第十二話 ウィクスハイトの力〜機械の死神〜
ウィクスハイトは、一歩ずつファイターへと近づいてゆく。それに応じてファイターも歩を進める。両者は、この場が闘技場にでもなったかのように、戦いではなく闘いを始めようとしていた。
グラディウスを正眼に構える。ファイターは戦斧を肩で担ぐ。両者共に機を伺い、戦場には殺気が満ちてゆく。
「先を取るか、後を取るか。スピードはこちらが上だろうが」
真には、戦闘経験値が無い。殴り合いのケンカもしたことが無い。ただ、切れたら何をするか自分でも分からない。一度、友人に重傷を負わせた事から自らの攻撃性を知った過去がある。
漂う殺気を切り裂くが如く、仕掛けたのはファイターだ。ハルバートを大きく振りかぶって、突進してくる。
「! カウンターを狙うぞ!」
「了解です」
接触寸前、時間にすれば〇・三秒前にファイターが一挙加速する。その動きを見たウィクスハイトも加速し、瞬時に攻撃に移る。
大雑把な斬撃がウィクスハイトの残影を切り裂く。その隙を縫いファイターの左背後を取った。グラディウスを背骨目掛けて振り落とす。
しかしファイターは攻撃の後、再加速しその身を遠ざけていた。この様な動きで、経験の浅さが露呈してしまう。
「くそっ、やるな」
「これくらいは当たり前です」
嫌味か? と、言葉に出す暇も無く次の攻撃が来た。スラスターによる無理矢理な機動を取り、ファイターが襲いかかった。
戦斧と小剣が激突し、火の華が戦場に咲いた。
パワーは上だが、得物が違う。それにウィクスハイトは片手だ。鍔迫り合いでは、重量の差で勝てない。徐々に押さえ込まれてゆく。
「うぅおおお!」
必死に押し返そうと、コントロールレバーを強く引き、目一杯前に押し出した。
エーテル、その出力は感情、気迫、肉体の活性など生命活動全般に生じる「力動」に作用される。身体の力動も精神の力動もエーテルを引き出す要となるのだ。
だから、
「吹き飛べぇぇぇ!」
と叫んだ真にウィクスハイトは呼応し、ファイターの力を振り切りって背後の山肌へと押し飛ばした。
ファイターの質量で山は大きく形を変えて崩壊した。それは映画で見るような木っ端微塵にでは無く、徐々に雪崩れてゆき、ファイターに潰され固まった部分を残して土塊へと還った。
見事攻撃を跳ね返したウィクスハイトだが、それだけだ。ファイターに効果する攻めを撃ち込んだ訳では無い。ファイターは土塊を掴んで素早く態勢を直す。姿勢制御バーニアを使い、滞空状態になるファイター。二回目の激突が迫り来る。
「アシュレイ、何か作戦はあるか!」
「当機の優位はスピードです。撹乱しながら確実に一撃を加えましょう」
「了解っ!」
ファイターはバーニアスラスターを全噴射させ突貫して来た。
寸前で躱す、しかし先程の様に軌道を変え、ウィクスハイトとの距離を離さない。さすが戦士、変幻自在の運動性を誇っている。
そこからはお互い連撃になり撹乱するどころか、超接近戦を繰り広げた。
ウィクスハイトがハルバートいなしたかと思えば、その勢いのまま胴を切り裂く。だが、ファイターは重いはずの戦斧を自在に操り、柄でグラディウスを防ぐ。鍔迫り合い、体当たり、距離を開けての激突。その様なやり取りが連続した。
先に音を上げ出したのは、ウィクスハイトの方だった。全ての攻撃を躱せる訳ではない、バリアで防いでも機体への衝撃は無視出来ず、ダメージが蓄積してゆく。
「がぁ!」
真が苦しみの声を上げる。決定打に欠けるのだ。
「ぐっ、力が散る!」
戦斧の一撃を喰らえば一溜まりもないだろう。対して、グラディウスを必殺の威力で撃ち込む為のパワーを集中する時間は無い。言い換えれば、技術と気合が足りないのだ。経験に依る裏打ちである。敵を倒す、破壊すと息巻いても実践するのとは訳が違う。
じりじりと追い詰められてゆく。
「このままでは危険です。出力を上げた方がよろしいのでは?」
「分かっている! だけど、このくらいの戦いを潜り抜けなければこの先……」
そう、この先。この先が、突如として来てしまった。
コクピット内に警報が鳴り響く。アシュレイと真は驚きを隠せない。
「なんだ、この感じは!?」
一呼吸の間を置いて、空が鳴動。それはマシーンが降りてくる予兆だった。
しかし、これまでのマシーンは塔からのみ出現したはずだが、今回その輝きは無い。
「チッ、まだコイツも片付けてないのに!」
だが敵味方共々、空からの賓人に気を取られた。ファイターも動かない。
大気を切り裂き迫り来るマシーンは、上空千メートル付近で急制動をかけた。
極超音速を遥かに越えた巨大質量は、激しい衝撃波を生み出した。骨組みくらいしか残ってなかった町並みを、更に平らげる。山々でさえ圧壊し、各所で土砂崩れが発生した。
