その力は誰が為に…
ある日、僕は死にました。一人の人間を助ける為に……
意識が遠のいて行く中、僕は走馬灯を見ていた。どれも下らない、クソッタレな思い出だった。走馬灯が消え、の目の前に広がるのは永遠の闇。僕は瞼を閉じ、深い眠りについた……はずだった。僕は誰かに起こされた。ゆっくり目を開くと、そこには一人の男が座っていました。これが僕の二回目の人生の始まりだった。
「おいガキ。なんでてめぇみたいな人間がこんなとこにいんだよ?」
いきなり出てきて叩き起こした挙げ句、さらにこの物言いように少年は流石にイラっとして、その顔をしかめる。
「知りません、気がついたらこんな所にいたんですよ…ほっといてください、もう僕は死んでるんです」
少年の言葉に男は首を傾げる。
「あぁ?死んだ?何訳わかんねぇ事いってんだ。死んでたらとっくにお前の事食ってるわ」
「化け物みたいなこと言いますね?頭大丈夫ですか?」
「化け物じゃねぇ!鬼だ鬼!あとお前に頭心配されるほど阿呆じゃねぇわ!」
少年の態度に男は怒りながら反論する。少年は最初嘲笑うかのような顔をしていたがふと自分が浮いたような感覚が無いことに気がつく。そこはゴツゴツした岩のような地面の上だった。ゆっくりと立ち上がろうとするとしっかりと立て。自分の体のあちこちを触りまくる。
「……あれ?暖かい?どうして!?僕は死んだはず!?」
「さあねぇ、俺も妙な音がしたから目を開けてみたら、そこにいつの間にかクソガキがいたからなぁ?」
「ここはどこ!?真っ暗で何も見えない…」
「そりゃあ、お前出口すら塞がれてんだ。真っ暗なのは当然だわ」
男は溜め息混じりに少年の問いに答える。
「出口が塞がれてる!?どうして!?」
「そりゃあ、俺が鬼の中でも最も危険とも言われた『鬼神族』の最後の生き残りだからな。封印するのがやっとだったらしいぜ?」
男の言葉に、少年は愕然としていた。
(封印?鬼神族?なんなんだよ!?訳がわからない!ここはどこなの!?)
少年は混乱している脳を一生懸命に働かせ、思考を巡らせた。そんな少年を男はじっと見つめる。
「なぁ、お前どっからどう見てもこの国のもんじゃねぇよな?異国のもんか?」
男はふと少年に問い掛ける。
「ぼ、僕は普通に日本人です。どこにこんな姿したアメリカ人がいるんですか…」
「あめりか?それは国の名前か?んな国初めて聞いたけどな」
(アメリカを知らない?そう言えば僕の事を外人じゃなくて、異国の者って聞いてきた……もしかしてここは日本だけど、現代じゃない?)
少年は男の言葉を聞き、一つの答えに至る。
(いや、それが分かったとしても、ここから出られない。出ても何も出来ない。家族に会うことも…)
少年は顔を俯けひっそりと涙を流す。静かに、ただひっそりと涙を流した。
「お前、ここから出たいのか?」
男の言葉に、少年は頷く事はなかった。
「どうやって出るんですか?いいえ、どちらにしろ、出たところで僕はどうすればいいんです…」
「お前の生きたいように生きろよ。俺もそうした。結果こんな所に封印されちまったけどなぁ。まあ出られる方法はあるぜ」
最後に男が放った一言に少年は驚いた。
「どうやって!?」
「お前が俺にかけられている封印を解けばいい。そんで俺を殺せ」
「え?」
「俺お前気に入ったわ、何か面白そうだし、付いていってやるよ」
「え?え?」
「いいか?この封印は鬼神である俺には絶対解けないけどよ。お前の体に憑依しときゃあ俺もお前もこの封印を解くことが出来る。そんで憑依するには俺は一度死ななきゃならねぇ。てこと。」
男の説明に少年はこくこくと頷く。ただ思考はあまり追い付いていなかった。
「でも、殺すってどうやって?」
「俺を縛り付けてるこの刀が唯一俺を殺せる。それ以外じゃあ、傷一つつけることも出来ねぇ」
「い、いや!それより本当にいいの!?死んじゃうんだよ!?」
「体が死んでも魂が生きてりゃお前に憑依出来るからな。まあ自分の力を誰かに託す感じになるのが癪だけどな。そうしねぇと出られねぇし」
「そ、そんな理由で!?」
「何より、お前にちょっと興味が沸いた。俺の力を使って、お前はこの腐りきった国をどう生き抜くのかな」
「…本当に、いいの?」
「…あぁそうだ、お前名前は?」
「………薫。雪風 薫だよ」
「……へぇ。良い名前もってんだな」
「………君は?」
「俺はな…刹那だ…!」
「刹那さん…ありがとうごさいます」
少年、薫は男に歩み寄り。腕に突き立てられた刀を引き抜く。鬼神、刹那は少年の顔を見て笑った。その少年は涙を流してはいたがとても良い笑顔になっていた。
とある岩山に一人の少女が祈りを捧げていた。
「…鬼神様。いつも村を御守りして頂き、ありがとうごさいます…これはせめてもの供物です」
少女は供物を捧げるとその場を後にしようとした時、大岩は大きな音を立てて左右へずれた。
「鬼神様の大岩が!?一体どうやって!?」
少女は驚いてその場に尻餅をつく。
(駄目!あ、足が動かない!?)
