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ウォータードメインプラネット〜あるいは彼はどうやって運命を切り開いてゆくのか〜  作者: 三州 誠一郎
第一部 遠い夏の日 第一章 降り立つ火
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第十二話 ウィクスハイトの力〜機械の死神〜

 ウィクスハイトは、一歩ずつファイターへと近づいてゆく。それに応じてファイターもを進める。両者は、この場が闘技場コロシアム)にでもなったかのように、戦いではなく闘いを始めようとしていた。

 グラディウスを正眼せいがん)かま)える。ファイターは戦斧ハルバート)を肩で担ぐ。両者共に)うかが)い、戦場には殺気が満ちてゆく。


せん)を取るか、)を取るか。スピードはこちらが上だろうが」


 真には、戦闘経験値が無い。殴り合いのケンカもしたことが無い。ただ、()()()()何をするか自分でも分からない。一度、友人に重傷を負わせた事から自らの攻撃性を知った過去がある。


 ただよ)う殺気を切り裂くがごと)く、仕掛しか)けたのはファイターだ。ハルバートを大きく振りかぶって、突進してくる。


「! カウンターを狙うぞ!」


「了解です」


 接触寸前せっしょくすんぜん)、時間にすれば〇・三秒前にファイターが一挙加速する。その動きを見たウィクスハイトも加速し、瞬時に攻撃に移る。

 大雑把おおざっぱ)な斬撃がウィクスハイトの残影を切り裂く。そのすきいファイターの左背後を取った。グラディウスを背骨目掛(めが)けて振り落とす。

 しかしファイターは攻撃の後、再加速しその身を遠ざけていた。この様な動きで、経験の浅さが露呈ろてい)してしまう。


「くそっ、やるな」


「これくらいは当たり前です」


 嫌味か? と、言葉に出すひま)も無く次の攻撃が来た。スラスターによる無理矢理な機動を取り、ファイターがおそ)いかかった。

 戦斧ハルバート)小剣グラディウス)が激突し、火の華が戦場に咲いた。


 パワーは上だが、得物えもの)が違う。それにウィクスハイトは片手だ。鍔迫つばぜ))いでは、重量の差で勝てない。徐々(じょじょ)に押さえ込まれてゆく。


「うぅおおお!」


 必死に押し返そうと、コントロールレバーを強く引き、目一杯めいっぱい)前に押し出した。

 エーテル、その出力は感情、気迫、肉体の活性など生命活動全般に生じる「力動(りきどう)」に作用される。身体の力動も精神の力動もエーテルを引き出すかなめ)となるのだ。


 だから、


))べぇぇぇ!」


 と叫んだ真にウィクスハイトは呼応こおう)し、ファイターの力を振り切りって背後の山肌へと押し飛ばした。


 ファイターの質量で山は大きく形を変えて崩壊ほうかい)した。それは映画で見るような木っ端微塵(こっぱみじん)にでは無く、徐々に雪崩なだ)れてゆき、ファイターに潰され固まった部分を残して土塊つちくれ)へとかえ)った。


 見事攻撃を跳ね返したウィクスハイトだが、それだけだ。ファイターに効果する攻めを撃ち込んだ訳では無い。ファイターは土塊をつか)んで素早く態勢を直す。姿勢制御バーニアを使い、滞空状態ホバリング)になるファイター。二回目の激突が迫り来る。


「アシュレイ、何か作戦はあるか!」


「当機の優位(アドバンテージ)はスピードです。撹乱かくらん)しながら確実に一撃を加えましょう」


「了解っ!」


 ファイターはバーニアスラスターを全噴射フルブースト)させ突貫とっかん)して来た。

 寸前すんぜんかわ)す、しかし先程さきほどの様に軌道を変え、ウィクスハイトとの距離を離さない。さすが戦士、変幻自在へんげんじざい)の運動性をほこ)っている。


 そこからはお互い連撃になり撹乱するどころか、超接近戦を繰り広げた。

 ウィクスハイトがハルバートいなしたかと思えば、その勢いのまま胴を切り裂く。だが、ファイターは重いはずの戦斧を自在にあやつり、)でグラディウスを防ぐ。鍔迫つばぜ))い、体当たり、距離を開けての激突。その様なやり取りが連続した。


 先に)を上げ出したのは、ウィクスハイトの方だった。全ての攻撃をかわせるわけではない、バリアでふせいでも機体への衝撃は無視出来ず、ダメージが蓄積ちくせきしてゆく。


「がぁ!」


 真が苦しみの声を上げる。決定打に欠けるのだ。


「ぐっ、エーテルが散る!」


 戦斧の一撃を喰らえば一溜ひとた)まりもないだろう。対して、グラディウスを必殺の威力で))ため)のパワーを集中する時間は無い。言い換えれば、技術と気合が足りないのだ。経験に)裏打うらう)ちである。敵を倒す、破壊ころ)すと息巻いきま)いても実践じっせん)するのとはわけ)が違う。


 じりじりと追い詰められてゆく。


「このままでは危険です。出力を上げた方がよろしいのでは?」


「分かっている! だけど、このくらいの戦いをくぐ)り抜けなければこの先……」


 そう、この先。この先が、突如とつじょ)として来てしまった。


 コクピット内に警報アラーム)が鳴り響く。アシュレイと真はおどろ)きを隠せない。


「なんだ、この感じは!?」


 一呼吸ひとこきゅう)の間を置いて、空が鳴動めいどう)。それはマシーンが降りてくる予兆よちょう)だった。


 しかし、これまでのマシーンはとうからのみ出現したはずだが、今回その輝きは無い。


「チッ、まだコイツも片付けてないのに!」


 だが敵味方共々、空からの賓人まれびと)に気を取られた。ファイターも動かない。


 大気を切り裂き迫り来るマシーンは、上空千メートル付近で急制動をかけた。

 極超音速きょくちょうおんそく)はるかに越えた巨大質量は、激しい衝撃波を生み出した。骨組みくらいしか残ってなかった町並みを、さらたい)らげる。山々でさえ圧壊あっかい)し、各所で土砂崩どしゃくずれが発生した。


