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ウォータードメインプラネット〜あるいは彼はどうやって運命を切り開いてゆくのか〜  作者: 三州 誠一郎
第一部 遠い夏の日 第一章 降り立つ火
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第十三話 ウィクスハイトの力〜絶望の白い影〜

 ウィクスハイトが最大戦速さいだいせんそくで敵機に突撃を始めた瞬間、


『あああああああああああああああああああああああああ』


 いきなりの奇声かノイズらしき音にまことおどろいた。


「?! この音はなんだ、アシュレイ」


「はい? 特別な音は検出していませんが」


『ホワイ、ト……ファントムッ!!』


 真はたしかにそう叫ぶ声を聞いた。アシュレイの声ではない。この声は、一体……?


 だが、そんな事を考える余裕など無くなるほどの衝撃が真のからだおそかった。ウィクスハイトの全身全霊ぜんしんぜんれいした一撃がホワイトファントムの武器とぶつかったのだ。

 むちであろうそれは、Elz(エルツ)らしく金属に似た性質を持っているようで、グラディウスのさきかたい音を鳴らしてはじいた。


 お互いの武器から、エーテルが噴出ふんしゅつする。ウィクスハイトのフルパワーを物ともせず、ホワイトファントムは自然な体勢のままでいる。


不味まずい!」


 飛び散ったエーテルが鞭に吸い取られてゆく。今や傍観者ぼうかんしゃに近い立場となった真でも、ホワイトファントムの力に恐怖を覚えた。


 素早く退いて構えをつくるウィクスハイト。たったの一撃で、歴然れきぜんとした実力差を見せ付けられた。


 グラディウスによる攻撃は片手でいなされ、さらにエーテルまで吸収されてしまう。あの鞭は厄介だ、今の接触で稼働時間を五秒はけずられた。残り百六十五秒。


「ダメだ、ウィクス! あいつにグラディウスだけでは勝てない!」


 真は自然と自分の乗るモノへと呼び掛けていた。


 だが、どうする? どうすればホワイトファントムに勝てるんだ。武器のリーチも機体のスピードも相手が上。こちらの武器はグラディウスだけだ。スマートガンなどでは役には立たないだろう。真は薬物の過量投与オーバードーズでぼやけてしまう思考を、なんとかしぼる。


「アシュレイ……」


「残る手段は一つしか有りません。エーテルを利用した攻撃です。純粋にパワーとして打ち込むか、魔法として使用するか、です」


「魔法……? Elzはそんな事まで可能なのか?」


「はい。ですが、ウィクスハイトはあくまで格闘戦主体の機体ですので、魔導戦に対応出来るかどうか。真も魔法についての経験がありません。それに、ウィクスハイト自身がその提案に乗るか分かりません」


 残り百五十五秒。このまま何もしなくても決着は付く。それは敗北を意味するだけだ。


の魔法は、多分通用しないと思う。どうやって使うのかも分からないしな」


「その通りでしょう」


 ウィクスハイトは動けずにいた。全くすきが見つからないのだ。

 ホワイトファントムはみぎ前腕部ぜんわんぶから鞭をやしている。硬質な素材で出来ているだろうが、多重関節が仕込まれていて変幻自在フレキシブルな動きを見せる。かわごとくしなるかと思えば、棒状の武器として打撃だげき刺突しとつも可能のようで、近距離戦では万能だと言えるかもしれない。グラディウスをも弾くモノなのだ。


「提案に乗るか、と言ったな。ウィクスハイトには意思があるのか?」


「Elzは完成されたシステムです。戦闘単位としても、自律型コンピュータとしても。完全なバイオニックプレゼンスであり、構成する素材が違うとはいえ生物と変わり有りません」


「——よく分からないな。つまり?」


「意思があると言えます」


 二人は悠長ゆうちょうに話しているが、これは超高速言語を使ってのものであり、現実では稲妻いなずまの速度で会話をしているに等しい。これまでの戦闘でも会話が成立していたのはそういった理由だ。