大岩は真ん中で綺麗に分かれ、その間から一人の少年が現れた。その少年は中で殺した鬼神、刹那が着ていた服を着た薫だった。薫はゆっくりと大岩から出て、辺りを見回した。
(やっぱり…ここは日本だ。姿はかなり違うけど。この独特の森の匂い……ここは日本の何処かの山なんだろう…何となく刹那さんの服を借りたけど……)
「あ、あの!あなたは!?」
突如とした声に薫は驚き、そちらの方を見た。そこには足に力が入らず、立てずにいた少女が見えた。
「………僕は…薫…君は?」
薫は手を差し伸べる。少女は一度躊躇ったが、ゆっくりとその手を取る。薫は少女の手をゆっくりと握ると軽々と起こした。
(軽い…いや、僕の力が増したのか)
薫は少女を起こすと、その手を離す。すると少女はすぐさま離れ、木の陰に隠れた。
「あ、あの……あなたは、鬼神様…なのですか?」
薫は少女の言葉に目を見開く。鬼神…鬼…。
(…刹那さん………)
「…いいえ、僕は鬼神ではありません。鬼神は僕にその力を分け与え、その息を引き取りました…」
薫は咄嗟に嘘をついた。何故嘘をついたのか、薫自身も不思議に思った。
「そう…なのですね…」
少女は木の陰で俯く。薫は近寄り、その手を差し伸べようとした。しかし途中でその手を引き。山を降りていった。薫は山の中腹辺りで、腰を降ろす。倒木に腰かけ、鼻をひくひくとさせる。
(味覚、聴覚、視覚、嗅覚、感覚、全てがとても良くなっている…それだけじゃない。第6感も使える。ここからでもあの娘の場所が手に取るように分かる…でも何だろう、もうひとつ感じるこの気配は…?)
薫は考えていると、ふと自分のもっている刀に目を通す。その装飾は正に神秘としか言いようがない位綺麗で、刀身も目映いばかりに輝いていた。
(刹那さん…本当によかったの?これで…本当は……)
薫は一人思いにふけっていると、それは突然聞こえた。そして聞こえた時には既にそちらの方へ足が動いていた。早かった。中腹にいた薫は、もう既に頂上までもう少しの所に来ていた。薫は頂上へ着くとその足を止める。そこには何かに怯える少女と、もう一人…いや、人ではない異形の者がいた。その姿は本で見た『餓鬼』そのものだった。その餓鬼は今正に少女を襲わんとしていた。
『ギィィィ!ギィィィィ!』
「いやぁぁぁぁ!!」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
薫は咄嗟にその行動を取った。腰に刀を構え、一気に踏み込んだ。そして鞘から一気にその刀を振り抜いた。
「うおおおぁぁぁぁぁぁ!!!!」
餓鬼に刃が食い込み、そのまま振り抜く。餓鬼は真っ二つになり、黒い煙となって消え去っていった。
「…………」
薫は消えて行く煙を見送り、その刀を振り払う。血は綺麗に消え、再びその刀身は輝く。刀身は再び鞘に納まった。薫は刀を納め、少女の方へ振り替える。その時の彼女の目は最初に見た恐怖の目とは少し違っていた。多少の恐れはあったものの、最初よりは薄れていた気がしていた。