありがとうございました!ブクマ、評価、ご感想やいいねを頂けたら大変励みになります!

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