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第三話 ロクでもない天使

 天使の降臨。

 それはとても神々しくて、神秘的で、目を奪われるような光景。

 誰もがそう信じてやまないことだろう。



 キョウヤの前に降り立った天使は、妹を連れて行った天使とはまた別の天使だった。

 その姿は人々が信仰するに相応しいとても美しい光景だ。

 キョウヤでさえ自分の置かれた状況を忘れて、思わず見惚れてしまっていた。


「天国にはチャラい天使だけじゃないんだな」


 キョウヤは感心するように呟いた。

 だが、そんなキョウヤの考えを嘲笑うように、二人の天使から聞こえて来た会話はとても天使のものとは思えない残念なものだった。


「コイツ! 俺がレリちゃんと遊んでる時に呼び出しやがって。マジでふざけんなよ!」


「どうせ向こうは嫌々なのだろ?」


「嫌々じゃねえよ! これからお互いの距離を縮めようとしてたのに」


「だったら、こんな小さな神聖力しか持たない人間の祈りで、わざわざ呼び出されないようにしなければな」


「うるせぇ。お前だって俺と同じ下級天使だろうが!」


「ああ、だが私はお前と違って呼ばれても文句は言わんぞ。祈りを捧げる人間に加護を与え導くのが我々天使の役目と理解しているからな」


「けっ。良く言うぜ。導く方向がいつもロクでもないくせに」


「では、さっさと終わらせて帰るとするかするか」


「そうだな、じゃあ加護をやるからちゃっちゃと終わらせてくれよ、おっさん」


 二人の天使がだるそうに白い翼を軽く揺らす。

 すると翼から光の粒子が舞い、祈りを捧げる無精髭と長髪の男を包み込んだ。

 二人は頭上の天使にも気付かなければ、体を包む光の粒子にも気付いた様子はない。

 それは後ろで見守る人々も同様だった。

 いたって真剣そのもの。

 天使が嫌々、降臨しているなど考えもしていないだろう。

 しかし一部始終を聞いていたキョウヤはがっくしと項垂れていた。


「天使ってのはあんな連中しかいないのか?」






「しっかし面倒だなぁ。終わらないと帰れないっていうルールなんとかしてくんねぇかな」


「こればかりはさすがに無理だろ」


「だよなぁ。まあ暇つぶしに死んだときに天界に連れていけそうな好みの子でも探しとくか」


 何気ない天使のその言葉にキョウヤの耳がピクリと反応した。


「ふっ。お前は本当に好きだな。当ててやろうか、あの子だろ?」


 天使の視線の先には男の子の後ろで隠れるように震える女の子がいる。

 それはキョウヤに石を投げていた女の子だった。


「お、よくわかったな。ああ、早く死んでくれないかなあ」


 そしてキョウヤが一番聞き捨てならない言葉を発した。


「だからって殺すなよ」


「わかってるよ。オレだってその辺のルールは守るさ。お前と違ってな」


「人聞きが悪いな。私だってルールは守っている」


「ほんとかよ!?」


 汚い笑い声を上げながら楽しそうな二人の天使。

 キョウヤは確かに聞いた。

 ルールだから殺せない。

 なら、ルールを破れば殺せるのだろうか? まさか自分の妹も? そんな考えが頭をよぎった時、キョウヤの中に純粋な怒りが芽生えた。


 とりあえず一発殴ろう。


 キョウヤは静かに決意した。

 しかしロープが外れないことにはどうすることもできない。


「くそっ! 外れろよ!」


 ジタバタともがくが結果は同じだった。


「浄化の光よ!」


 その時無精髭の男が力強く叫んだ。

 同時に腰の長剣を両手で構えると、剣は眩い光に包まれる。

 それは隣に立つ長髪の男も同じだった。


 この時点でキョウヤにはなんとなくだがわかった。

 あの神聖そうな剣で自分を斬れば、悪魔と契約した自分を浄化して殺せる。

 そんなところか……。


「って、それじゃマズいじゃねぇか! ルシエル! おいルシエル! どこ行ったんだよ!?」


 剣を構えた二人の男が今度は魔法と思われる詠唱を始めた。

 剣では届かないから、魔法でも使うつもりなのか。

 だがそこで気になる事が起こる。

 無精髭の男に大量の光の粒子が纏い始めたのだ。

 本人は相変わらずそれに気付く気配はない。

 しかしキョウヤにはすぐにその理由がわかった。


「おい何をやっている? そんなに加護を与えなくても十分だろ?」


「それじゃあつまんないだろ? 加護を過剰に与えてやればあのガキもろともこの教会も吹っ飛ぶ」


「お前は本当に考える事が普通では無いな。それであわよくばあの女の子も死ねばと考えてるのだろ? そんなことだからいつまでたっても下級天使のままなんだ」


「だからお前には言われたくねぇって。大体ルールは破ってないだろ?」


「ま、確かにそうだな」


 また汚らしく笑う二人の天使。


 そんな天使の姿にキョウヤはただ黙って見ていた。

 正しくは何も言えなかったと言うべきか。

 自分の感情を言葉に出来ない。

 ただわかるのは自分の中にある黒い何か。

 それが今にも爆発しそうだった。


 その時、過剰な加護を受けた無精髭の男が詠唱を終えると、剣から眩い光が放たれた。剣を取り巻く幾重ものもの魔法陣。

 過剰な加護の影響だろうか。

 本人も驚いた様子だ。

 そして男が。


「まさかこの俺にこんな力があったなんて」


 と、勘違いも甚だしいことを言っている。

 そんな勘違いをした無精髭の男が一歩前に出た。

 ここは俺に任せろ、みたいなことを言っているのがキョウヤには聞こえた。


 その輝きにキョウヤが心配になったのは、自分のことよりも男の子の後ろで隠れているいる女の子だった。

 怯える目で自分を見ている。

 別にあの子を守る義務なんて自分には無い。

 ただどうしてもその姿が妹と重なる。

 ふざけた天使に連れて行かれた映像が頭に浮かんだ。


「悪魔め。今浄化してやる」


 調子に乗った男が剣を頭上に構える。


 あれが振り下ろされたら自分は死ぬのだろうか?

 キョウヤはそんなことを冷静に考えていた。

 恐怖や怒りは無い。

 ただ、自分の中の何かがキョウヤの感情を支配している。


 男はキョウヤに向けて構えた剣を今にも振り下ろそうとしていた。

 それをじっと見つめるキョウヤ。

 その時、またしてもキョウヤの耳に天使の汚い声が届いた。


「なあ、いつも気になってたんだが、お前は女の子を連れ帰って何をしているのだ?」


「別に。ただ無茶苦茶にして、飽きたら捨ててる」


「魂のポイ捨てはしないよう言われてるだろ?」


「ちゃんと輪廻の滝に捨ててるから問題無いだろ?」


「そうか。なら問題ないな」


 そして笑い合う二人。


 あいつらを殺そう。

 キョウヤは何の躊躇も無くそう決めた。

 自分の置かれている状況やこれから浄化されることなど頭にない。

 あるのはただ殺したいという殺意のみ。

 それは深くて黒い純粋な憎悪。

 自分の妹が同じ目にあっているのかと想像しただけで、頭がどうにかなりそうだった。


 キョウヤの瞳に赤い輝きが静かに宿った。


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