「ま、町が……!」


 これほどの運動エネルギーを放ったマシーンであるにも関わらず、地表へと降り立つ際には一陣いちじん)の風も起こさなかった。それだけ正確な機動マニューバ)が出来るだけの性能を持つ証左しょうさ)だ。


 ウィクスハイトのセンサーはそのマシーンを識別した。


「真、危険です! あの()()()()はウィクスハイトと同じElzエルツ、更には当機とうきより性能も格も上の存在です!」


「!? さっきまでの敵と明らかに違う? ウィクスよりも強いだって!!」


Elz(イーエルジー)01(ゼロワン)、ホ……ホワイトファントム」


 アシュレイは動揺どうよう)を隠せない。真は冷や汗をかきながら聞く。


「ホワイトファントム?」


 そう呼ばれたElzは静かな動作で腕をファイターへと向けた。


「な、何をするつもりだ?」


 ホワイトファントムの右腕から、棒状の武器らしきものが伸びる。それがファイターの装甲に密着するには、またた)く間もよう)さなかった。密着した箇所かしょ)から玉虫色たまむしいろ)の光がひろ)がる。

 ファイターからエーテルが))したかと思えば、その全てがホワイトファントムの武器に吸われてゆく。


同士討どうしう)ちか?!」


「いえ、恐らく違います。マシーンとElzは協力関係に無いはず)です」


「だったら、あれは……?」


「見た通りエーテルを吸収したのでしょう。塔を使わずに来たのです、移動に大量のパワーを消費している可能性が高いです」


「ウィクスハイトの最初の状態と同じって事か」


 狼狽うろた)えたアシュレイが今までに無い大きな声で忠告して来た。


「駄目です、現状のウィクスハイトではたとえ無傷、フルパワーでも、ホワイトファントムにはかな)ません」


「——ああ。それは、なんとなく分かる。ホワイトファントムの力、こちらとは段違いだ……。どうする、逃げるなんてのは有り得ないんだろう?」


「はい、戦うしか有りません。とにかく攻撃を)け、すき)うかが)うしか——」


 とアシュレイが言いかけた時、ウィクスハイトに変化が起きた。

 モニター、つまり真の視界に重複(オーバーレイ)されたデータの羅列られつ)が赤くなり、エラーの意味を示すものに置き換わる。


「うッ、ぐあ」


 真の全身を強烈な不快感が襲った。


「ウィクスハイトとの同化アシミュレーションに異常発生。機体のフィードバックが逆転していきます。制御系コントロール循環系サイクラトリ共に機体からの支配に反抗できません! 操縦権(ヒエラルキーコード)うばわれました!」


「(体が動かせない……!)」


 声を発する事も出来ない。


 出力が勝手に上がってゆく。もはやウィクスハイトは真の手を離れていた。


I.D.(イド)への投薬開始、十単位、三十単位、七十単位、危険域に到達、九十五単位、百二十単位、投薬限界を突破。過量投与(オーバードーズ)です!」


 アシュレイは重い口調で情報を伝える。深刻な事態が発生していることは明白だ。


 身体感覚が急激に希薄になる。が、反対に意識ははっきりと、いや、想像を絶する程集中している。

 なんとか言葉をしぼした。


きそうだ……! 身体中をドロドロしたモノがのたうち回っている」


「申し訳有りません。今のウィクスハイトは自律制御状態、モードESエスに有ります。真のI.D.としての()()を限界まで引き出すため、投薬、身体への不正侵入(ハッキング)など様々な処置が強制的に行われました。現在、機体の全機能が解放されています」


 一呼吸置き、


「それでも、ホワイトファントムには……」


 勝てない、か——。


 これが現実なのだろう、戦いの、戦争の。

 こちらがどれほど優れた力を持っていても、敵がより強力な兵力を投入すれば、何の慈悲じひ)も無く打ち砕かれ、殺される。


「いよいよ、かもな」


 ことほか真は冷静だった。今や自分は機械ウィクスハイトを動かす為のエーテル源でしか無い。出来る事といえば、この戦いの行く末を見守る事くらいだ。


 ウィクスハイトの出力は十二分に高まっている。モニターに投影された稼働限界(残り)時間は百八十秒。


「これが僕の寿命おわりかな」


 神妙しんみょうな気持ちなのは確かだが、真はわざと自嘲じちょうしてみた。


 Elz−01(ホワイトファントム)の武器が地面をで、土煙つちけむりがう。どうやら得物えものむちのようだ。真たちのやりとりの間に、ソルジャーワンからもエーテルを吸収していた。


「ホワイトファントムの機動を確認。戦闘行動を強制開始します」


 土煙りが爆風に舞う。無論その程度でセンサーが効かなくなる訳も無い。


 アシュレイの声を合図にでもしたのか、ウィクスハイトはホワイトファントムに向かって最大加速した。


「ぐッ!!」


 今までに無い猛烈もうれつ圧力プレッシャーが真を襲う。コクピットは衝撃や揺れを伝えないように、機体との間に極薄ごくうす隔絶空間かくぜつくうかんもうけられている。I.D.(パイロット)にダメージがおよんでいる現在、それは重大な事態起こっているという事に他ならない。


 真の肉体に影響があるほどの戦闘機動をいられるこの戦いは、まさに決戦と呼ぶに相応ふさわしいものだった。

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