 真とアシュレイが思考をめぐらせている間に、ホワイトファントムは構えをいていた。まるでウィクスハイトを挑発ちょうはつするかのように。これは、チャンスなのか。


 状況を判断する間も置かず、ウィクスハイトが切り掛かった。


 真が操縦コントロールする時とは全く違う太刀筋たちすじでウィクスハイトは戦う。その動きは剣術の達人を想起そうきさせるが、剣捌けんさばきというをはるかに凌駕りょうがした動きだ。流れるような動き、どころでは無い。すべての剣撃けんげきが技として完璧なのだ。


すごい……!」


 一度の斬撃が次の、さらに次の技へつながっている。真がしたような敵の一部を狙う単純な攻撃などではなく、数えるのも馬鹿らしくなるほどの連続攻撃。左にった剣が瞬時しゅんじに敵機の頭上を狙い、それがかわされるのを見越みこして突きに転じる。突きが断ち切りに変化し、上へ下へと自在に動く。攻撃が当たる事も外れる事も同時に想定している動作のようだ。ウィクスハイトの動きは、人間だとかマシーン、ロボットなどのわくを超えている。剣術をきわめた戦士そのものだ。


 しかし、それら攻撃をホワイトファントムはすべてかわしている。鞭も使わず躯体ボディを最低限移動させるだけで反撃もして来ない。運動性の高さもすさまじいのだろうが、おそらくやつは見切っているのだ、ウィクスハイトの動きを。

 つまり、ホワイトファントムはElzとしての性能だけでなく戦士としての経験も格も上であるのだ。


「駄目だ、このままでは。時間切れを待つだけじゃないか!」


「……。最早もはや説得している時間は無いでしょう。今一度、ウィクスハイトから操縦権(ヒエラルキーコード)を取り返す必要があります。そのためには真にさらなる負担をいる事になりますが」


さくがあるのか?」


「ホワイトファントムはウィクスハイトの動きを完全に把握はあくしています。たとえ技術が高かろうとも今の戦い方では勝ち目はありません」


 アシュレイは真を見つめながら言った。その顔は悲しげに見える。


「真の潜在能力にけるしかありません。たとえ素人の剣でも見切られている技よりは効果が上がる可能性が高いと判断します」


いちばちか、か。……何故、そんな悲しそうな顔をしているんだ?」


「私がですか?」


 アシュレイはおどろいたようだ。自分の表情に気付いてないらしい。


「分かりません。ただ、ウィクスハイトもつらいだろうと思って」


「ウィクスが? ……僕には分からないが、この戦いには何か因縁いんねんの様なものがあるのかもな」


「そうかも知れません。記憶装置ライブラリにはっていませんが——。ホワイトファントムにかなわない事、ヒエラルキーコードを取り上げる事も何故か後ろめたく感じます」


「だが今はそんな事に構っている余裕は無い。僕が操縦コントロールするとして、どんな戦い方がある?」


「結局のところ、グラディウスの最大出力での斬撃しか無いでしょう。そのための隙を如何いかにして作るか、です」


「隙を作る手段、か。エーテルを最大限に使う方法……」


「当機がエーテルを射出する手段は、グラディウスにエーテルを送るデバイスを応用したものになります」


「それで十分なパワーが出せるのか?」


「正直、出力不足でしょう。隙が作れる程とは思えません」


 真たちが考えあぐねいている間も戦闘は続いており、残存動力(エーテル)は残り百秒を切っている。ウィクスハイトの攻撃はただの一発も当てられていない。それでもコクピットまで衝撃が伝わって来るのは、ウィクスハイトが一つ一つの技に全力を込めているからに違いない。