「ま、町が……!」
これ程の運動エネルギーを放ったマシーンであるにも関わらず、地表へと降り立つ際には一陣の風も起こさなかった。それだけ正確な機動が出来るだけの性能を持つ証左だ。
ウィクスハイトのセンサーはそのマシーンを識別した。
「真、危険です! あのロボットはウィクスハイトと同じElz、更には当機より性能も格も上の存在です!」
「!? さっきまでの敵と明らかに違う? ウィクスよりも強いだって!!」
「Elz−01、ホ……ホワイトファントム」
アシュレイは動揺を隠せない。真は冷や汗をかきながら聞く。
「ホワイトファントム?」
そう呼ばれたElzは静かな動作で腕をファイターへと向けた。
「な、何をするつもりだ?」
ホワイトファントムの右腕から、棒状の武器らしきものが伸びる。それがファイターの装甲に密着するには、瞬く間も要さなかった。密着した箇所から玉虫色の光が拡がる。
ファイターからエーテルが漏れ出したかと思えば、その全てがホワイトファントムの武器に吸われてゆく。
「同士討ちか?!」
「いえ、恐らく違います。マシーンとElzは協力関係に無い筈です」
「だったら、あれは……?」
「見た通りエーテルを吸収したのでしょう。塔を使わずに来たのです、移動に大量のパワーを消費している可能性が高いです」
「ウィクスハイトの最初の状態と同じって事か」
狼狽えたアシュレイが今までに無い大きな声で忠告して来た。
「駄目です、現状のウィクスハイトではたとえ無傷、フルパワーでも、ホワイトファントムには敵い得ません」
「——ああ。それは、なんとなく分かる。ホワイトファントムの力、こちらとは段違いだ……。どうする、逃げるなんてのは有り得ないんだろう?」
「はい、戦うしか有りません。とにかく攻撃を避け、隙を窺うしか——」
とアシュレイが言いかけた時、ウィクスハイトに変化が起きた。
モニター、つまり真の視界に重複されたデータの羅列が赤くなり、エラーの意味を示すものに置き換わる。
「うッ、ぐあ」
真の全身を強烈な不快感が襲った。
「ウィクスハイトとの同化に異常発生。機体のフィードバックが逆転していきます。制御系、循環系共に機体からの支配に反抗できません! 操縦権が奪われました!」
「(体が動かせない……!)」
声を発する事も出来ない。
出力が勝手に上がってゆく。もはやウィクスハイトは真の手を離れていた。
「I.D.への投薬開始、十単位、三十単位、七十単位、危険域に到達、九十五単位、百二十単位、投薬限界を突破。過量投与です!」
アシュレイは重い口調で情報を伝える。深刻な事態が発生していることは明白だ。
身体感覚が急激に希薄になる。が、反対に意識ははっきりと、いや、想像を絶する程集中している。
なんとか言葉を絞り出した。
「吐きそうだ……! 身体中をドロドロしたモノがのたうち回っている」
「申し訳有りません。今のウィクスハイトは自律制御状態、モードESに有ります。真のI.D.としての機能を限界まで引き出すため、投薬、身体への不正侵入など様々な処置が強制的に行われました。現在、機体の全機能が解放されています」
一呼吸置き、
「それでも、ホワイトファントムには……」
勝てない、か——。
これが現実なのだろう、戦いの、戦争の。
こちらがどれほど優れた力を持っていても、敵がより強力な兵力を投入すれば、何の慈悲も無く打ち砕かれ、殺される。
「いよいよ、かもな」
殊の外真は冷静だった。今や自分は機械を動かす為のエーテル源でしか無い。出来る事といえば、この戦いの行く末を見守る事くらいだ。
ウィクスハイトの出力は十二分に高まっている。モニターに投影された稼働限界時間は百八十秒。
「これが僕の寿命かな」
神妙な気持ちなのは確かだが、真はわざと自嘲してみた。
Elz−01の武器が地面を撫で、土煙りが舞う。どうやら得物は鞭のようだ。真たちのやりとりの間に、ソルジャーワンからもエーテルを吸収していた。
「ホワイトファントムの機動を確認。戦闘行動を強制開始します」
土煙りが爆風に舞う。無論その程度でセンサーが効かなくなる訳も無い。
アシュレイの声を合図にでもしたのか、ウィクスハイトはホワイトファントムに向かって最大加速した。
「ぐッ!!」
今までに無い猛烈な圧力が真を襲う。コクピットは衝撃や揺れを伝えないように、機体との間に極薄い隔絶空間が設けられている。I.D.にダメージが及んでいる現在、それは重大な事態起こっているという事に他ならない。
真の肉体に影響がある程の戦闘機動を強いられるこの戦いは、正に決戦と呼ぶに相応しいものだった。
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