 突然、ホワイトファントムの反撃が始まった。鞭をぎ、風を切る。その風圧だけでウィクスハイトの躯体くたいが吹き飛ぶ。


「うあッ」


 途轍とてつもない衝撃波だ。なんとか空中で姿勢を制御し、大地に足を着ける。


「なんて威力だ。相手にならないぞ……」


「エーテルが十分ならばバリアで防ぐ事も可能です。攻撃にすべての出力をいているため、防御力は最低限のものしかありません」


 ホワイトファントムは攻撃を続ける。鞭が振られるたびにウィクスハイトは右に左にさぶられ、徐々(じょじょ)にエーテルを減らしていく。


「くそ! 偉そうに手加減しやがって! 直接当てる事もしやしない!」


「真、稼働時間が三十秒を切ったら最後の攻撃を仕掛しかけましょう。残り三十五秒でウィクスハイトからヒエラルキーを奪還だっかんします。それまでに方策ほうさくを考え出して下さい」


「無茶を言う! とにかくエーテルをぶっ放せばいいんだろ!?」


 残り七十秒。真のしゃべかたにも余裕が無くなってきた。


 ウィクスハイトはホワイトファントムの動きを少しずつとらえ、グラディウスで鞭と同じ様に衝撃波を作り出し、それを相殺そうさいし始めている。しかし威力は段違いだ。こちらにダメージがおよぶ事には変わり無い。


「何がある、エーテルを最大で出すには……」


 考えている間にも衝撃が機体を襲い、エーテルが躯体各所から漏れ出してゆく。


「……そうか! 敵機を撃破した時、エーテルエスケープするとか言ってたな! あれを応用する事は出来ないか?」


「エーテルエスケープとは、対象が全エーテルを放出し切る事をそう呼びます。応用と言っても、エーテルが残っている機体はウィクスハイトだけです」


意図的いとてきに発生させる方法は無いか?」


「有りますが、それでは自爆と同義どうぎです。ホワイトファントムに仕掛けても通用しないでしょう」


 残り五十秒。四十九、四十八、四十七……。打撃を受けずとも決定的な瞬間は近づいてゆく。


「エーテルさえせばいい。……右腕を使う」


「右腕、ですか?」


「そうだ。関節ごとシャットアウトしてあるだろう? それを解放する。そこに全エーテルを流し込むんだ。今なら分かる、あの血の様な赤い液体もエーテルなんだろう?」


「ほぼその通りです。右腕破損部を解放すれば、エーテルは一気に流れ出てしまいます。確実にエーテルを当て、グラディウスによる最大出力の攻撃を同時に行わなければいけません。この方法では、すべての動力を使い切ります」


「他には思い付かない。やるだけだ!」


「では、ウィクスハイトからコントロールを取り返します。大変な痛みがともないますが、我慢がまんして下さい。五秒ほど頂きます」


「分かった」


 アシュレイは実体投影式立体操作盤ホログラフィックコンソールを素早く操作し始めた。視界モニターに映し出された赤い文字が、通常色に変わってゆく。真の身体にもウィクスハイトとつながっているという実感が戻ってきた。


「ごめんなさい、ウィクス。貴女あなたはよく戦ったわ、少し休んで……」


 そう言ってアシュレイは補助席ナヴィゲーションシートの左側に装備された自意識凍結装置プレゼンスリミッター強制自死誘発器ショットガントリガーを引いた。


『あああああああああああああああああああああああああ』


 またあの声だ。今度は分かる、これはウィクスハイトのさけびだ。怒りやくやしさ、無念さ。そういった強くはかない想いが悲鳴となってコクピットに反響こだまする。アシュレイが言っていた後ろめたさは、こういう事なのかもしれない。


 叫びが途切とぎれた瞬間ウィクスハイトは動作を停止、同時にホワイトファントムの攻撃が直撃した。


「ぐぼおぉ」


 と声にさえならない()と大量の血を身体の奥からし、真は昏倒こんとうしかける。

 つづざまに襲いくる攻撃、そのショックが逆に真の意識をつなめた。


「う、く、クソォォ!」


 ウィクスハイトは激しい攻撃で山肌に叩き付けられた。


「残り時間三十三秒、真、急いで下さい!」


 アシュレイの声が遠く聞こえる。今までウィクスハイトが受けていたダメージがそのまま真に伝わってくる。操縦そうじゅう出来なかった約百五十秒間に蓄積ちくせきされた痛みは、ひどいものだった。

 目を開く事さえ億劫おっくうになる自分をふるたせるため、真は叫ぶ。


「動けえええええええええ!」


 最後の力をしぼり、ウィクスハイト()はホワイトファントムへと飛び掛かった。


 グラディウスをにぎる手にも力が入る。ウィクスハイト()()がコントロールしていた動きも、今や真がになっている。もう細かい制御など不可能だ、突撃するしかない。


「うおおおお」


 真が振り抜いた剣は、ホワイトファントムに当たらない。しかしこれは作戦だ。鞭と交錯こうさくしない距離でグラディウスを振り回す。滅茶苦茶めちゃくちゃな太刀筋だが、ホワイトファントムは真の考え通り剣をける。ウィクスハイトがした様に、真も衝撃波ショックウェーブで攻めていた。


「残り二五!」


 アシュレイの声にも覇気はきこもる。

 一秒毎に数百、数千、数万と数を増してショックウェーブをす。だがそれはホワイトファントムを傷付けない。分かってはいたが、相手は途轍とてつもない強さだ。残り二十秒、しかしあせってはならない。機会チャンスを待つんだ、真は自分に強く言い聞かせる。


 ホワイトファントムもだまっているわけではない。鞭を伸ばしこちらのボディを突いてくる。当たれば即終了だ。冷静に、しかし激しく回避ダンスする。


「残り十五です!」


「行くぞアシュレイ!」


 真はウィクスハイトの可動する限りのバーニアスラスターをフルに噴射ふんしゃさせ、はやぶさごとくくショックウェーブと共にかった。


 轟音ごうおんひびかせホワイトファントムの鞭と激突するグラディウス。エーテルを吸収され、真はひざった。体勢をくずし地面へとちゆく真。だがその右半身はホワイトファントムの顔面をとらえていた!


「アシュレイ、出せーーーー!!」


開放リバース!」


 めていたエーテルが、爆発的に押し出された。応急シールドで押し込めていた分の圧力をも利用したため、右肩部の胴体装甲がはじんだ。


 真っ赤な液状リキッドエーテルが直撃し、ホワイトファントムの装甲を赤熱化せきねつかさせ、ほんの刹那せつなだが硬直をさそった。最後のチャンスだ。


「ワアアアアアアアアアア!!」


 真は絶叫ぜっきょうし、自身のエーテル(たましい)を込めて、全開出力にしたグラディウスをホワイトファントムの胸部に突き出した。


 胸部装甲に接触するグラディウス。


「行け、おれ!とおれーーー!」


 歩を進めるウィクスハイト、一歩分、二歩分とグラディウスがホワイトファントムの装甲をえぐる。


 が、


「っげ!」


 真は再び大量に吐血とけつした。コクピット内の小波さざなみしゅに染まる。それは、つまり、真の力(エーテル)きたあかしだった。


 朱にまみれたのどの奥から、真は血とともに声をしぼり出す。


「ぁぁ……、ホワイト……ファントムは……?」


 グラディウスは確かに敵の急所に突き刺さっている。しかし、その眼光がんこうは、ホワイトファントムの両目は光をうしなっていなかった。


「——駄目です」


「ちく、しょう……」


 真は最早もはや、指一本動かせないほど消耗しょうもうし切っていた。いつ意識が途切とぎれてもおかしくはない。だが、これが最期さいごの時ならば、見届みとどけなければならないという気力が、その意識をたもっていた。


「来ます」


 アシュレイが言った通り、ホワイトファントムが動きだす。みずからの胸部に刺さったグラディウスを、鞭をあやつって器用にからり、引き抜く。


 地に落ちるグラディウス。

 剣を突き出したままの体勢で硬直こうちょくしていたウィクスハイトは敵と、敵に刺した武器を支えに立っていた為、左腕を端緒はじめにその体躯からだを地に預けた。


 ホワイトファントムの鞭がへびの様にウィクスハイトのボディに巻き付いてくる。全身を拘引こういんされ、ちゅうへと持ち上げられてしまった。


「く……」


 真はうめいたが、不思議とその鞭からは攻撃的な感じを受けず、げられても痛みを感じない。

 ほんのわずか光るウィクスハイトの()がホワイトファントムの()を見返す。


 鞭がウィクスハイトの胸部、コクピットの収まっている装甲にる。その先端からエーテルが放たれ、一次・二次・最終装甲全てが融解ゆうかいした。

 物理的な装甲は全て破壊された。I.D.(イド)を守る最後のとりで隔絶空間かくぜつくうかんまでもエーテルの作用か、完全に消滅した。


 コクピットと外界をへだてる内殻ないかく、『パンドラ』が露呈ろていし、真は肉眼でホワイトファントムを見てしまった。


 ホワイトファントムは頭をかがめ、コクピットをのぞむ。真はその巨大な眼と相対あいたいした。


「!!!!」


 怖い! 恐い! こわい! コワイ!


 ホワイトファントムの()は美術品の様にきらびやかで、ロボットとしてはたから見れば格好かっこういものだろうが、実際に間近まぢかせまった三十メートルもの巨体は、人間にとって想像を絶する苦痛くつう、恐怖でしかなかった。


「嫌だっ、来ないでくれ!」


 死の恐怖にまさおそれ。真はここまで来てあらためて機械ロボットおそろしさを味わった。


 さらせまるホワイトファントム。手でれられてしまいそうな程、顔を近づけてくる。眼光アイ・ライトでコクピットはまぶしく照らし出された。そのひとみは、間違いなく真をている。品定しなさだめをする様にまじまじと、甚振いたぶる様にじっくりと。


「わああああああ!」


 恐怖のあまり叫ぶ真だったが、頭を抱えるような動きをする力さえも、もう残っていない。


「真! 落ち着いてください真! ホワイトファントムからはもう敵意を感じません!」


 アシュレイの声は届かない。苦悶くもんの表情のまま固まる真。


 見詰みつめられて三十秒はっただろうか。ホワイトファントムはその顔を離していった。鞭の力をゆるめ、ウィクスハイトを解放する。


 そして、すべき事は終わったとでも言うように静かに飛翔ひしょうし、くら宇宙そらへと去って行った。


「真、もう大丈夫です。真……」


「う、ぐす、うぅ」


 真は泣いていた。恐怖と屈辱くつじょくのあまり、涙をながした。

 そんな真を、アシュレイは優しく、優しく抱きしめた。頭をで、呼吸を置いてからその顔を見ると、真は眠りに落ちていた。


「真、ウィクス。本当にお疲れ様でした」


 アシュレイは真を力強く抱きかかえ、メディカルベットに横たえた。


 そして、


「ウィクスハイトのけです。しかし、これは始まりに過ぎません。二人とも、今はゆっくり休んで……」


 とひとつぶやいた。アシュレイ自身もひどく疲れているはずなのだが、ウィクスハイトの管理、真の安全を一手いってに引き受けているため、休息はない。

 アシュレイの瞳は、輝きを失っていない。その姿は、子を守る母親のようだった。


 二〇〇九年七月十三日午前二時過ぎ、空虚くうきょな戦場とてた石嶺町せきれいちょうに雨が降り出した。それは、戦火を洗い流そうとする空の涙だったのかもしれない。その色は、唯々(ただただ)黒かった。

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